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ミルクティーの時間

1月の香港、朝10時。

クラシックが流れる、觀塘APMのスターバックスでミルクティーを飲んでいたら、記憶の底から何かがぷわっと湧いてくる。宮城県仙台市の定禅寺通りにある、ガネッシュというカフェから見下ろす、夏のケヤキ並木の情景だ。

小学校時代からの親友が紹介してくれたガネッシュのミルクティーはとにかく濃厚で、たっぷりのミルクにしっかり煮出した紅茶の芳香、それにティースプーン一杯の茶色いお砂糖を入れて土曜日の昼間に一時間ほど、何もしないでケヤキ並木を見ているのが好きだった。

高校生の時は8時から5時まで授業で、5時から9時まで吹奏楽部で、吹奏楽部は盆と正月以外休みがなかったから、土曜日の昼間にカフェでぼうっとしていることなんて、そうそうなかったはずなんだけど。太陽を透かして見る青々としたケヤキの葉っぱも、その葉っぱからの木漏れ日も、ミルクティの香りとクラシック音楽と共に目の前に広がる。

あぁ、あの頃は良かったなぁ、と思う自分を止められない。

好きなだけフルートを吹いて、好きなだけ本を読んで、学校に行くと好きな人がいて、家に帰ると家族と豆柴のチロが居て。生まれてから18年育った仙台が大好きで、大好きなことにも気付かなくって。

3月の、もう少しで春になりますよ、という時期の柔らかい春の日差しと広瀬川も、秋になると落ちた葉っぱでむっとした香りを放つ青葉山も、仙台を離れてから6年、記憶の中で美化されてしまった。

高校生の時、「高校時代は良かった」という大人だけにはなりたくないと思っていたのに、こうして時々立ち止まってしまう自分が嫌だ。でもね、後悔しているわけではなくて、時々こうして自分の原点を、立ち止まって振り返らないと頑張れない時もあるんだよ。高校生の私、許してね。

そんなことを考えているうちに、目の前の定禅寺通りの風景は消えて、冬の香港のカラフルな団地群が、現実が遅れて脳みそに飛び込んでくる。

あれから6年。フルートと読書の時間は少し減って、ミルクティーは相変わらず大好きで、英語と広東語を話せるようになって、高校時代の好きな人とは全然違うタイプの好きな人が、もう少しでジムから戻ってくる。

なんで旅行先でまでジムで鍛えているのか、私には理解不能なんだけど。

このミルクティーの飲み終わって彼に会うまでに、また現在の自分に戻ってきて、にこっと笑って迎えてあげよう。今からでも遅くないから、自分の周りにある大好きなものには自覚的でありたいな、と思ったスターバックスでのミルクティータイム。

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