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あたしたちよくやってる

「好きと思うもの」が似ている人に会えるってうれしい。

たとえば同じ本、音楽、映画を見た人。住んでいる路線が同じ人。そうだよね、わかる! と共感しあえることって何と貴重なんだろうか。

それと同じように、自分と似たようなことに悩んでいる人とわかりあえるのも、ありがたいことだ。

山内マリコさん『あたしたちよくやってる』は、そんな「好き」や「悩み」をわかりあえる人のような一冊だった。

この本の帯にあるように、「あたしたち」が持っているわずかな自信なんてあっという間に吹き飛んでしまう。そんなとき「そうだよね、わかるよ」って誰かと話したい。けど、誰でもいいわけじゃない(わがままかよ)。同じものが好きで、同じようなことに悩んでいる人と、頷きあいたい。この本には、そんな「あたしたち」をよくわかっているエッセンスがちりばめられていた。

山内さんが30代前半で作家デビューしてから、いろんな雑誌や新聞に発表した小説やエッセイを新たに構成した一冊。

年齢、ファッション、友だち、仕事、結婚……。当時のいろんな状況や感覚、悩みを凝縮した短編とエッセイ33編で構成されている。

1つ1つの話は単体でもちろん面白いけれど、はじめから最後まで読むと、まるで一枚の音楽アルバム(アルバムってもう死語?)を聴いているかのような感覚。深い共感を読める話や、ちょっとした疑問、新たな発見、最後の盛り上がりという流れが楽しめた。

最後の盛り上がりの話である、「超遅咲き DJの華麗なるセットリスト全史」がサイコー。

戦前に生まれた女性が「超遅咲き」でDJになるショートストーリーなのだが、読み終わった後は思わずスタンディングオベーションしたくなった。読後感が、あふれんばかりの希望。

この本全体の視点が「あの頃」ではなく「未来」に向いていて、前に進むしかないな、とおもえた。

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