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振袖、振りを切り訪問着に。

サロンから通りを眺めていると

冬の札幌、厳しい寒さの中では皆、足早でわき目もふらず通り過ぎるが、春暖かくなると足取りも緩やかになり、通り沿いにあるものにも目が向くよう。

そんなわけで、暖かくなると

サロンの前で立ち止まり、中を覗き込む人が増える。時にサロンの戸を開け入って来てくれるお客様もチラホラ。


ユウさんとの出会いは冬の日、サロンで着物仲間と雑談していた時

ウィンドゥのサインを見て「着付けお願いできるんですか?」と飛び込んでいらした。

お時間があるというので、入っていただきお話させていただく。

とても可愛らしくスラリとしたいでたち。

専門学校に通い、3月に卒業式を迎えるそう。

家庭を持ちながら、資格取得を目指して学校へ通ったのだと。


「着物はどんなものを着られる予定ですか?」と聞くと

成人式に着た振袖を、訪問着に仕立て直したものがあるのでそれを。

振袖を販売する時に、呉服屋さんでよく使うフレーズだ。

袖を切って訪問着としても着られますよ。長く楽しめます 的な。

がしかし

そのように着物を楽しんでいる方を、これまで数名しかみたことが無い。

それも、成功例とは言い難いもの・・・ 

というのも

振袖は、やはり20歳前後のお嬢様向けで可愛らしいものが多い。色も赤など若いからこそ着こなせるような色目。柄もしかり。

そんな振袖の袖を切り訪問着にしたところで、それは若すぎるイメージで、実際に着ていく場面はなかなか無いのが実情だ。

”着物は10年先をみて作ると良い” には反している。


着付けの依頼があった時、まず、どんな着物を着られるのだろうか。そこは心配どころである。色柄はもちろん。時代感、サイズ感、、、など

着物は流行が無い、サイズもかなりの範囲で対応可能 と考えている方が多いのは残念で悲しい現実。

もちろん定番と言われる古典柄など、流行に左右されないものもあるがそうではないものだってある。古いものをそのまま着るには、相当なセンスが求められるだろう。

着物だから良いだろう ではない。 洋服と同じに考えてほしい。

今どき、パンタロンだとかブーツカットといわれるようなズボンをはいていたらどうだろう? 若い人がおしゃれに着こなしていればアリだが、いい年齢になってそれを着ていればどうみえるだろう。 しかも、その時代の物をそのまま… ということ。

そこのコーディネートは、なかなか難しいものである。 モノをみて、人をみての判断。


そんなわけで、ユウさんの着物にもそう期待はしていなかった。 

 ―着物に期待 とは可笑しな話だが、元々着物好きが高じて今のような仕事をしている私は、着物をたたんでいるだけで幸せを感じられるほど。 お客様との出逢いだけでなく、お客様の着物との出逢いも楽しみで仕方ないのである!

後日、事前に着物一式を持ち込んでいただく。着付けに必要なものなど揃っているかもcheckさせていただく。

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私の期待は見事に外れた

お持ちになったユウさんの訪問着は、八掛こそ黄色で鮮やかな雰囲気を醸し出してはいるが、紺地の付け下げのように柄が配置された渋いものだった。この手の控えめな振袖をお持ちの方は珍しい。

<成人の振袖>と<大人の着こなしができる振袖>があるが、後者にはあまり出逢えないが、この着物はまさにそんな雰囲気のものだった。


この度のコロナ騒動で卒業式も中止になるとか、親御さんは参列できないとか、さまざまなパターンで揺れた3月だったが、ユウさんの学校は決行。予定通りお支度をさせていただいた。

ショートカットで可愛らしいお顔の作り

・・・着物を着ると違う顔が観えてきた

なんとも凛とした一本の筋

無地に近いこの着物が似合うわけである!

シャキッと装った着物姿にご本人もご満悦

仕上がった姿をみて笑顔になってくれる、この感覚がなんとも言えない私の悦び


訪問着に生まれ変わった振袖。たとう紙を開き初めて目にした時のユウさんの歓喜も忘れられない

どんな想いでそれを与えられたか

袖を切る想いはどんなだったか

お母様の想いを受け取るユウさん


これから先は永い

八掛を変え、小物を変え 永く楽しんもらいたい

また、お手伝いさせていただければ幸い…











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