さんかく 千早茜著
食事、人間関係への解像度が高い小説「さんかく」___
物語にでてくる食事だけでなく登場人物の心理描写にも舌を巻いてしまうほど素敵な作品でした。
高村夕香:京都の古い木造の京町家で一人暮らす40代手前の女性。フリーの デザイナー。
伊東正和:大阪の厨房衛生用品の会社で営業として働いている男性。華と付き合っている。
中野華:京都の大学院生の女性。正和と付き合っている。
以上が簡単な人物紹介です。題名の「さんかく」とはこの3人の三角関係から来ていると思われます。正和と華は付き合っていますが、お互いの仕事や恋愛観、考え方の齟齬により関係はギクシャクに・・・そんな時に正和は学生時代に同じ職場で働いていた高村と再開し同居生活を送ることになります。
これから先は読んでいて心に残った言葉や台詞を引用したいと思います。
高村が正和に口説かれたと感じた時の場面の台詞。
”お願いだから、早く受け取って。”は持て余した気持ちとビニール袋をかけているように読み取れます。p23
正和が女と同居していると勘づき始めた華。p186
互いに恋愛感情はないもの、外泊や恋愛について言葉にならない感情に渦巻く高村と正和。p209
喫茶店にて、他テーブルで老夫婦が言葉も交わさずに黙々と朝食を食べている時。 p226
高村が正和に来年度から東京に戻る、と告げた時。p253
華の台詞は、恋人に浮気されたり何気ない一言で傷つけられてしまった人たちの心を代弁してくれていませんか?p278
ぼくが一番好きな場面はp226の高村と正和が喫茶店でモーニングを食べている時。実はその前で二人は喧嘩をしています。恋愛感情のない男女が一つ同じ屋根の下で暮らす。最中正和は彼女との交際を、高村は以前の不倫相手と出かけることが多く二人はなんとも言えない感情を抱きます。
別に好きじゃないのに、ただ食の趣味が合うから、一緒に暮らしてるだけなのに___
正和は彼女とうまくいっておらず高村は以前の不倫相手の 作者の言葉を借りるなら_ 沼にはまっている。
二人が同居生活をしているうちに自然な好意が芽生えたことは間違いありません。
こんな三角関係、普通じゃない。ほとんどの人が経験したこともないはず。なのに正和、高村、華の気持ちがわかる、心に刺さる。
ぐちゃぐちゃとした人の心をこれほどまでの文章にするのってどういう感性なんでしょう。
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