聖女の呪い(1)
まだ夜の明けきらない群青の空の中、山の麓に深く広がる針葉樹の森の中を、双子が下草を踏み分けながら歩いている。
明るい赤黄色のつやつやした毛並みに大きくとがった耳、ガマの穂のような太いしっぽを持つキツネの兄弟だった。
「アトゥイ、早く夜露を集めてしまおう。朝日が昇ってきてしまう」
カントはそう言いながら、器用に夜光草の葉にたまる夜露を透明な硝子瓶へ集めていく。
「わかってるよカント」
先に産まれたからと、偉そうに声をかけてくる兄に、アトゥイは少しむくれながら答える。
二人が持っている硝子瓶いっぱいに夜露を集め終わると、いよいよ空が白んできた。もう間もなく水平線から太陽が顔を出す時刻だ。
「朝日に当たる前にトゥレㇷ゚のオババの所にもっていかないと、アトゥイ急ぐぞ!!」
「兄ちゃん待って!!」
足場の悪い小川の岩を、ひょいひょいと跳んでいくカント。その後ろを、危なっかしくついていくアトゥイ。
小川を渡り、ひたすら山の方へ走ってゆく。
日の出はもうすぐだ。
暫く走ると、一本の大きな杉の木の切り株があらわれた。切り株には洞(うろ)があり、大きな扉が付いていた。双子はその扉を三回叩いた。
「トゥレプのオババ、夜光草の夜露を持ってきたよ!」
「おお、ご苦労だったね、お入り…」
ギィィと扉が開くと、中からアナグマが顔を出した。双子は切り株の家の中に入っていった。
家の中はストーブがたかれていて、早朝の冷気で冷えた体に暖かい。
「さ、早く夜露をお出し」
「はい」
兄弟は集めた夜露をトゥレプに渡した。
「うん、沢山採って来たね。これなら十分足りるだろう」
「本当に!?」
「あぁ、本当さ。さて薬を作っちまうからお前たちはゆっくり寝てな。夜通し採っていたんだろう」
「オババ、ありがとう」
双子はホッと息をつくと、ストーブの前で体を寄せ合い眠るのだった。
-続く-
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