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「隠れ家的なお店」にたどり着けない男

何を食べるか、誰と食べるか

「何を食べるかよりも、誰と食べるかで美味しさは変わるから。」

 そういうことを言う人がいますが、それはもちろん正しいと思います。デートだからといって常に良いお店を選ばなくても、めいっぱい楽しんだ後でファミレスや牛丼屋で食事した時だって美味しく感じられます。

 だがしかし、一緒に食べたい人と、本当に良いものを食べられるのならそれが最高ではないでしょうか?

 そう考えた当時の私は、食通の上司が自信を持って勧めてくれた、心斎橋の隠れ家的な和食居酒屋「和っか」に女性を誘いました。

Google Map を過信するな

「その店、裏路地に入ったわかりにくい所にあるからな。」

 上司にはそう言われたのですが、「食べログ」で調べてみると心斎橋駅前の大丸のすぐ近く。案外わかりやすいじゃないか、と安心しました。第一、いまどきはスマホで Google Map のナビ機能に従えば迷うことはないのですから。気軽に行こう、と余裕で当日を迎えました。

 そして当日。心斎橋の大丸前で女性と合流して、Google Map のナビに従って心斎橋筋商店街を抜けました。

 それから20分後…。おかしい。たどり着けない。カラオケ屋の横にある細道を入ったところだというからこの辺のはずなのに、なぜ駐車場しかないんだ…。さっき、「目的地に到着しました」とピンが立ったところも全然違うお店だったし…。予約の時間を過ぎているぞ…。

「あの…。私、何だったら他のお店でも構いませんけど…。」

 女性に気をつかわせてそんなことまで言わせてしまった時にはもう、この勝負は戦う前から負けています。その後なんとかたどり着けたものの、ひどく情けなく、申し訳ない気持ちになりました。

あれから五年後

 あれから五年ほど経った今。その時の連れの女性とはあの日を最後に会うことは無かったのですが、仕事で心斎橋に出入りしている今、「和っか」の料理の味を思い出し、仕事終わりに行ってみよう、ということになりました。

 事務所を出て心斎橋筋商店街を少し進み、大丸のあたりで商店街を出て、カラオケ屋の横にある細道を…。あれ、あの時に見た駐車場まで迷い込んでいないか。

「もう、迷子になってるやん!」

 いかん、ピンチだ…!今回もまた、Google Map のナビを使ったにも関わらず迷子になってしまった。人は過ちを繰り返す。

 今回も20分近くさまよいながら何とかたどり着き、店員さんに聞いたところ、このお店にたどり着くために通る裏路地は私道にあたるそうです。私道に入り込むと不法侵入にあたる場合がある為、Google Map のナビでは私道に案内できないルールになっているようです。

 心斎橋の「和っか」は文字通りの「隠れ家」と言えるほどわかりにくいですが、迷子になる覚悟をしてでも行く価値はあります。料理は彩り豊かで美しく、素材にこだわっていてとても味わい深いです。僕はこの歳になってはじめて生ガキを食べましたが思わず感動しました。

 道はもう覚えたから大丈夫…。結局、この近くにある別のカラオケ屋と間違えたので駐車場に迷い込んだのでした。

心斎橋 和っか