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【書籍】Rob Halford "CONFESS"

 今回は、英米でリリースされたJudas Priestロブ・ハルフオードの自叙伝について触れたいと思います。残念ながら日本語版は未発表ですが、この本が通常のミュージシャンの自叙伝よりも大きく話題になっているのは、彼の生い立ちやミュージシャンとしての軌跡の面白さだけでなく、やはり彼のセクシャリティについての赤裸々な告白というエッセイ的要素が色濃いからでしょう。タイトルに敢えて「罪や愛などを告白する」意を持つConfessというかなり「重い単語」を持ってきたことからも、相当の覚悟と戦略的狙いが伺えると言うもの。

 ネタバレしてしまうと読書の魅力半減ですので(とは言え本書の魅力をお伝えするためそこそこネタバレはありますが…)、ポイントをかいつまんでおくと、本書の楽しみ方としては以下3つの視点があると思います。

 1つ目は、彼がどんな地域・家庭で育ち、どんな人格が形成され、その結果どう現在の「メタルゴッド」に繋がっていくのかを探る面白さ

 大気汚染の酷い工業都市のブルーカラー世帯で2人兄妹として生まれ育ったロバート少年。両親の喧嘩に怯える時はありつつも、ロックミュージシャンの伝記にありがちなドラマティックな親子間対立や学校での素行不良問題もあまりなく(校内Jack off事件という別の意味でヤバいやつはありますがw)、むしろ愛情に恵まれ、セクシャリティとの葛藤を除けば、ごくありふれた幼少期〜青少年期を過ごしています。ここはロブという人物を語る上では結構重要なポイントで、本書にもミュージシャンとして大成してからの有名人との微笑ましい遭遇エピソードが随所に出てきますが、良い意味での彼の「ミーハーで庶民的なパーソナリティ」は、生まれ持った気質に加えて、イギリスの片田舎のオーソドックスな家庭環境で育てられてきた生い立ちにも多分に影響されてるのではないでしょうか。芸術家集団でも政治的アジテーター集団でもなく、ポピュラーミュージックの一形態としてのへヴィメタルを時代毎に追求してきたJudas Priestというバンドの在り方の特異性は、ロブのパーソナリティの影響が大きいんだなということを、今回の自叙伝を通じて改めて実感しましたね。

 また、教師に褒められたことで自分のパフォーマーとしての才覚と快感に目覚めていったエピソードや、プロデビュー後のBBC Top of the Pop出演へのこだわり、英国王室からの招聘に大はしゃぎする姿なども語られていますが、この「他者評価」への意識もロブの生き様を捉える上では、大きなヒントになってくるかと思います。Judas Priestの楽曲やパフォーマンスにおける優れたバランス感覚とプロ意識の高さは、音楽リスナー、ファン、評論家、マネジメント、レーベル、ミュージシャン仲間など自身を取り巻く様々なステークホルダーからの「目」を常に意識していたからこそ。そのことにメンバーの中でも最も自覚的だったのがロブだということは、ミュージシャンになってからの様々なエピソードからも強く伺えます(レス・ビンクスの服装へのダメ出し、ユーロビートの人気プロデューサー集団・Stock Aitken Watermanとのコラボチャレンジ断念のエピソード等々)。また、その「他者目線」を強く持っていたからこそ、3つ目で触れるセクシャリティの問題で非常に苦悩することにもなります。

 2つ目は、ミュージシャン自叙伝の王道ですが、インタビュー等で語られてこなかった各作品の創作・制作背景を新たなに発見する喜び

 例えば、ジョーン・バエズのカバー”Diamonds and Rust”は、実はレーベルからシングル用に強制され嫌々レコーディングしたとか(その後、バエズ本人からも「息子が貴方達のカバーが一番だと言っている」と評価されて悦に入るかわいいロブ)、意外な最大のヒット曲”Take on the World”は、予想通りQueen”We Will Rock You”からのインスパイア曲と認めたりとか(頑なに「影響」と「インスパイア」は違うと言い張ってますがw)、ロブ本人も”Point of Entry”は弱い曲が多いと事実上失敗作と認めたりとか、”Turbo”レコーディング時はアル中が酷くてまともに歌詞が作れず”Rock You All Around the World”や”Wild Nights, Hot & Crazy Days”の歌詞はまるでヘアメタルバンドのようだと自ら酷評したりとか、これらはほんの一部であり、まだまだJudas Priestファンでも知らなかったようなエピソードやら、ロブ自身の現時点での評価などがてんこ盛りでJudas Priestファンであれば間違いなく相当楽しめる内容となっています。

 また、創作背景以外にも、Judas Priest結成までの経緯、メンバーチェンジのドラマ(初代ドラマー解雇のエピソードとか泣ける)、バンでの欧州ツアーの苦労話といった初期時代の懐古録はエピソード盛り沢山で非常に面白いですし、Fight ~ Two ~ Halford当時の赤裸々な告白(ライヴに思うように集客できない苦悩や、ずっと根っこに抱いていたJudas Priest復帰への熱い思い)も、なかなかインタビュー等で伝わってこなかっただけに、非常に興味深く読めました。

 最後3つ目は、創作活動・ライヴ活動の裏側で、ロブ・ハルフオードという一人の人間が、ゲイという自身のセクシャリティとどう向き合っていたかという心の葛藤の読み解き。

 まさに”Confess”の名に相応しく、この自叙伝ではここまで語るかというくらいに非常にプライベートな領域までを曝け出しています。既に小学生の頃から「男性が好き」ということを自覚しており、青少年期には指向と性の芽生えがリンク。ゲイ向けポルノ小説を隠れて買うわ、ディルドを隠れて使うわ、とエロに対してはかなり貪欲なタイプで、それはミュージシャンになってからも公衆トイレなどのハッテン場に通って成果が出ずに落ち込んだり、米国ツアー中にもメンバーがパーティーに明け暮れてる中、ひとりゲイショップツアーに出掛けたり、ゲイコミュニティの出版物で文通申し込みをするなどのアクティブな行動にも表れているかと思います。

 ただ、性に貪欲とは言え、元来純朴な田舎の青年であるロブ青年ですので、映画”Bohemian Rhapsody”で描かれていたフレディ・マーキュリーの豪放磊落な遊びっぷりとはかなり異なる印象で、彼の一連の行動に、孤独感とDT(©みうらじゅん)的な鬱屈とした気分を非常に強く感じました。金とネットワークを駆使して男漁りすることも立場的には出来たはずなのに、何故そうはしないのか?彼の本音としては、早く良きパートナーを見つけて肉体的にも精神的にも落ち着かったのだと思われます。ヘテロセクシャルな自分でもその気持ちと行動には、妙に共感を覚えましたね。

 ということで、ミュージシャンとしての順調なステップとは裏腹に、性の面では非常に苦労をするロブ。ゲイであるへの寛容度が低い時代背景もあり、ステディなパートナーがなかなか見つからないという苦悩。さらにJudas Priestでの成功、そしてメタルゴッドとしてのステータスの確立により、「自分がゲイであることが世間に知れたら、Judas Priestファンに嫌われてしまう」という懸念が、彼を大きく悩ませることに

 もちろん上記の葛藤だけが原因ではないのでしょうが、アリゾナに住居を構えてパートナー(初代同居人とは肉体関係がなく、そのこともロブを非常に悩ませた)との生活が始まったころから、彼のアルコール摂取量が大幅に増えていくことになり、彼のプライベートに加えて、創作・ライヴ活動にも影響を及ぼすまでになってしまいます。

 その後の恋愛ストーリーに関しては、映画か小説かのような壮絶な展開がみられますが、本書のハイライトの1つでもあるので、そこは是非ご自身で読まれることをお勧めします。ちなみに現在はステディなパートナーと事実婚状態であるとのことで、いまの猫Tシャツでのお茶目なインスタやゲイ関連の世の中に対する積極的な発言を見るにつけ、精神的には非常に充足しているのでしょうね。

 終わりに英語の原書となるので、読む上でのコツを。1つ目の難関はイギリスの口語英語。bloke=男、pissed=酔っぱらった、bloody + 形容詞=とても〇〇等々。通常のアメリカ英語では出くわさないような言い回しが結構出てきますので、辞書がわりにイギリス英語のスラング表現のサイトをいくつかブックマークしておくことをお勧めします。

 またエッセイなので文法的には比較的平易ではあるものの、それなりのページ数を読みこなすことも考えると、出来るだけ辞書を引く回数を減らすべく、本よりも電子書籍での購入を強く推奨します(英語圏でそれなりの期間生活されてた方は別ですが)。特にKindleの「Word Wise」機能がありがたいです。難しい単語の上に、それを簡単な英語で言いかえたフレーズがあわせて出てくるので、そもそもの辞書を引くという行動自体もしなくて良いので。

 というわけで、Judas Priestファン必読の一冊。非常に読み応えあります。

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