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盲目の時計職人とチェス 【コラム】

生物学についての短編小説を書くことが多いのですが、たまたま昔読んだ本の内容を思い出したので、今日はちょっと趣旨を変えてコラムを書きたいと思います。

生命の主体は『生物』か『遺伝子』か、というちょっと前に物議をかもした話です。

・『利己的な遺伝子』という本を知っていますか?

ある本の中で、人類を含めた生物を“生存機械”と定義づけ、その生存機械の多くの行動が利己的な遺伝子の自己複製という性質に由来するとの考えを発表し、物議をかもした人物がいます。

この考えは次のように言い換えられます。『生物は遺伝子の乗り物である』。

そして同じ人物が人間のみ唯一利己的遺伝子に逆らうことのできる存在であると主張しました。

その本を書いた人物とはイギリスの生物学者のリチャード・ドーキンス博士です。

なぜ人間が遺伝子に逆らうことのできる唯一の存在であるとしているのでしょうか?

・盲目の時計職人

博士は進化という概念を盲目の時計職人という言葉で表しています。

生物の機構は驚くほど精密でありながら、その進化は恣意的なものではないというのがその理由です。

一般的にその精密な機構を作る現象は自然淘汰と呼ばれています。

自然淘汰は同種のある生物群の中の形質の変異がその個体自身の生存率や次世代に残せる個体数に差を与えるという考えです。

つまり厳しい自然環境がランダムに起きる生物の変異を選別し、結果的にその変異に方向性を与えるものです。

ある生物に起こった変異がその個体自身や子孫を生かすのに役立つのであれば、その遺伝子は後の世代に優占することになります。

そして長い時間その現象が繰り返され、生物の形質が改良に改良を重ねた結果が現在の精密な生存機械です。

表面上は遺伝子が意思を持って進化の方向を決めているように見えますがそれはあくまで結果であり、環境にそぐわぬ方向に進化した生物種が淘汰されていっただけのことです。

博士は遺伝子を盲目の自己複製子とよび、それらは非常に利己的な性質を持っているとしています。

個体が生存する結果、種が繁栄しその逆はありません。

そのため種を維持し自己を犠牲にするような行動をとる生物はあまり例がありません。

一見利他的に見えてもそれは自分と似た遺伝子を保存するための行動です。
遺伝子の自己複製の特性の域を出るものではありません。

こんな風に硬く書くとイメージしずらいかもしれません。

要するに自分と同じ遺伝子を残すために生物は自分勝手に行動している、という事です。

誰かを助けるときでさえ、自分と似た遺伝子を残すことだけが動機です。

そしてヒトの性質もその例にもれません。

・人間だけ特別か?

それではなぜヒトが唯一利己的な性質に抵抗できる存在だとドーキンス博士は主張しているのでしょう?

博士はその理由を人間の先見能力によるものであるとしています。

先をシミュレートする力は目先の利益を放棄し長期的な利益をとることを可能にします。

神経系が高度に発達した生物のみがそれを実現します。

それは遺伝子にはできないことです。

そして先をシミュレートする能力だけが、自分勝手な遺伝子から解放される術です。

・チェスをしよう

彼の著書でコンピュータのチェスを打つためのプログラムでヒトの先見能力を例えています。

チェスのプログラムはすべての局面を想定して書かれているわけではなく、あらかじめ書かれているのは戦略とルールだけにも関わらず、設計者ですら想定しなかった局面を描き出します。

確かにヒトの脳も遺伝子によって設計されている以上、予見する能力も遺伝子に定義されています。

しかし予見する能力を使って私欲のない利他的な行動をとることは遺伝子に定義されていません

それは新しい一手に違いありません。

博士は、生物は須らく遺伝子の乗り物であるという、冷淡に思える考えを出している一方、その運命に必ずしも縛られないとしています。

未来を予想するためには、必ず過去の経験を参照しなければなりません。

過去の経験とは、歴史であり、科学であり、学問です。

人類が集めた英知を学ぶことが、未来を予想することを可能にします。

だから、勉強しましょう。

とてもシンプルなことです。

そうすればきっと、我々のチェスが我々の運命を切り開くことになると思います。

・最後に

すみません。

ちょっとカッコつけたわかりずらい文を書いてしまいました。

実はこの文章は数年前に『利己的な遺伝子』を読んで、自分用にまとめとして書いたものに少し変更を加えたものです。

情報をUSBに眠らせておくのはもったいないと思ったので、ここに公開させていただきます。

この情報が役に立ったり、『利己的な遺伝子』をよむモチベーションになったらうれしいです。

ではまた。

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