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【1Q決算分析】商船三井(2023年8月)

今回は商船三井の決算を確認していきます。エネルギーと来たらそれを運ぶ海運というわけです。この次の記事は日本郵船になると思います。

2022年の通期決算は売上高1.6兆円、経常利益8,000億円という恐ろしいコンテナバブルの恩恵を受けた商船三井ですが、2023年1Qの決算は以下の通りでした。

売上高3,851億円
経常損益903億円(経常利益率23.4%)

コンテナバブルが終了したとは言いつつも、1Qの利益率も堅調です。

①ドライバルク事業:石炭船を除くバルク船
②エネルギー事業:石炭船、タンカー、オフショア、風力、LNG
③製品輸送事業:コンテナ、港湾、フェリー、自動車輸送、ロジスティックス

不動産事業などもありますが、大きく分けて3つの事業が商船三井のビジネスポートフォリオです。半導体不足解消による自動車輸出が堅調であったことや、円安効果が効いたようです。海運会社は円安銘柄ですので、円安になると儲かります。1ドルにつき22億円の影響が出るようです。1ドル=134円辺りで組んでいるようですので、昨今の円安は商船三井にとってはウェルカム。

ドライバルク事業は中国市況の悪化で雲行きがやや怪しいとされています。木材チップ船は堅調。エネルギー事業は米国の戦略備蓄放出により市況が回復。LNG船は安定的に利益確保。コンテナ連合企業のONEは金利高、インフレの影響に伴う欧米消費の停滞が見られ、北米と欧州航路を中心に価格が下落中。自動車船は引き続き需要は旺盛。トータルすると、昨年の爆益は流石に有り得ませんが、それでも海運需要は旺盛で、上期や通期の見通しは上方修正しています。

引用:https://kotoheihei.work/%E5%BB%BA%E9%80%A0%E8%88%B9%E7%A8%AE%E3%80%81%E8%A6%8F%E6%A8%A1%E3%81%A7%E5%88%86%E3%81%91%E3%82%8B%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%AE%E9%80%A0%E8%88%B9/

ちなみに決算説明資料や業界関連の文献に必ず出てくるワードが「パナマックス」などの専門用語です。船の大きさによって呼び方が変わるんだな、と覚えておきましょう。ちなみに海運業界は船のことを「本船」と呼んだりしますので、ご興味ある方は業界用語についても調べてみると良いでしょう。


BLUE ACTION 2035について

商船三井ではBLUE ACTION 2035という中長期戦略を組んでいます。以下はその進捗の一部です。

  • 三井海洋開発へ出資し、海洋事業を強化

  • 海洋LNG生産設備の開発・運営事業会社Delfin Midstream社へ出資、米国シェールオイルを原料として海洋事業を強化

  • 米国ルイジアナ州のグリーンアンモニアプロジェクト出資参画

  • 東アフリカの物流大手GCS Velogic社と戦略的提携に向けた覚書締結

  • 脱炭素技術への投資を目的とした新会社MOL Switchを米国に設立

  • 液化CO2船および洋上浮体式設備の設計基本承認を船級教会から取得。Petronas SDARI社との共同開発

コンテナ連合のONEは元々は日本郵船や川崎汽船も含めて世界で戦えないから合体させた会社であり、各社コンテナ船の価格競争に未来は感じていないはずです。また、鉄鉱石などのバルク船事業は中国経済の減速や中国シフトの世界情勢の観点から見ても、中国一辺倒にはなれません。

そこで、世界的にはやはりLNGであったり、その他のグリーン技術にBETし始めています。また、商船三井は脱炭素技術への投資を目的とした新会社MOL Switchを米国に設立しましたが、これは昨年のバブルで得た向こう数十年の利益を駆使し、今のうちからポートフォリオ分散を図ろうという考えのもとでしょう。今後3年間で1億ドルの投資を行うとされています。

組織はトップが全てですので、商船三井の社長のインタビュー記事は是非とも読んでおくと良いと思います。以下社長の経歴です。

橋本 剛(はしもとたけし) 商船三井代表取締役社長
1957年東京生まれ。京都大学文学部卒。82年大阪商船三井船舶(当時)入社。ロンドン勤務を経て、90年代は主にLNG船輸送業務を担当。インド・グジャラート州のLNG受け入れプロジェクトを牽引した。2008年LNG船部長、09年執行役員、12年常務、19年副社長を経て、21年4月社長に就任した。


人材について

今回の記事でも転職市場での離職者によるレビューをチェックしてみたいと思います。基本的に海運は就職難易度が高く、総合商社やディベロッパー、マスコミや外資系企業の次くらいに位置しているイメージです。給料も高く、海外駐在も積極的に行っています。

そんなエリート企業の商船三井ですが、住宅補助は2万円からスタートし、年数に応じて増加。MAXは32,500円ですので最上位帯の企業よりは少なめです。年収は30歳過ぎで1,000万円に到達する人も出てきます。20代後半で800万円前後。固定残業代制なので、残業を減らす努力をしている人も多いようです。

年功序列で昇進などはほぼ横並び、赤字部門でも黒字部門でもボーナスに差は無いですが、大手メーカーよりやや上の給料のため、そこまで不満に言う人もいないようです。最近は人事制度が変わったようですが、そこまで劇的に変わったわけでは無さそうです。

退職理由としては、3~4年毎の定期的な人事異動が必須であり、海外勤務含めてどこに飛ばされるか分からないことが挙げられています。特に子どものいる家庭は奥さん含めて家族への負荷が大きいようです。

40代であっても未経験のビジネスの管理職に配属されることもあるらしく、人によっては大きなストレスのようです。30代までは殆ど権限がなく、クリエィティブな仕事が少ないので成長を感じにくい職場のようです。お酒と接待、ゴルフも多く、昔ながらの会社といった感じで、海運大手だからといって他の大手メーカーとも大して変わらないように思います。


総括

商船三井の2023年の1Q決算は、おおむね予想通りといった感じでしょうか。円安による恩恵も大きく、原油価格もなかなか下がってこないので、あと数年は既存事業で稼いで、そこから徐々に脱炭素系の技術にポートフォリオを移していく、割と盤石な体制を築いているように思います。

自動車業界のようにバッテリーEVの脅威なども少なく、船舶自体に大幅な技術革新のゲームチェンジは無さそうです。船上に風車や太陽光を付けたりはしますが、設計そのものが大きく変わることは今のところ無さそうです。

問題は、グローバリズムがいつまで続くかということ。着実に地産地消の流れが出来てきていますから、船舶需要はいずれ世界で取り合いになることでしょう。

その時に、どんなビジネスポートフォリオを組んでいけるかがこの会社の課題です。米国にMOL Switch社を設立したことからも、長期的な注力分野はまだ確定はしておらず、ひとまずは分散して張っておくといった感じでしょう。



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