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予兆

                   原島里枝

吹き抜ける風で
川面はもっと細波が増えた
光は細かく千切られ
虹彩から這入り込んだ
記憶に傷をつける

山間の古い宿場町へ行った
小さな駅を降りて
無人の一本道を歩くと
道沿いには無いのに
何処からか
はなびらが降る

山櫻だろうか
春が羽化している

唯一すれ違った
若者たちの一行
振り向いてもまだ居る?

古民家の裏庭にある
蔵に入ると暗い
生まれる前の温度だった
光の射す小さな窓からは
せせらぎの匂い



――――――


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