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Best Metal Albums of 2021

 改めて2021年のメタルシーンを振り返ってみると、ポストメタルの新たな萌芽の感じられるサウンドの登場、ニューウェーブとメタルの今までにない新たな融合アプローチなど局所的には面白いものは発見できたものの、シーンを大きく揺れ動かすような特徴的なサウンドや、新しいスタイル=サブジャンルは登場してきておらず、メタルというジャンルを音楽的に大きく発展させるような衝撃的な音・スタイルにはあまり出会わない1年ではありました。ただ一方で、個人的に年初から期待していた「メタルサウンドにおけるボーカルの復権」というテーマに応えてくれるアーティストの作品が数多く登場してくれたこともあり、音楽生活的には非常に充実した1年でもありました。演奏や音作り、素材の組合せの斬新さ競争が一段落し、アプローチは様々ながらも、多彩なボーカルメロディづくりや全体のサウンドデザインにおけるボーカルの存在感を意識するアーティストが増えたように感じています。これはやはり新型コロナの影響とは無縁でなく、人との直接的なコミュニケーション機会が極端に減ったからこそ、音楽にも人の存在感やエモーションを感じたくなるし、演者側もそれを意識するという構造なのかなと思っています。
 そういう意味では、今年のセレクションのポイントの1つは、「ボーカルメロディ」と「歌の力」。サウンドの独自性・創造性を担保しながら、同時に歌モノメタルとしての完成度の高さに焦点の置かれた作品が多く選ばれているかと思います。もう1つのポイントは、確固たる独自の音楽性を確立させた大御所による更なる領域拡張のチャレンジ。自分達に求められているものをきちんと把握しながら、その個性をコンテンポラリーなシーンの中でどう価値あるものとして位置付けていくのかに果敢に挑戦した大御所バンドの作品を意識的に選出しています。なお、今年も昨年同様に25枚の作品を選んでいますが、全体のクオリティの高さという意味では、ここ数年では一番の「当たり年」だったように感じています。

 それでは、まずはトップ10の紹介から。

 01. Helloween - Helloween
 02. Cynic - Ascension Codes
 03. Gojira - Fortitude
 04. Soen - Imperial
 05. Vola - Witness
 06. Mastodon - Hushed and Grim
 07. Leprous - Aphelion
 08. Volbeat - Servant of the Mind
 09. Cryptosis - Bionic Swarm
 10. Between the Buried and Me - Colors II

 1位は、マイケル・キスク&カイ・ハンセンの復帰により7人体制となったHelloween。自分にとってのメタルワールドの入口となってくれたバンドに当時の主力メンバーが復帰ということで、若干冷静な視点を欠いているところはあるかもしれませんが、楽曲と演奏の充実度という点でみれば、ハロウィン史屈指の傑作に仕上がっていると思っています。成功のポイントは、①キスクの伸びやかな高音による圧倒的な高揚感と流麗なハロウィン節の復活、②アンディ期楽曲アプローチの肯定(安易な「守護神伝」回帰の否定)、③実力派Vo2人を活用したツインボーカルの効果的アレンジ(デニス・ワードの貢献大)、④楽曲平均値の圧倒的高さ、⑤アナログ感あるマイルドなサウンドプロダクション。安直な黄金期再結成路線ではなく、この7人体制のハロウィンだからこそ出来るアプローチに果敢に挑み、新たな魅力を開拓してくれたことが嬉しいですね。思い入れ込みでのNo.1選出です。
 2位は、サウンドの個性を大きく特徴づけていたリズム隊の逝去という逆境を乗り越えたプログレ/テクニカルメタルの大立者Cynicの4th。正直凡作だった前作から一転、スペイシーで緊張感漲るCynicサウンドが復活。音圧的なメタル感は希薄ですし、サウンドの肌触りとしてはアンビエント的でもあるのですが、ポール・マスヴィダルの脱力した独特の浮遊感溢れるボーカルメロディと、人力ドラムンベースのような手数の多いマット・リンチのドラムとが絡み合うことで、クールな質感なのに不思議とテンションが上がる摩訶不思議な感覚が味わえます。これこそがCynic唯一無二の個性。爽やかさと切なさと激しさを織り交ぜた緩急の激しい楽曲ながら、難解な印象は皆無で、歌モノメタルとしても十分堪能できる、ある意味キャッチ―な作品に仕上がっているのが驚異的。
 3位は、フランスのコンテンポラリーメタルの大御所Gojiraの7th。シーンの最前線を常に意識した実験的ヘヴィサウンドから、歌に比重を置いたサウンドデザインへの移行に関しては世界中で賛否両論があったようですが、以前記事にも書いた通り、トライバルなメタルサウンドを、「祈りの音楽」のような魂の叫びを封じ込めた音楽へと発展させ、メタルの音楽的可能性拡張に成功した歴史的名盤というのが自分としての本作の評価。エモーショナルな歌モノメタルとしての側面は勿論のこと、リフミュージックとしても実に味わい深い作品に仕上がっています。 
 4位は、スウェーデンのプログレ/オルタナティブ・メタルバンドSoenの5th。ToolやOpethの影響下にあるプログレメタルバンドという印象を払拭するかのような、70~90年代の優れたクラシックロックバンドが持っていた「歌」の魅力を最大限に引き出す、王道的なサウンドデザインにシフトチェンジ。ボーカルの骨太かつエモーショナルな歌唱が曲全体を牽引しながら、オルタナティブメタルやプログレッシブロック的アプローチで、曲自体の持つ叙情性を更に盛り上げることに成功しています。全曲リーダートラックとして通用するような楽曲作りの平均値の高さもポイント。
 5位は、デンマークのプログレメタルバンドVolaの3rd。MeshuggahやOpethを彷彿とさせる鋭角的なヘヴィなサウンドに、ヨーロッパのバンドならではの憂いに満ちたクリーンな歌メロが乗るというスタイルですが、彼等のユニークネスを際立たせているのが、その非凡なメロディセンス。Marillionなどのポンプロック勢やColdplayやRadioheadなどのUKロック勢にも通ずる、透明感の感じられるメランコリックなメロディの魅力を存分に堪能できます。歌の力で聴き手を圧倒するのがSoenやLeprousだとすれば、儚げなボーカルメロディの質感で聴き手の琴線を激しく揺さぶるのがVola。特にM3‐”24 Light-Years”の透明感あるメロディの妙味は筆舌に尽くしがたいものがあります(今年のベストソング!)。
 6位は、USのスラッジ/プログレメタルの大御所Mastodonの8th(2枚組)。王道メタル、プログレメタル、ポストメタル(ロック)、シューゲイザー、スラッジメタル、ストーナーメタルなど、コンテンポラリーなメタルサウンドの要素を全て飲み込んで、Mastodon印のサウンドとして再構築し、楽曲によっては更にオリエンタルな要素やサイケデリックなスパイスまで振り掛けた意欲作。”The Hunter”以降のシンプルな楽曲構築術とは一変。聴けば聴くほど発見のある深みある楽曲づくりに徹していますが、歌モノメタルとしての成立性もきちんと担保しているところが素晴らしい。
 7位は、ノルウェーのエレクトロニカ/プログレメタルバンドLeprousの7th。19年の名盤”Pitfalls”(その年のベストアルバムに選出)で、モダンなエレクトロ系のサウンドテクスチャーを大胆に血肉化した最先端のプログレッシブロックを提示してくれましたが、本作ではEinar Solbergの圧倒的な歌唱力を前面に押し出したサウンドデザインに徹することで、まるで演劇を観ているかのようなスケールの大きな叙情的世界観を描くことに成功しています。ジャンルを超越した音楽としての力を感じさせてくれます。
 8位は、メタルxロカビリー/パンクサウンドのユニークさで世界中で売れまくったデンマークのメタルバンドVolbeatの8th。90s以降のMetallicaをベースに、80sメタル(メロハーからDIOまで)からメロコア、ポストグランジ、ロカビリー、サーフ・ロック、ハートランド・ロックに至るまで、多彩な要素を散りばめた、さながら米国のメジャーなロック史総ざらい的な感じの作風。味付けは多彩ながらも、基本はザクザク刻まれる分かりやすい重量級リフに、すぐに口ずさめる圧倒的ハイセンスなメロディのコンビネーション。このメロディセンスがあれば一生食べていけるな、と思える見事な出来映えです。
 9位は、オールドスタイル・リバイバル系のスラッシュメタルバンド・Distillatarからバンド名だけでなくサウンドも一新したオランダCryptosisのデビュー作。殺傷力の高いテクニカルなスラッシュメタルをベースに、プログレやオルタナティブの要素も加えたドラマ性あるサウンドは、スイスのCoronerやカナダのVektorとも共振性を感じさせる芸術性の高いスラッシュメタル(VektorとのスプリットEPも出している)。テクニカルデスメタル勢のそれとは一味異なる巧みなアレンジセンスを存分に体感できます。
 10位は、USのマスコア/テクニカルデスメタルバンドBetween the Buried and Meの10th。バンドの代表作である”Colors”(07年)の続編という位置付けの作品ではあるものの、”I”が奇想天外なマスコア作だったのに対し、本作”II”は最高品質のプログレ。良い塩梅でメタルの構築感やドラマ性が加わったことで、楽曲の表情も多彩になり、聴きやすさも倍増。トミー・ジャイルズ・ロジャース・Jrのボーカルもグロウルやシャウトだけでなく、以前とは比較にならないくらい多彩な表情を見せており、まさに”Colors”な作風づくりに多大な貢献をしています。Mr.BungleやWaltariのようなユーモアを交えたキャッチ―なアヴァンロック好きにおススメの1枚。

 続いて、11位~20位まで。

 11. Subterranean Masquerade - Mountain Fever
 12. Dream Theater - A View from the Top of the World
 13. Powerwolf - Call of the Wild
 14. Iron Maiden - Senjutsu
 15. Loudness - Sunburst ~ 我武者羅
 16. Trivium - In the Court of the Dragon
 17. Flotsam and Jetsam - Blood in the Water
 18. White Void - Anti
 19. Unto Others - Strength
 20. Hacktivist - Hyperdialect

 11位は、イスラエルのプログレッシブメタルバンドSubterranean Masqueradeの5th。本作が初体験ですが、これは掘り出し物の1枚。Orphened Landのエスニックな香りに、System of a Downの攻撃性と変態性、Kingston Wall のサイケデリック&ジャジーな感覚、Amorphisの叙情性をブレンドしたかのような、摩訶不思議なのに親しみやすいという絶妙なバランスで成り立ったサウンドが堪能できます。
 12位は、USプログレッシブメタルの第一人者Dream Theaterの15th。久々に良い曲が多く揃った感じがします。ヴァース~ブリッジ~サビのメロディや曲展開が自然に入ってきますし、かと言って、媚びた感じもしないのが良いですね。ダークでシリアスな雰囲気の中に力強いメロディを感じさせるところは名盤”Awake”(94年)的かも。
 13位は、欧州では大人気のドイツのパワーメタルバンドPowerwolfの8th。低音ボーカルに大仰なクワイアというSabatonにも通ずる重厚なパワーメタルスタイルですが、特筆すべきはサビメロのポップさ。アレンジを変えればほぼメロハーという点では、Ghostにも共通する職人技を感じますね。
 14位は、Iron Maidenの17th。派手さはないですが、ブルース・ディッキンソンの力強い歌を軸にじわじわと盛り上がるエピカルな曲が多い良盤。2枚組ですが、即効性の高い名曲がM2、3と続くのでアルバムとしてのインパクトも強いですね。リーダートラックのM3-”The Writing on the Wall”では、今までにないアーシーなアプローチを採り入れるなど、ここに来てもまだ攻める姿勢を緩めないところがまた素晴らしい。
 15位は、結成40周年、日本が誇るメタルバンドLoudnessの29th。「エネルギッシュなハイトーンVoとギターヒーローのコンビネーション」という80sメタルの醍醐味を、コンテンポラリーなメタルの音像・アプローチで発展させようとする強い意志を感じさせてくれる良盤。キャッチーさを増した”Eve to Dawn”(25th)といった趣。こちらも2枚組ですが、楽曲の表情もアイデアも多彩なので長さを感じさせません。
 16位は、メタルコアのベテランTriviumの10th。昨年発表の前作も充実してましたが、今回も楽曲の出来が良いですね。今回は特に縦横無尽に駆け巡るギターソロが凄まじい。テクニック、メロディ、駆け抜ける爽快感、展開の妙味という点で、他のメタルコアバンドの追随を許さない圧倒的な完成度を誇っています。
 17位は、USパワー/スラッシュメタルの大ベテランFlotsam and Jetsamの14th。ブルース・ディッキンソンばりの圧倒的歌唱力を持つエリックAKのパワフルな熱唱を主軸にしたスピーディーなパワーメタルサウンドが存分に堪能できる良盤。ドイツ他でチャートTop10入りするなど、パフォーマンスも人気も今がバンド最盛期であることを感じさせてくれます。
 18位は、ノルウェーのマルチプレーヤー・Las Nedland率いるハードロックバンドWhite Voidのデビュー作。サウンドは、リバーブの掛かった音像の中、ニューウェーブ風のVoメロディとオルガンによる分厚くサイケデリックなサウンドを融合させた、プログレッシブな70年代風ハードロック。他に同様のアプローチのバンドも少なく非常にユニーク。
 19位は、USのゴシックメタルバンドUnto Othersの2nd。このバンドも80sニューウェーブのテイストを感じさせてくれるバンドで、基本はメタルなんですが、ボーカルメロディや演奏にSisters of Mercy、Killing Joke、The Smithなどのニューウェーブ系バンドの雰囲気を多分に感じさせてくれるのが面白い。ダサカッコ良さのあるバンド。
 20位は、UKの2MCを擁するDjent/ラップメタルバンドHacktivistの2nd。Meshuggah以降の硬質なDjentサウンドに、攻撃的なラップを絡めた即効性の強い音のインパクトは絶大。スタイル的な面白さだけに依存せず、個々の楽曲のクオリティの担保に非常に気を使っている点も評価のポイント。スタイルこそ違えど、Code Orange的な狂暴性・躍動感を味わえます
 
 最後に21位~25位。 

 21. Archspire - Bleed the Future
 22. Serenity in Murder - Reborn
 23. Carcass - Torn Arteries
 24. The Crown - Royal Destroyer
 25. Dvne - Etemen Ænka

 21位は、速射砲ボーカルも含めたメンバーの超絶テクでシーンの度胆を抜いたArchspireの4th。極限のスピード、攻撃性、テクニック追求とキャッチ―さの融合。全てが「やり過ぎ」で笑っちゃうくらい気持ちがいい。まるでテクデス界のDragonforceといった趣。
 22位は、日本のメロデスバンドSerenity in Murderの4th。ボーカルが現役レースクイーン・Ayumuに変わってから初の作品。あまりメロデスに精通していない自分でも驚くくらいの壮大でドラマティックな作品。BURRN!前田氏の「史上最も美しいメロディック・デス・メタル・アルバムの1枚」という言葉も決して大袈裟ではないと思います。
 23位は、「リヴァプールの虐殺王」ことデスメタル界のレジェンドCarcassの7th。”Heartwork”のような飛び抜けた曲はないですが、求められる路線で自分達の際立った個性をきちっと提示してみせた良作。洗練とは無縁の独特の「汚さ」を保ちながらも、Megadethなどのメジャーバンドにも通ずるスケール感ある「今の音」に仕立てているのが流石。
 24位は、スウェーデンのデスラッシュバンドThe Crownの11th。前作は知性のかけらも感じさせない爆走デスラッシュで最高でしたが、今作も基本は爆走デスラッシュ。そこにメロデスやロックンロール的要素も絡ませて、飽きのこない作品に仕立ててるところに、ベテランならではの職人芸を感じます。
 25位は、UKのスラッジ/ポストメタル/プログレメタルバンドDvne(デューンと読むらしい)の2nd。スラッジ―な攻撃性と同時に、往年のプログレバンド的なウェットなメロディも採り入れたサウンドが特徴。緩急を織り交ぜたスケール感ある展開が楽しめます。

 これらの作品以外にも、Exodus、Tribulation、KK’s Priest、Pupil Slicer、Cradle of Filth、At the Gates、Tetrarch、The Ruins of Beverest、Devil Sold His Soul、Spiritbox、Rageなど、充実した作品が多かった1年でした。

 最後に毎年恒例ですが、25枚のアルバムから2曲ずつピックアップしたPlaylistをYouTubeで作ってみましたので、こちらもお楽しみください(Loudnessのみ曲がアップされていないため、代わりにExodusを入れてます。ご了承ください)。


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