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運命の赤い糸でマフラーを編む

長い休みをもらう前に、下見として行くこととしたゲストハウス。行ったことのない場所で、普段自分が一人でやっている読書や散歩や考え事をしようと思った。人との出会いや心ときめく出来事に期待をしていくのは違うかなと思ってた。

縁とか運命は、こちらの気持ちなんて関係ない。

私のあえて期待しない気持ちなんてお構いなしに、ふわっと舞い込むような嬉しい出会いを果たした。

※コロナ感染症流行の現在とは、異なる時期のお話です。


出会いのパスタ

散歩から戻ると彼はキッチンでパスタを茹でていた。彼はゲストハウスに到着した日、わたしが混ざったグループとは違く、彼は彼女と共に来ていた。彼女はまだいない。

「朝ごはん?」

これがわたしが彼にかけた初めての言葉。彼はチラリとこちらをみて、「そうです。昨日Aさんが作ったやつたくさん余ってていただきました」

なんてことはない。わたしはお湯が沸くまでのその間を、彼とたわいのない話で居づらくないようにした。細身の賢そうな子だな。

しばらく別行動をして、またわたしはお湯をもらいにキッチンに行った。決して湯呑みババアなのではない。今度は彼女が洗い物をして、彼は乾いた食器を片付けていた。

「ご飯食べ終わったんだ」

彼と彼女に声をかけた。彼は先ほどのやりとりがあるから、返答し彼女はやりとりを見て察した。

またしても、お湯が沸くまでの間、あまり考えもせず話を続けた。

しかし、これが豊かな実りを与えてくれた。荒野に果実がなったような喜びだった。


あれっ?好き…

話していた内容は、本当にたわいのない話だった。ただ、今振り返ると彼と彼女の関係や二人が代わるやりとり。彼らがやってきたこと、話す言葉や雰囲気。そんな一つ一つに私は次々と一目惚れをしていたんだと思う。

元々旦那さんとの出会いや仲が深まったきっかけは、わたしが旦那さんを面白そうと思い、旦那さんに構わず距離を縮めていった。

学生の頃は、片思いを拗らせまくっていた。つぎつぎクラスメイトを好きになった。

仲のいい友人も皆、よく考えてみれば、わたしが片想いや一目惚れをして、さらに図々しさも併せ持っていたから仲良くなったとも言える。

わたしは一目惚れ職人だったのだ。

一本軸をずーっと遡ってみたら、かなり昔まで戻れるな。わたしはそんな昔から一目惚れ職人の修行をしてたのか。

お湯が沸いてもなお話し続け、立っているのにくたびれるまで夢中になって話をした。

リンゴが落ちる瞬間を見た

くたびれるまで話をして、もう互いに好きだったと思う。片思いの勘違いかもしれないが。

彼女が相談をしてくれた。辛い経験やたくさん悩んだこと、今もまだ不安でいっぱいなこと。

話を聞いて、どうにかわたしの中にあるもので、彼女の支えにならないか、あれこれ探し考えた。考えたことを話していくうちに、わたしの目の前にリンゴが落ちた。ニュートンが重力を発見したように、わたしは成長を発見した。

わたしが生まれ、さまざまな経験をして、考えてきたことで実をつけていた。経験をすれば実になると思っていたが、そんなに簡単なことではなかった。何が足りないと探していたら、考えることが足りてなかったんだ。まだ伸び代があるんだ。

この世紀の大発見が、ひとりでなく、一目惚れをしたカップルが一緒だ。彼らには世紀の大発見というより、大海賊の宝箱に見えていたかもしれない。

わたしとしては、彼らがいたから発見したのだ。感謝をしたいのはわたしの方だ。譲り合ってキリがない。そんな幸せも体感した。


赤い糸はどこへ続く

彼らとは話してしかいない。ただ、話をしただけ。それなのにこんなにも好きで大事なのだ。かと言ってずっと一緒にいたいわけでも、逐一繋がっていたいわけでもない。

これは信頼

同じ経験を共有することは、信頼を紡ぐことか。この先彼らとの糸が切れると思ってない。なんせわたしは図々しく一目惚れ職人なのだから。都合よく好かれている勘違いを重ね糸を編み、毛糸編み物布マフラーなんでもござれ。

どんな形に糸が編み上がるのか期待しよう。



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