見出し画像

虹のおと 7.とんがり山

 朝日が登ったとんがり山は、天へ突き刺さるようにとがっていた。地肌がむき出しで、岩がゴロゴロとときおり上から転がってきて、谷底へと落ちていった。王様ワシがたくさん飛んでいて、鋭い目でティナたちを見つめていた。
「長老様は頂上にいるの?」
「この山自体が長老様とも言えます」
「よくわからないわ」
「山は生きています。長老様に危ない輩が近づかないように、登る者を選んでいるのです。誠意をもって行きましょう。そうすれば通してくれるはずです」
「わかったわ。でもなぜ、詳しいの?」
「エルフの里には言い伝えがあるのです」
「言い伝え?」
 リューは目を閉じ、歌い始めた。


 むかしむかし 空にはおおきな虹があった
 流れ星がぶつかって 虹は欠けたとさ
 落っこちた虹をひろって あらわれた正直者
 とんがりやまのてっぺんで 空に虹を返すとき
 虹から音楽 なりひびく
 祝福の音楽 なりひびく

 むかしむかし 空にはおおきな虹があった
 虹はすべてのいきものを祝福する架け橋さ
 すべてのいのちを祝福する架け橋さ


「じゃあやっぱり、てっぺんへ行くしかないのね」
「そのとおりです。途中までは私とホビーも行きましょう。最後はティナ、あなただけが頂上へ行くことができるのです。そして空に虹のかけらを返してください」
「わかったわ。やってみる」
 3人はごろごろ落ちてくる岩をよけながら、ごつごつした急な岩肌を登り始めた。とたんにとんがり山は震えはじめた。ごろごろ落ちてくる岩が岩にぶつかって砕け、細かい石となってふりそそいだ。ティナたちはそのなかをぐんぐんと登っていった。足がすべり、手に石があたるなかを進んでいった。
 とんがり山の中腹では、山は少し平らになっていた。落ちてくる岩もなく、すこし座って休憩することができた。3人は汗だくになっていた。持ってきた水を飲むと生き返るようだった。ティナの足元にきれいな花が一輪、咲いていた。
「素敵な花が咲いているのね、こんなむき出しの岩場に」
「この花を持っていきましょう」
「とっていいの?」
「てっぺんで長老様にあったら、捧げてください」
「わかったわ」
 ティナはそっと花を詰んで髪にとめた。
「ここから先はティナ、あなただけの道です。そこの入り口から、中へ入りてっぺんへ抜けてください。長老様がいます」
 リューの指差した方には、大きなとんがり岩があり、くり抜いたような、穴があった。中は真っ暗で、その岩がてっぺんまでとがっていた。つまり、最後のとんがり岩だ。
「ありがとう、リュー。ここまでとても助かったわ。ホビー、いってくるわね」
「いってらっしゃい、ティナ。ここで待ってる」
「ありがとう、ホビー。じゃあ、いってきます」
 ティナは歩き出した。岩をくり抜いた暗闇に吸い込まれていった。
 中は肌寒かった。本当に真っ暗で何も見えない。そっと壁に手を当て、手探りで進んだ。のぼり坂をぐるぐる螺旋状に登っていった。暗闇の中で低いうなり声のような風が通っていった。
 急におわりについた。てっぺんだ。手探りで、前や上をさわってみると、冷たい石があるだけだった。これ以上はのぼれそうになかった。
「長老様、長老様、虹をそらに返しにきました。私はティナです」
 ティナは呼びかけてみた。
 すると、髪にとめた花がひかりはじめた。薄暗い中で目をこらすと、ティナが触れていた石が、人の形をしていることに気づいた。長老様の石だった。
 ティナは花をそっと髪からはずすと、長老様にそっと手渡した。すると、石がぱきぱきと割れ、中から長老様があらわれた。
「わしを起こしたのじゃな。ティナ。虹をかえしにきたのか」
「はい」
「まばたきをする間だけ時間をやろう。それ以上は魔物がはいりこむ。よいか、わしがゆっくりまばたきするあいだに、そらに虹をかえしなさい。いいね」
「わかりました」
 長老様はゆっくり瞼をとじた。すると不思議なことがおこった。
 ティナはいつのまにか空の中にいた。まわりは全部、空だった。空を飛んでいた。
 大きな虹が目の前にあった。はじが欠けている。ティナはそっと虹のかけらをとりだし、はじにくっつけてキスをした。
 長老様が目を開けた時、ティナはまた石の長老様の前にいた。長老様は石にもどっていた。そして花の光も消え始めていた。ティナはぐるぐる螺旋状に暗闇の中を探り探り降りていった。
 穴の出口があった。出ると、ホビーとリューがいた。
 3人は空を見上げた。
 大きな祝福の音がひびきわたっていた。あらゆる生き物は喜んだ。あの、黒い霧の魔物たちは一瞬に闇にとけ、なくなっていった。森の生き物も、川の生き物も、里の生き物も、山の生き物も、祝福の音を喜んだ。空から虹のおとがなりひびいた。この世界でもっとも美しい音色だった。虹は光り輝いた。全ての生き物は祝福された。
「なんて素敵な音なんだろう」
 ホビーは喜びで泣いていた。
「ほんとね。やったわ!」
 ティナは嬉しくなってホビーとハグをした。
 リューは言い伝えの歌を歌った。


 むかしむかし 空にはおおきな虹があった
 流れ星がぶつかって 虹は欠けたとさ
 落っこちた虹をひろって あらわれた正直者
 とんがりやまのてっぺんで 空に虹を返すとき
 虹から音楽 なりひびく
 祝福の音楽 なりひびく

 むかしむかし 空にはおおきな虹があった
 虹はすべてのいきものを祝福する架け橋さ
 すべてのいのちを祝福する架け橋さ


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?