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ゴールウェイとムーケと土曜日の昼下がり

フルート界の巨匠ゴールウェイが吹く「パンの笛」を聞きながら、私のフルートの先生の家へレッスンへ向かう、土曜日の昼下がりが好きだ。レッスンがある日は大抵晴れで、時間はいつも午後2時なので、お散歩にはもってこいの陽気の中を、バス停から8分くらいかけて歩いていく。試験に出るので毎日一生懸命練習している曲を、巨匠はいとも簡単そうに、そして気持ち良さそうに吹いてみせる。

プロというのは、ものすごい技術がいることを簡単そうにやってみせるものだ。ゴールウェイを聞いて「なんだ大したことないね」なんていう人がいたら、私はぜーんぜんわかってないね!と言い返すだろう。

この、ものすごい早さで吹くピピピピという音を、すべて綺麗に鳴らしてかつスタッカートで歌って見せるのに、私は何万光年かかるのだろうか。

フランスの曲なんだから、そんな力強く吹いちゃダメよ、りえこ!ドイツ人が吹いてるみたいになっちゃうじゃない!もうちょっと、やら〜っと歌うように!

音を綺麗にならそうとするあまり、お腹に力が入りすぎてしまう私は「ドイツ人」みたいな吹き方だと先生に言われる。なのに私は、注意されている内容よりも、マシンガンのように話す先生が気になってしかたがない。表情豊かに、膝を曲げたり手を広げたり、歌い出したり爪を噛んだり。

前回のレッスンのことを思い出しているうちに先生の家の前へついて、ただ、いつも5分くらい前に着いてしまうので、玄関へ降りていく階段の手前にあるベンチに座ってぼーっと待つ。

高校生のときにフルートを習っていたときも、早く着いても遅く着いてもダメで、少し早めにいって、やっぱり近くの公園でぼーっとして、時間きっかりにピンポーンとやっていた。

オーストラリア人の先生は、何分早く着こうが遅く着こうが気にしないかもしれないけれども(この間はレッスンにいったら先生がシャワー浴びたばっかりで、レッスンをしながら髪を自然乾燥させていた笑)、でも待つ癖は抜けなくて、今日も今日とてボーっとしている。

大きなネムの木が風にそよそよと揺れているのを見上げながら、「あぁ自分が充電されている〜!」と満足に浸る。とりとめのないことを考えているこの時間に、同じような高校時代をふっと思い出したように、いつかシドニーで過ごしたのんびりとした土曜日もふっと思い出す日が来るのだろうか。

そう考えると、少し嬉しいような、寂しいような。


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