日本のパンは、リッチである。

ここに気づく人はどれだけいるんだろうか。

今、日本で売られているパンはリッチなパンでひしめき合っている。
食パン、デニッシュ、おやつパン、惣菜パン
そのどれもがリッチなパンであると気づいているのだろうか。

パンにはリーンなパンとリッチなパンの2種類ある。

日本のパンで今、ブームのように宣伝されている言葉がある。

もちもち、もっちり、ふんわり、さっくり、ミミまで柔らかい

必ず記載されていることが大前提であるかのような言い回し。
このすべてが悪いといっている訳ではない。
その言葉になるように開発されて販売することで、新たな市場が生まれるのだから。

しかし、ちょっと待っていただきたい。
パンを作る上で欠かせないのは、小麦粉・イースト・塩・水の4つで事足りるはずである。
それらは、その言葉を表せるのに必要な材料ではないのだ。
パンを作るのに必要だが、必ずしも必要ではない。
この違いは分かっていただけるだろうか。

小麦粉・イースト・水・塩のみで作られるパンはリーンなパンと呼ばれる。
最低限この材料で作られたものがパンになる。
それ以外の材料はすべて副材料となり、必ず入れるものではない。除外したって構わないのだ。

副材料と言えば、バター、マーガリン、オリーブ油、卵、牛乳、生クリーム、イーストフード、モルトエキス、砂糖、はちみつ、スキムミルク…などなど。

これらが入っているパンは通常、リッチなパンになる。
言い方の差は、材料がなかった時代の名残と思っていただきたい。
これらが入ってきたことで、作るのも加工も楽になってきたのだ。

リーンなパンとは、固くなっていくパンである。

このパンはよく名の通ったパンで言えば、フランスパン、あるいはリュスティック
大きな穴の空いた、皮も中身もパリパリとした食感が楽しめる。
ふんわりとはいかないけれど、こっちは噛み締めて味が広がる、するめのような感じ。

これはイースト発酵の際にできる空気をあまり抜かさずに作られるので、穴をそのまま残される。それは生地を発酵させる時間が長く、手を入れる時間が極力短いから。
一次発酵までにグルテンを出す“こねる”作業もリッチなパンより半分で済む。

ただし、上記のように固くなっていく。
なぜなら、
・グルテンがよく形成されていないから
・水分が抜けやすく
・乾燥していくため

固くなったパンは砕いてパン粉にするか、卵液につけてパンプディングにするなど、利用することはできる。

リッチなパンは、腐っていくパン。

これがよくわかるパンは、食パンかと。
山型と四角かの違いは蓋をしたかしなかったかの違いだけなので、お好きな方で。
先程もあげたように、副材料が入る分扱いや発酵が容易になっていく。

これは、
・イースト発酵が短時間でできる
・加工がリーンなパンより楽である
・焼く時間も短くなる
・いろんな味と組み合わせやすい

という利点があげられる。

が、材料が豊かになる分、
・グルテンが形成されて
・保水力が高まり
・水分が抜けない

という状態になるので、細菌の格好の増殖場所になる。
青いカビも黒いカビも一気にくっついていくけれど、どれが力をつけて「かもされる」かはその時しかわからない。ま、だいたい斑模様になるんですけど…。

市場に出ているパンは大体こちらのパンが多い。
何故かというと、輸送中に固くなるのを防ごうとして色々入れていくから。
市販のフランスパンもどこか柔らかいものが多いが、これも固くなるのを防ぐ目的でなにか入っていることが多い。

『柔らかい』を主流にして、リーンなパンはハードパンへと名前を変える。

さて、柔らかさの条件は副材料の多さで決まる。ただ入れるだけでは失敗するが、他の材料と合わせてレシピを確立できれば量産は可能になる。

日本のパンは柔らかさが命のように開発されていくに従い、リーンなパンはその固さや噛みづらさから少し手が延びにくいようだ。
これは食感の好みにしたがって決められるものなので、一概に良い悪いを決めるものではない。どちらでも良いのだ。
ただ、日本がパンを知るにつれて食感だけで名前を変えてしまったことで、リーンなパンはあまり普及していないかな、と感じる。
最近よく聞くのが『ハードパン』なのだけど、これが柔らかさを基準にしてパンを分類するとこうなるのか、というある意味感慨深い出来事だと思う。

ふんわり柔らかなパンも美味しいけれど、ザクッと噛んで食べるパンも美味しいもの。
どちらもあるから選択できるのだ。
その選択肢はあり続けていただきたいものだ。

今回はこの辺で。

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