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ある日布団がなくなったと思ったら。

旦那が出て行った。

私たち夫婦は二人の息子が進学と就職で家を出た3年前から、仮面夫婦だったから、いつかこの日が来ることは覚悟していた。

ことの発端は1週間前の日曜日。天気がいいから布団を干そうと思って押し入れを開けたとき、あれ?いつも布団が1枚足りない…軽い気持ちで旦那に聞いてみた。

「ねえ、布団知らない?押し入れにも無いし。どこにも無いんよね」

「いや、あれ持って行った」

「は?どこに?」

「まあ、座って。話がある」

まだこの時点では、このあとに起きるいざこざは全く想像してなかった。 ゲロでも吐いて布団処分したの?なんて冗談言ってたくらい。でも旦那は笑わない。聞けば、職場の近くに家を借りてそこに布団を持って行ったとのこと。それはかなりの衝撃だった。でもそれより驚くというか呆れたのは、

原付で布団を運んだということ。

悲しいんだか虚しいんだか訳のわからない感情がぐわーっと湧いてきた。

旦那はこの20年間、片道18Kmある職場に原付で通勤していた。台風の日も雪の日も。車使っていいよと言っても、山に行くのも実家へ帰るのもいつも原付を使っていた。余談だがいつも安全運転で1回もスピード違反で捕まったことはない。うちからその新居へのルートを考えてもかなりの街中を通っている。原付で布団を運ぶおっさんの姿を思うと情けなくなってきた。なんで布団だけ持っていったんだろう。なんで?

そもそもめちゃくちゃ面倒くさがりで休日も1つの用件を済ませるのがやっとの人が、短期間で家を探し、実際に借りていることに衝撃を受けた。長男の結婚が決まり、家族揃って顔合わせをやったのは1週間前。その時すごくご機嫌で家族4人で飲みにも行ったのに。なんで?

確かに7月に結婚生活も終わりかと思わせる出来事はあった。

私が友達と遊びに出かけている時に、普段全く連絡を取らない旦那からLINEがきたのだ。

「子供たちも独り立ちし、そろそろお役御免かねと思うのです。いやはや」

「は?「「どういう意味?」

そこから先は、友達と何を話したか覚えてない。ずっと旦那の悪口を言ってたくせに、自分でも信じられないくらい動揺していた。手が震えてた。心のどこかでどんなに私が嫌いと思っていても、旦那の方から離れることはないだろうと高を括っていたからだと思う。旦那はギャンブルしない、女遊びしない、飲みにも行かない、ただまじめに働いて休日は登山やプールに一人で行くだけという、面白みはないが害もない人。私はと言えば、毎日ワイワイガヤガヤ楽しく人に囲まれていたいし、好奇心旺盛である。旦那のことを若い時は本当につまらない人だと思い、子供たちが成人したら…なんて言ってたこともあるけど、50歳過ぎて「お互い干渉しあわず空気みたいにだらだらと暮らしていけるならまあいいかな」なんて思ってたんだよね。なのに、いきなりお役御免とは?どういうこと?

その時も、旦那は私からの「お互いの歩み寄りが必要」という提案を嫌だと言い、でも離婚したいわけでも無いと言い結論は出ずじまいだった。それから2か月、少しは気を遣って話を聞いたり、目を見て話したりしていたから、気持ち落ち着いたのかな…なんて思ってたんだけど。それがいきなり布団持って家を出て行くとはね。

これまで全く自己主張しなかった旦那の言い分はこう。コロナ鬱なのか気分が全くすぐれない。ちびたちが家に居た頃は楽しかった。あんたは俺のことを馬鹿にしている。自分で毎日朝食を作っていることにもう我慢できない。家に帰ってきてあんたに気を遣ったりするのが嫌。あんたはいつも俺の先を歩くし、一緒にいても花や景色に目も暮れずとっとと歩くから嫌。いっちょん可愛くないもんね。

私の言い分。マイペースなのはわかるけど、本当は私は人に尽くしてあげたいタイプ。でもあなたは放っておいてと言う。ご飯も作っても食べないことあるし、黙って出張行ったりするじゃない。子供たちを育てることにいきがいを感じていたから、子育てロスになっていると何度もあなたに訴えたよね。さみしいって何度も言ったよね。

ここ数年しっかり向き合って話していなかったから話すときりがなかった。経済的なこと。長男の結婚のこと。私といることが嫌だったらこの先も一緒にはいれないわけだから離婚するってことになるよね。私の周りには旦那の悪口を言いつつも、なんとなく結婚生活を過ごしている人がたくさんいる。むしろラブラブな夫婦の方が珍しい。だから価値観が合わなくても、多少気を遣っても、なんとかやっていけるんじゃないの?って話していた。

それでもちょっと茶碗洗ったりしてると、

「いやいやなんで私丸く収めようとしてるの?一言も言わずに勝手に家を借りるなんて自分勝手じゃん」と腹がたってくる。

そしてまた同じ話になる。ぐるぐる堂々巡りが続き、結局どうしたらいいのか答えは出なかった。問題に対して答えを切り分けしてすぐに結論を出そうとする私と、何も考えられない旦那。どっちが正しいわけでも無い。どうしたら幸せになるんだろう。そもそも幸せってどういうことなんだろう?気が付くと夕方になっていて、次回へこの話は持ち越すことになった。

衝撃の告白から2日後、帰宅したらすっぽり旦那の荷物が無くなっていた。今度は私の車で荷物を運んだらしい。私は家に帰ったら声を出して泣くのかなと、帰りの通勤電車で想像していた。でも意外と落ち着いていた。よく考えてみれば、今までも帰っても一人、朝起きても一人、休みも一人だったじゃん。うれしいこともつらいことも聞いてもらえず、旦那といてもさみしかったじゃん。うんうん。そうだ。幸い子供たちは健康でしっかり自立して頑張っている。それが何よりだなって思うことにした。

今回の騒動を冷静になって考えなおしてみた結果、一人でいるよりいいやって思いながら夫婦生活を送ることもできるけど、そこには愛や尊敬が必要で、それを持てないのに一緒にいたら傷つけあうだけなのかなって思った。私は、ものすごい寂しがりやで、一人になるにあたり、そこだけが心配だった。旦那とは私が一人暮らしの寂しさに耐えきれない時に出会った。

今度はさみしさを感じない生活をどうしたら送れるのか。これを考えて前向きに生活してみよう。今日、家の片付けをして究極にものを減らしてみた。一人では広すぎる家に暮らすことで自分の心にどんな変化が起きるのか。

今はそれが楽しみだ。

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