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E. faeciumとE. faecalisのバンコマイシン耐性の保持率が異なる理由


 腸球菌は、グラム陽性、カタラーゼ陰性、胞子形成性ではない通性嫌気性細菌であり、通常、環境および動物源から分離されることに加えて、人間の消化管に生息するが、近年、腸球菌は最も一般的な院内病原体の1つになり、患者の死亡率は最大61%と高くなっている[1]。

 腸球菌の中でもEnterococuss属が原因の感染症は数多く起こっており[1]、バンコマイシン耐性を獲得している菌株が多々見られる。バンコマイシンは、MRSAなどのグラム陽性多剤耐性菌に起因する感染症の治療に使用できる数少ない抗生物質の一つである。そのため、腸球菌からMRSAへのバンコマイシン耐性の伝播が大きな懸念事項になっている[4]。

 興味深いことに、E. faecalisが臨床では優占種にも関わらず、E. faeciumの方がバンコマイシン耐性の保持率が高い[1]。例えば、ある調査によると、バンコマイシン耐性菌は77%がE. faeciumで9%がE. faecalisであった[2]。その原因の一つとして考えられるのは、E. faeciumからE. faecalisへの遺伝子の水平伝播率がE. faecium同士やE. faecalis からE. faeciumへの水平伝播効率よりも悪く、E. faeciumが保持しているバンコマイシン耐性遺伝子がE. faecalisへ伝播しづらいという可能性だ[3]。実際、E. faecium から E. faecalisへの水平伝播率はその逆のE. faecalis から E. faeciumへの伝播率よりも低い[5]。加えて、E. faecium から E. faecalisへの水平伝播率はE. faecium同士の水平伝播率の約100分の1である[4]。以上のことが、臨床現場で優占種であるE. faecalisよりE. faeciumの方がバンコマイシン耐性の保持率が高い理由であると考えられる。

【参考】

1. https://www.microbiologyresearch.org/content/journal/micro/10.1099/mic.0.026385-0
2. http://www.cdc.gov/drugresistance/pdf/ar-threats-2013-508.pdf.
3. https://academic.oup.com/femsle/article/254/1/27/640817
4. https://jcm.asm.org/content/54/10/2436
5. https://academic.oup.com/jac/article/66/2/273/721524

*noteのエディタにイタリックのフォントがなかったため、属種名は通常のフォントで表記した。

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