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スターになりきれなかった少年、西川遥輝ーファイターズの11年間は終わり、再びプロ野球の海へ漕ぎ出す旅が始まるー

今季シーズン終了後、北海道日本ハムファイターズからノンテンダーやらいう自由契約となった西川遥輝選手が、楽天イーグルス入団の運びとなった。

2010年ドラフト2位で入団。当初から同期入団の谷口雄也とともにトップアイドル選手として人気者だった。肩の治療が癒えてきた2年目から一軍に抜擢、内野手でスタートしたが、外野転向で本格化する。球界屈指の俊足で、高レベルの盗塁技術をもち、盗塁王も4度獲得。広い守備範囲でゴールデングラブの常連となる。

2020年オフ、ポスティングでメジャーリーグへの挑戦を目指すが挫折。そのあと球団は2億4000万円の単年契約し、残留と報道があった。

ファイターズには経済的にいろんな事情があって、選手の年棒の範囲は決まっている(と報道されてきた)高額年棒ーだいたい2億から3億を超えていくあたりからとFAかトレードかで移籍していく。目立ったところでは、ダルビッシュ、糸井嘉男、陽岱鋼…小笠原道大もそうだったのかもしれない。

その傾向でいくと、遥輝くんの立場は、その時点で放流されても不思議でなかったし、ゆえに球団は、メジャーへの挑戦に快く背中を押しているんだと思っていた。ただし彼が果たしてメジャーからオファーされるかどうかはかなり危ぶんで見ていたけど。

なので高額で再契約したのは、ちょっとびっくりしたのだったが、2020年の成績は、コロナ禍の変則スケジュールの中でもメジャー挑戦を前提に必死のぱっちで頑張った3割超えファイターズらしく数字に準じた評価だったのだろう。

しかし、メジャーに行くつもりでいた西川遥輝の挫折感は、2021年のシーズンを通じて、結局は、消せなかったのか。コロナ感染の影響もあったのか。ついに本来の集中力を見せることは、一度もなかった。

11年間見てきたファンの目からでしかないけれど、今年の遥輝くんは、如何せんゲームに入り込むことができず、思う通りにならない気持ちを持て余しているように見えた。元々むらっ気の強い選手だが、そもそも幼いところがある。小さな子供のようにごんぼほるみたいな。

そういう側面が、ベンチでの態度の悪さとして捉えられ、SNSで流されたりしてしまう。誰もが遥輝のファンで、誰もが11年間、どんな風にファイターズで過ごしてきたか見てるわけではない。一部分を切り取られ拡散されて、偏ったイメージだけが広がっていく。

にしても、本人の自覚の不足は否めない。もう来年は、30歳になる。大人なんだから。いつまでも子どもみたい、そんな遥輝くんがすごいプレーをするのが素敵💖ギャップ萌えだけでは、やっていかれないと野球の神様は告げるのか。

大人になれ、自分で考えられる人間になれ。それだけが、勝つために必要なことー

このnoteでファイターズのことを書くようになって3シーズン。わたしは言い続けてきた。間違っているとは思わない。必然として若い選手が主体とならざるをえないファイターズでは、プロ野球という特殊な社会の中で「大人になる方法」を教える先輩という名の年長者がどうしても少なくなる。

チームには、だから年齢構成のバランスも必要なはずだけど、ないものはない。その中で若い選手たちは、ほとんど自力で大人にならなければならなかったから。成功例は、中島卓也、上沢直之。近藤健介、松本剛…といった面々だろうか(といっても中島くんには田中賢介という師匠が、投手陣には宮西尚生という先輩がいるんだけれども)

野球の成績も年棒も一流になってはいるけれど大人にはなり切れなかった。同時に真実のスター選手にもなり切れない。それが、中田翔であり、西川遥輝だったように、わたしには見える。

ものすごく難しい。プロ野球の世界では、結果が全てだ。成績を出した者が偉いのだし、球団に契約の保留権があると同時に、選手は個人事業主である複雑というか矛盾した関係の中で。若いうちは、チームも指導者も周囲の人々もあれこれ口を出したり、何かあれば注意したり、諭したり、促すことはできるだろう。だけど、一旦成績を挙げ、額面上は「自立した選手」となった時は、どうなんだろうか? 

「子どもっぽい男」は、ある意味、愛されやすい。ことさら西川遥輝の場合は、プロ野球選手としての魅力が、そこに詰まっている。彼の性質は、得意の盗塁に現れるように、ひたすらに「危うさ」にかかっていて、ギリギリのバランスを爪先立ちで走っているような。キリキリと過剰に貪欲に練習する態度。別に真摯な努力家だというわけではなく、それが彼自身の欲望だから、そうするというような。

智弁和歌山で「骨が折れても野球はできる」と名物監督に叱咤され、試合に出続けた少年に植え付けられた、サディスティックでマゾヒスティックな精神性は、残酷なまでに彼を支配するーと言ったら穿ち過ぎだろうけれど。

自分自身を痛めつけるーことによってしか、自分自身を制御できない。その制御のリミッターが外れるとき、西川遥輝の才能は、身体から漏れ出して、引火され爆発するーゆえに円満に持続させるのも難しいのだったが…。

勉強が嫌いで、頭も良くない自分は、野球でしか生きていけないー高校生の時に自覚した(「西川遥輝メッセージブック」にそう書いてあった)少年は、その青年期をファイターズで過ごし、別れの挨拶もできないまま、去っていく。

わたしたちのスピードスター、ハルキング、かっこいい同期。

ただただ生き抜いて欲しい。プロ野球の荒波の上に、再び漕ぎ出していくのなら。もう一度、本物のスターになるために。

わたしたちの遥輝くん、さようなら。


そして、また会いましょう。

杜の都 仙台で 輝け 西川遥輝。


(文中敬称略)








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