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楽観オヤジと楽観ムスメ

この親にしてこの子あり。

とはよく言ったもので、幼いときから父と一緒にいるところを見られては「お父さんそっくりね。」とよく言われてきた。

骨太で筋肉質なところまで似てしまっていて、女の子らしい服が似合わない事を父のせいにしている。

父と母は正反対というくらい性格が真逆で、しっかり者の母に対し、父は中学校の教師っぽくなく、いつものんびりで楽観的だった。

性格まで父に似てしまって、学生時代にはよく先生に「Ms. Rie, Your thesis is too optimistic. (あなたの見解は楽観的すぎます)」と論文内容を怒られたものだ。

そんな姿も中身も似ている父から、大学を卒業し就職したときに言われた事を私はずっと忘れずに覚えている。

「貯金の為に働くな。若いうちは貯金なんていらないんだ。」と。

隣にいた母は間髪いれずに反対をしていたが、私は父の言葉の通りに進む事に決めた。だから仕事をしては大好きな海外へ行き、そこで色んな人と知り合い、旅先での日々を楽しんだ。貯金が底をついてしまったこともあるが、その度にお金を得る為の新しい道を切り開いたものだった。

就職してから数年が経ったある日、コーヒーを飲みながらリビングでのんびりしていたとき、ふと父がこんな話をしてきた。

「去年新卒で入って来た子が入って半年くらいでやめてさ、今はホテルの給仕をやりながら絵を描いていて、今度個展を開くらしいんだよ。」

その彼は日本画を大学で勉強し、教職の資格を取り晴れて中学の美術の先生となったのだが、やはり制作を続けたい気持ちが強く、安定した教師の資格を捨てアーティストの世界に戻ったのだ。

そんな彼の話を聞き、父は

「なんて贅沢な時間(人生)の過ごし方なんだろう」

と、貧しくもやりたい事を続ける彼の人生観をうらやましくなったそうだ。

そして

「お前も、安定やお金を基準にするんじゃない。好きな事を基準に自分の人生を決めて、それが出来るうちは、贅沢に時間を過ごしなさい。」

そうボソっと、母にバレないような小さい声で優しく、私にささやいたのだった。

豊かさや贅沢は、決して高価なものに囲まれる事や、貯金の額だけで決まるのではないのだと。

そして、そんなおおらかな(しかしながら楽観的な)心をもつ父を持てて幸せだなと、楽観家の血は争えないなーと、ひっそり思う私なのでした。

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