種を植えるのは楽しい(1)

私は子供の頃から、種を植えたり植物を育てる事が好きだった。

ただし、園芸植物にはそこまで興味が無く、いわゆる「雑草」とひとくくりにされてしまう植物たちや、食べることのできる実を付ける植物や、果樹が好きなのだ。

小学生の頃に私が暮らしていた場所は、広い水田の広がる地域で、通学路の脇には水田用の井戸小屋があった。この小屋の横に立派な桑の木が鎮座しており、六月のこの時期になると赤から紫へと色を変えた熟した実がたわわに実るのだ。

この通学路を通る子供たちにとって、この木はかっこうの歩き食いスポットで、下校時間の早い低学年の子達から順に、食べごろの実をとって食べるのだ。

幼いころの私も、友人たちと一緒に桑の実を食べていた。

そんなある時、私は口の中にいくつかの種を含んだまま家に帰り、使っていない植木鉢に種を植えたのだ。


幾日か経つと、なんとなんと一つの種が発芽したのだ。

可愛い双葉。

今でも、気まぐれに植えた種が発芽した喜びは覚えている。

その後、この桑の芽は順調に育ち、今でも実家の庭で実をつけている。と締めくくりたいが、現実はそうは行かない。

30センチほどまで鉢で育てた桑の苗は実家の庭に植え替えたのだが、桑の木は意外とでかくなるのだ。

そして、毛虫が良く付く。

それが蚕だったら、ある意味嬉しいのかも知れないが、まったく関係ない毛虫が大量につくのだ。真夏頃になると、ウワーっと出てくる。

その毛虫が、父が大切に育てているツツジにまで浸食した時点で、私の桑の木は根っこから引き抜かれたのだった。

そして、私は鳥たちに実を横取りされ、引っこ抜かれるまでの数年、一度もこの桑の実を口にする事は出来なかったのである。

-終-


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