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人生で一番美味しいコーヒー

一年前内閣府に「日本とブータンとの架け橋女性」として選んで頂き、日本でのイベントに招聘頂いた。大阪でのイベントが終了し、用事があったので金沢に出掛けた。初めての金沢!全く計画を立てない私に親友が同行してくれ、二人の珍道中が始まった。

せっかく来たのだから観光も少ししようと、二人で兼六園に行ってみた。寒い雪のちらつく日だったが、雪の兼六園は溜息が出るほど美しかった。しかし身体が心底冷えてき、コーヒーでも飲もうという事になった。兼六園の近くにあるコーヒーショップに入ろうとして交差点を曲がった時、その交差点の角の2階から何かしら私を誘うオーラがでていた。笑

何だあれは、、、どうしても気になる。私はそこに目がくぎ付けとなった。暗い怪しい階段がちょっと離れたところにある。「私あそこにどうしても惹かれるの。行ってみて良い?」と言って階段を上がる事にした。

ドアを開けて入ると、白髪のおじいちゃまがカウンターの向こうにいる。おじいちゃまは私たちをちらっと見て目をそらし、「コーヒーしかないよ」と一言。

二人でカウンターに腰を掛けた。先にカウンターに座っていた常連らしきおじさんがおじいちゃまに仕切りに話かけていた。

メニューは無い。注文も尋ねられない。

おじいちゃまは黙ってコーヒーの用意をカウンターの後ろで淡々としている。私も親友も無言のままおじいちゃまの手の動きを見ている。

そして無言のままコーヒーが出された。おじいちゃまは私達を見ようともしない。。。

ミルクも無い。私はブラックでコーヒーが飲めない。飲んだ後舌に残る味が苦手なのだ。しかし、この無言の空気には「あの、、ミルク、、、」と尋ねるのを許してくれない空気があったので、意を決して飲む事にした。

一口飲む。美味しい。あれっ、飲めるぞ。後味が舌に残らない。もう一口飲む。軽い。濃いのに軽い。酸味も無い。

常連のおじさんが立ち上がった。「コーヒーおいしいだろう。ごゆっくり。」と言って去って行った。

彼が去った後おじさんが「どうして日本は落ちぶれてしまったのか分かるか?」と私達に尋ねた。

はっ?

行き成りディープなトピックでおじいちゃまの話は始まった。「もう日本はダメになってしまったな。こんな日本になるとは思わなかったな。」続けておじいちゃまは「どこの国に移住するのが良いだろう。」と独り言とも質問とも分からない間合いで話が続き、南米のある国への移住を私達に勧めた。

「俺は大阪出身なんだよ。大阪の人間はやはり東京の人間とは合わないものなんだ。」とおじいちゃまの20歳の時の決断を語りだした。何とおじいちゃまは若い時ファションデザイナーだった!しかもかの有名なファションデザイナーとも一緒に働いていた。もうここまでくると何が何だか分からない。ただただおじいちゃまの話に引き込まれて行った。

「宮本武蔵がどうしてあの時代生き残れたか分かるか?俺は宮本武蔵が好きなんだ。」と語り始めた。おじいちゃまは一人で何役も演じながら宮本武蔵のエピソードを語り始めた。巌流島の闘いはもちろんの事、宮本武蔵が自分を狙いにきた刺客を取り入れ、あくる朝油断していた所を待ち伏せして殺したエピソードは実に面白かった。その間おじいちゃまは2杯目のコーヒーも「余分に作っているんだ」と勧めてくれ、ブラックが全く飲めない私が2杯半のコーヒーを頂いた。

延々と45分続いたおじいちゃまの話をまだまだ聞いていたかったのだが、残念ながら新幹線の時間が迫っていた為にもう帰らなければならなかった。おじいちゃまにそれを告げると、「新幹線の中で食べるお弁当はここで買えば良い」と最初とは全く異なる気遣いの顔を見せ、又来て欲しいと私達に言った。

とても不思議な時間と空間であった。今から思うとあれは夢だったのかと思うほど。おじいちゃまの話は本当だったのだろうか。宮本武蔵は、、、。でもそんな事はどうでも良い。

人生で一番美味しいコーヒーを頂きながら、おじいちゃまの様々な話から一つの教訓を私は学んだ。

それは、、、、

「頭を使って人生を生き抜く事」

おじいちゃま、私ブータンでがんばってますよ~!








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