「水車小屋のネネ」 夜中の2時半に読み始め、朝まで一気に読んだ。 心の隅々まで、朝露のような無垢の珠が転がって、塵芥を吸い取ってくれるような本だった。 辛い場面や悪人だってちょっぴり出てくるのだけれど、それを凌駕するひとの温かさに洗われる本だった。 良心や親切ということばは、なんとなく斜に構えたり偽善やけれん味が加わったりして素直に受け取れないことが多いけれど、ここにある良心や親切は、その直球が剛速ではなく少し緩めなので、気持ちのミットにスッと収まってくれた。 泣けるほ
11/23、備忘録。 素晴らしいLIVE、音場だった! ブルーズアレイというライブハウスには、何度もお世話になっている。 大西順子さんのライヴ、三沢またろうさんのライヴ、10年前には働く店の30周年記念セッションパーティーで、なんとアマチュアバンドでステージに立たせていただいたこともある。 その場所が、すごいことになっていた。 あちこちに置かれたドラムセット、パーカッションのステーション、ピアノやキーボード。 出演者たちはその島々を渡り歩きながら、四方八方から音のシャワ
先日までの低気圧でずっとしていた耳鳴り。そこで思い出したこの歌。 じんじんとこころの奥は暗くしてさびし耳鳴りただわれのもの 緑道に植わる木が風に揺れるのを見た。そこで思い出したこの歌。 見せたやな百日紅の花なよなよと薄もも色が風にゆるるを どちらも原爆被爆歌人、正田篠枝さんの作品だ。 三十代の日々、毎年夏になると必ず読み返した武田百合子「富士日記」。この中で、このさるすべりの短歌を知った。百合子さんの引用では「風に揺るるを」のところが「風になびくを」になっているけれど
大好きなピアニスト、内田光子。 小さなホールの鳴りを息遣いを閉じ込めた清冽な音に結晶して聴かせてくれている。 ピアノを始めた頃、辿々しい指先で父が弾いていた「楽興の時」を覚えている。娘には自在に弾かせたくてか、月賦でピアノを買い、楽典の初歩を教えてくれたりもした。 即興曲OP90(D899)の四曲は、そこからの十年でやっと弾けるようになった、思い出深いシューベルトである。 内田光子は糸を紡ぐように、機を織るようにシューベルトを弾く。仙女のごとき風貌と、老いてなお力強い指さ
「一度きりの大泉の話」 これは…。 70年代、前の家のお姉さんが読み終わった漫画雑誌をくれて、マーガレットも少女フレンドも少女コミックも読めた。小学生の時はなかよしとりぼんを妹と買っていた。三原順に傾倒し花とゆめも読んだ。 だいたいの有名少女漫画は通過している。 個人的にはBLを好まないので、竹宮惠子はきれいな絵を描くなあというだけで終わったが、萩尾望都は妙にハマった。SF、ブラッドベリが好きなこともあったけれど。今思うとわかる。萩尾望都は少年愛を描こうとはしていなかっ
旅する練習 読んだ 静かに泣いた この人の語り口が好きだ!と 豊崎由美さんは書いていたけど 本当にそうだ 大好きだ 「最高の任務」も本作も この夢見のよさはどうだ 風が吹き抜けていく心地よさはどうだ 差し挟まれていく風土記、古典、 時を縦横に駆ける闊達はどうだ 手賀沼から鹿島までのロードノベルは 水鳥小説であり リフティング小説であり ジーコ小説であり 水辺小説であり 真言の小説であり 書く人のための小説であり もちろん 旅の小説である 感動を忍耐せねば、なのに こ
「推し、燃ゆ」読んだ。 すごかった、ほんとに。 帯を見たら高橋源一郎さんもまったく同じ言葉を寄せていらした。 切実でするどくて、ギリギリと痛む。 寒い部屋の暖房をつけるのも忘れ、冷たく痺れる手でページを繰り一気に読み切った。 燃える、熱に浮かされる高い場所と、青く冷え切った底辺の場所とが、くるくると削りながら見える鉛筆の芯のように目の奥を射抜く小説だった。ピンクのカバーを開けば青く光る扉。ゾクゾクして、叩きつけられる。痩せてのたうつ体の重みをそれでも質量として感じる心。
いいオーディオ環境で聴いたのではないので、あくまで主観なのだけど。 ベートーヴェンピアノソナタ「アパッショナータ」(熱情)を聴きたくて、 バックハウス🙁 ポリーニ😑 辻井伸行😓 ケンプ🙂 ときて、 アシュケナージ😃! やっぱり若い頃聴いた刷り込みなんだろうか。70年代のアシュケナージ凄い。 クリスプで、ペダリングの余剰(濁り)がなく、流れに乗っていて、肝要な音の打鍵が深い。 まあ、好みの問題だろうけど。 で、悲愴を聴き、告別を聴き、 勢いのままに、 久しぶりに28番と最後
今週読んだ二冊。 かたや、悲喜交々のおじさん讃歌。 かたや、おじさん達が絶滅する話。 …なのだけれど、 どちらも、とてもよかった。 息子の成長譚と英国生活を活写した前作「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」がとてもよかったブレイディみかこ。この人のロケンロー文体は同世代感に溢れていて大好きだ。新刊は、配偶者やその周りのおっさんな友人たちについて書く。ブレグジットをめぐるリアルな世相を背景に、ちょっと昔のロック流れるいきいきした文体で、かつてのヤンチャな若者が迎え
友人がユーミンの「時のないホテル」の一曲を挙げた投稿をしていて、 なかば小っ恥ずかしい黒ならぬ灰色歴史なのかもしれないが、 同アルバムの「5㎝の向こう岸」という曲を、高2のときに人前で演っちゃったの、思い出した。 ユーミンの小説のような歌詞と甘くタメのあるメロディは今聴いても最高。 一つ上の先輩の卒業コンサートということで、もちろんベタに「卒業写真」なんかも演ったのでした。ははは。当方ピアノ&ボーカル。 のちに、働いてるお店で、この曲のあのいかしたギターを弾いた御方に出逢
下北沢B&Bでの発表会が中止になり(残念)、 YouTubeのLIVE配信で視聴した 第十回Twitter文学賞。 国内文学、海外文学、前年に出版されたもののなかから各一点だけ、投票できる読者賞。 今回、私の投票作品はふたつとも第一位! 海外部門 ルシア・ベルリン「掃除婦のための手引き書」(岸本佐知子訳) 国内部門 佐藤亜紀「黄金列車」 昨年はここ十年でもっともガイブンを読めた年だった。本屋にいる時よりも。 ルシア・ベルリンは、一昨年、岸本佐知子さんがイベントでその数編
初冬の控えめな暖かい陽射しの下、八百屋さんで賄いのポトフ用の人参を買って、ゆっくり歩いた。 毎年、桜の木の紅葉黄葉落葉が綺麗だきれいだと言っている。今年もまた、そう思う。一枚の葉にいろんな色が入っている。 錦織りなす紅葉の絶景もよいけれど、近所の木の風情にもしっかり季節が染みこんでいて心和む。 ぽっかりと、なんだか不思議に空いてしまった期間。 居ないのだけれど居るような感覚。 武田百合子「富士日記」はところどころ暗唱するほど読んだ本だが、「(愛犬)ポコが死んだとき空が真っ青
先日、東京駅から高速バスに乗り、 水戸芸術館に行ってきた。 大竹伸朗「ビル景」展。 力強く塗り重ねられた絵の具のタッチ、 細かい窓にのぞく小景たち、 無数のスケッチ、コラージュ、立体… エネルギッシュな作品群に圧倒されて、 首が痛くなるまで見て回った。 テーマである人工の「ビルディング」の堅固さと儚さ、さらに廃墟や幻影まで、 40年の画業に溢れる生命力、目ヂカラと腕力。 すごい。すごいとしか言えない。 とても私の腕とスマホでは捉えきれない。 そして、先日のミュシャ展でも思
2月26日。 あの日の雪を私は知らないが、事件は史実として習っている。 今日はその日だからこの本のことを書かねばなるまい、 奥泉光「雪の階」。 三島か谷崎か、煌めく典雅な文体と、 漱石のようなユーモアを織り込む人物描写。 昭和のはじめ、という時代と風物が鮮明に描かれ、 ミステリとしても、多弁の花びらが一枚ずつ落ちていくようなスリルがあった。 早く先を読みたいが、この絢爛たる、多人称の視点が交錯する文体もじっくり味わいたい… 微熱のあった冬の日、 そんな相反する二つの思いを抱
昔、電車の中で開高健のエッセイを読んでいて、名前表記を間違われる件について、「開口健様と書いてきたのがあって、これには閉口した」というところで爆笑してしまい、車内の顰蹙を買った。 先日、ヒッキーヒッキーシェイクの文庫版361ページで同じく爆笑してしまい、車内の冷視を浴びた。 これはひとことでは言えないネタなので、興味持った人は最初から読んでください☺️ 写真右の、幻冬社刊の単行本カバー。このタッチに見覚えある人は多いでしょう。あの、リボルバーのジャケットを描いたベーシス