見出し画像

GeneSourceTree -9

第九話 またね

 最終日になった。
 あのかけっこ以来、僕らは少し距離を縮めた。
 ハルの予想通りでもあり、多分予想外でもあったのだろう。
 なぜならハルも楽しそうだったからだ。
 帰りも僕らは森を通っていかなければならない。
 森の匂いがする。土を踏みしめる感触がする。
 舗装された道が見えた。
 僕とハルは近所に住んでるから、一緒に帰ることになるけど、他の三人とはここでお別れだ。
 僕たちは互いの顔を見合わせた。
 これからどこに行くんだろう。
 これから何になるんだろう。
 そんなこと、きっと誰もわからないのに分かったようなふりをする。
 これでしばらくはリアルのコミュニケーションの実習はない。
 でも、きっと森を出た僕たちは土のにおいをまた嗅ぐ。
「またね」
 シンゴが言った。ハルが返す。
「バスケ、代表に選ばれたら試合呼んでくれよな」
 シンゴは笑った。
「ハルも。プロゲーマーなんだろ?」
「え?知ってたの?」
「そりゃ、調べれば出てくるからね」
 ハルは少し驚いた顔をして、言った。
「スポーツマンはデジタルのゲームを馬鹿にしてると思ってたけど」
 シンゴは言う。
「試合のチケット、楽しみにしてるよ」
 ハルは珍しく、照れたような、恥ずかしそうな表情をした。
 トウマはシュウイチに近づいた。そして言いづらそうに口にした。
「その、悪かったな。ひどい事言った」
 屈託のない笑顔がシュウイチからこぼれる。
「気にしてないよ。また遊ぼう」
 相変わらずにこにこしている。
 屈託がないのは、過去の僕も同じだったろうか?
 そう考えかけて、僕はやめた。
 僕は僕だ。幽霊と一緒に僕は生きていく。
 目一杯。
 僕はシュウイチに声をかけた。
「じゃあね。元気で」
 シュウイチはすこしいたずらっ子みたいな笑みを返した。
 それが森の中の鮮やかな色彩と混じった。
 彼は言った。
「また、かけっこしようね」

-了-

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?