それぞれの蒲田と千駄ヶ谷


「今日は蒲田?千駄ヶ谷?」
玄関で靴紐を結ぶ私の背中に向かって母が問いかける。
靴紐を結び、食糧やら着替えやらが詰まった大きな荷物を背負い振り返る。
「今日は蒲田。友達と食べて帰るから夕飯はいらないよ」
「わかった。気をつけていってらっしゃい」
「いってきます」

この時期になると、おおよそ月に一度のペースでこのやりとりが交わされる。
将棋ファンの方なら蒲田と千駄ヶ谷と聞くと、それぞれ将棋クラブと将棋会館を思い浮かべるかもしれない。
だが、我が家場合、蒲田は大田区総合体育館のことを、千駄ヶ谷は東京体育館のことを指している。
どちらもバレーボールの試合会場としてよく使われる場所だ。
(東京体育館はオリンピック関連等でここ2年程利用できない状態ではあったが)
他にも都内ならば錦糸町にある墨田区総合体育館も試合会場として利用されているが、対戦カードの都合上、蒲田と千駄ヶ谷に行くことの方が圧倒的に多い。
なので母との会話も蒲田か千駄ヶ谷の二択になるのである。

私にとって蒲田と千駄ヶ谷といえばバレーボールという印象なのだが、母にとってはまた少し違う印象があるらしい。
母は還暦を迎える頃まで地元の卓球チームに所属していた。
小さな大会から大きな大会まで、様々な大会に参加していたが、その試合会場で東京体育館や大田区総合体育館が使われることが多かったのだ。
なので母にとっては「卓球をする場所」という印象があるらしい。
幼少期、バタフライのジャージを身に纏い、大きな荷物を背負った母を玄関で見送りながら尋ねたものだ。
「今日はどこに行くの?」
「今日は卓球の大会で千駄ヶ谷に行ってくるね」
この文章を書いていて気がついたが、昔と立場が逆転している。
おどろいた。

さて、なぜ急にこのような記事を書いたのかといえば、昨日からVリーグの新シーズンが開幕したからだ。
オリンピック関連で昨シーズンはイレギュラー体制で行われたが、今年も感染予防対策の観点からかなりイレギュラーな体制で行われる。
今シーズンは諸般の事情により会場へ行くことが難しい。
残念ではあるが、まずは何事もなくシーズンが終わることを祈っている。

余談だが私のバレーボール界の推しは守備力に定評があるタイプの選手だ。
将棋的な言い方をすれば受けの棋風といったところか。
となると、東京体育館で華麗なるレシーブを見せていた推しは、さしずめバレー界の千駄ヶ谷の受け師といったところだろうか。
ふとそんなことを考えてしまった。

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