読書してみて考えた⑥小林秀雄と戦中派 後編

「沈黙する知性」
2019年11月第1刷とあるから、コロナ前ということになる。
仕事を減らしたこと。子供も中学生になり、帰省の列車内でじっくり読書できるようになったこと。愛読のTVbrosがなくなったこと。諸々重なって手にした一冊だった。
色々と考えたが、今回は「戦中派」に絞って書きたいと思う。

第0章 耳を傾けるに足る言葉はどこにある
表題  自分が語る言葉の保証人は自分しかいない
平川氏は田村隆一に説得力があると言う。
たまたま先日、新聞の書評で妻に友人と不倫されてしまった詩人として、その名に触れた矢先。今回調べたら、1923年生まれ、学徒出陣、バツ4、とある。荒地派?田村隆一「詩人の旅」ぜひ読んでみたい。
表題  小林秀雄の署名性
「1億総批評家時代」だと言う。インターネットの匿名性は、はなから批評の匿名性というものから逃避したポジションではないかと。武田砂鉄「紋切り型社会」読んで考えた時と同じ。匿名は馬鹿馬鹿しいくせに不気味だと私は思う。

第1章 知識人は何故沈黙するか
2015年「シャルリー·エブド」襲撃事件からフランス階級社会の話。ブルデユーの「ディスタンクシオン」の話も。丁度数ヶ月前に100分de名著で知り、読まねばと思っていた本。
フランスは革命由来の自由、平等、博愛という政治原理から移民を受け入れたけど、それが進みすぎて、アイデンティティーがゆらいでしまったと。そうした不満を利用する形でファシズムがでてくると思うと言う。
先日BS1で世界の子供達についてのドキュメンタリーを観たが、私は今日なかなかの世界不況とみた。毎週土曜の関口宏で改めて勉強中(昭和の義務教育では第二次世界対戦の情報は少なかったと思う)だが、確か世界不況からのムッソリーニ、ヒトラー、東條英機だったと思う。
日本中ほとんどが戦後生まれになった今こそ
戦中派の書物や発言に触れたいと思う。

第2章 日本の衰退を止めるには
生まれてからずっと豊かで、身の危険を感じたこともなくて「人間社会ってこういうものだ」と思っている若者たちと、破局的な事態を通じて「どこまで邪悪、利己的になれるか」反対に「どこまで崇高にふるまうことができるか」を経験した戦中派世代との間にはどうしても温度差がある。向田邦子は「大人は大事なことは一言もしゃべらず逝ってしまった」と書いたと。
92歳の私の父も、孫が夏休みの宿題に戦争体験を尋ねても、嫌な顔を見せるだけで決して口を割らなかった。母(終戦時8歳)からは戦争の話はよく聞いていたけれど。

第3章 村上春樹の世界
お恥ずかしながら、村上春樹の作品を読んだことがないので、割愛します。
ただ村上春樹の父は中国戦線に行っていたが、何を経験したのか、ついに一言も語らなかったらしい。

第4章 グローバリズムに「終わり」はあるか
グローバリズムは、家や会社だけでなく、あらゆるコミュニティ(商店街のような)や、伝統、文化を根こそぎにし、人と人とのつながりを分断して、勝者と敗者を金銭一元的な理由で腑分けしてしまったと。
一神教(キリスト)のアメリカと違い、日本は隣同士なんとなくもたれあい、相互扶助するのがセーフティネットだから、「自助の精神」とは食い合わせが悪い、と。教育や医療を自己責任にしたら、日本はガタガタになってしまうとも。
そういえば戦中派の父は小泉純一郎と、中曽根康弘が大嫌いと言っていた。確か小泉は郵政民営化、中曽根は国鉄、NTT、JT民営化あたりか。

第5章 吉本隆明の「知」をいかにして後世に引き継ぐか
吉本隆明「転向論」は戦中派にしか書けない「日本人の心性史論」と内田氏は言う。吉本隆明は1924年生まれで戦時下に自己形成し、終戦で「二階に上げられて梯子を外された」世代。
丸山眞男のような少し上の人なら、戦争が始まる前の時代を知っているはず、「こんな非合理的なことをしていたら戦争に勝てるはずがない」とわかっていた、と。
父は1928年生まれだが、軍国主義になびくことはできず、困り果てた教師が、確か飛び級で医学部(実際当時は医専)に入学させたと聞いている。私がこの世に産まれてきたのも戦争当時、早熟過ぎた父のおかげとも言える。

おまけ
10月24日中日新聞の日曜版は、偶然にも「向田邦子特集」だった。
夏休み、確か24時間テレビの日だったと思う。有名な脚本家が台湾の飛行機事故で亡くなるなんて、その当時小学生の私にとってまあまあの衝撃だった。向田邦子は1929年生まれ。



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