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【2Q決算分析】INPEX(2023年8月)

株式会社INPEXの四半期決算分析をやっていきます。INPEXの場合は12月決算ですので、今回の8月の発表の決算は2Q分になります。

細かい数字等は、IRや他の方の決算分析関連記事をご覧ください。当方は本業がSales&Marketingであるため、ビジネス的観点を割と定性的に見ていきます。そのため、本記事を基に行う投資結果については一切の責任を負いませんので予めご了承ください。

さて、INPEXという名前ですが、まだ馴染みの無い方もいるかもしれません。2021年に国際石油開発帝石株式会社がカーボンニュートラルに対応するために社名変更しています。元々の帝国石油は半官半民ですので、INPEXも未だ政府系の会社です。

「黄金株」という買収の株主総会決議事項における拒否権の付いた株式を発行でき、経済産業大臣が筆頭株主という少し特殊な会社なため、民間の上場企業ではあるものの、必ずしも普通の民間と同じではないということは念頭に置いておきたい企業です。

従業員は連結で3376人、単独で1329人、平均年齢39.9歳、平均年収969万円。1人あたり1億2900万円の純利益を稼いでおり、世界が化石燃料からの脱却を実現させない限りは日本版の石油王です。従業員数は少なく、年齢も比較的若めですので、日本でも数少ない優良企業と言って過言ではないでしょう。

4-6月期2Q 
売上 5003億[53%](6130億 -18%)
営利 2642億[56%](3561億 -25%)
経常 3284億[60%](3483億 -5%)
純利 1027億[79%]( 901億 +14%)

そんなINPEXの決算ですが、累計売上高1.07兆円、営業利益5,700億円という非常に良い内容です。前年同期比からすると営業利益率は58%から今回の52%に落ちたものの、凄まじく高利益の会社です。自己資本比率も60%超え。

https://p.sokai.jp/1605/highlight/index.html

製品は主に以下の3つ。

①原油:9.1%減も高収益は継続
②天然ガス:22.3%増
③LPG(LPガス)

実際は原油80%、天然ガス19.9%、LPG0.1%くらいの構成です。エリア別にみると圧倒的に中東アブダビでの売上が大きいです。比率で言えば50~60%くらいはあります。

天然ガスで売上が大きいのはオセアニア・東南アジアとありますが、実際は資源国家であるオーストラリアのことを指しているでしょう。

これだけの売上と利益を稼げているのは原油価格の高騰と法人税の減税、円安が効いているようで、年間1兆円近い利益を得ることが予想されていることから、この利益が次にどこに行くのかは非常に注目です。日本郵船は昨年のコンテナ船バブルで年間1兆円の利益を上げましたが、「向こう数十年の利益を1年で稼いだ」とまで言われており、この1兆円をどこの成長分野に投資するかが注目されています。INPEXの場合は長年莫大な利益を上げて大量の利益を得ていますので、ある意味では日本有数の投資機関と考えても良いかもしれません。

①水素・アンモニア:2030年150倍
②CCU/CCUS:400倍
③再エネ:2~4倍
④カーボンリサイクル(メタネーション等):25倍
⑤森林保全:事業参画

主にこの辺りの分野(ネットゼロ5分野)に開発費用を振り分けており、長期戦略でもこれらが注力分野と明記されています。営業CFの1割程度まで伸ばしたいとのこと。

化石燃料で稼ぎ切った後には環境関連にシフトして稼ぐ気満々であり、莫大な資金を投じて実証実験などを行っています。グリーンシフトすると事業ポートフォリオ的には厳しくなるとは思いますが、それでも現状や資金量から見れば盤石の体制なのではないでしょうか。やはり経済産業大臣が株主なだけありますね(笑)

ブレント原油が80ドル、想定為替レートが1ドル135円で計算していることもあり、円安と原油高はINPEXにとってはウェルカムです。仮に超円高になった場合でも、莫大な資金を投じて海外の成長企業を買収して取り込むことが想定されますので、人類が石油から脱却できない限りはINPEXは無くならないでしょう。


事業活動トピックス(石油・天然ガス分野)について

https://www.inpex.co.jp/ichthys/concept.html

日本企業が初めて事業主体として手掛けるLNGプロジェクトはやはりINPEXの事業の中でも注目でしょう。西オーストラリア・イクシスガス・コンデンセート田から産出された生産物を、ガスとコンデンセートに分離・処理を行う施設です。

日量最大1,657百万立方フィートのガスの処理が可能。大きさは約110M×約150Mと、半潜水式の海上生産施設としては世界最大規模となります。

LNGは日本にとっては重要な資源であり、脱ロシア産資源の流れが起きている昨今は特に天然ガスの調達は困難です。イクシスガス・コンデンセート田では約7割のLNGが日本に出荷されています。これは日本のLNGの年間10%程度に該当します。尚、パイプライン輸送についてはSaipem(伊)・三井物産・住友商事・メタルワンなどが関わっています。

今後は年間890万トン→930万トンを安定供給できる体制の構築を目指すとされています。また、2020年代後半に導入し、第一段階として年間200万トン 以上のCO₂の圧入(CCS)を開始する予定です。

次にアブダビ 海上油田・陸上鉱区についてですが、こちらは安定操業以外にトピックスは無いですね。INPEXの大事な収益源。

そして北海北部・ノルウェー海北部・バレンツ海にあるスノーレ油田の生産施設に対して、浮体式洋上風力発電から電力を35%供給するプロジェクトが進んでいます。こちらは株式会社INPEXノルウェーの子会社であるノルウェー現地法人INPEX Idemitsu Norge AS(IIN社)を通して行っています。出光との共同ですね。今回の洋上風力はエクイノール社のHywind(ハイウィンド)と呼ばれるコンセプトを使用し、11基の風車から88MW(東京都2.7万世帯分の発電規模)の出力を得ます。


成長戦略について

https://www.inpex.co.jp/company/pdf/inpex_vision_2022.pdf

INPEXは長期戦略と中期経営計画22-24を立て、その中ではカーボンネットゼロに向けた取り組みを掲げています。簡単に言うと、石油や天然ガスでギリギリまで稼ぎ、その裏で着々とカーボンネットゼロに向けた環境技術の強化と実績を積み上げようということですね。その途中経過として2030年に営業CFの1割、2050年にネットゼロ達成目標という時間軸です。

詳しくは上記のURLからINPEXの資料を見ていただいた方が良いかと思いますが、今期のトピックスを改めてこちらに記載しておきます。

①水素・アンモニア・・・新潟県柏崎市/ブルー水素・アンモニア製造・利用一貫実証試験の地上設備建設用地の造成完了
②CCU/CCUS・・・豪州/ダーウィン沖合における大規模CCS事業の
実現に向けた評価の実施
③再エネ・・・スコットランド沖合/モーレイイースト洋上風力
発電所の一部持分を取得
④カーボンリサイクル(メタネーション等)・・・新潟県長岡市におけるメタネーション試験設備、(400Nm3/h)の建設開始
⑤森林保全・・・カーボンニュートラル商品(ガス・ジェット燃料
等)の販売

投資額は2022年~2024年で約2,000億円であり、かなりの規模を次世代技術に投資していることが分かります。


人材について

今回も転職サイトの退職者レビューを調べていきます。人材はP/LやB/Sに出てこないリソースであり、従業員のパフォーマンスをどれだけマネジメントしているかによって組織の成果は変わってきます。(ただし、この規模感のビジネスは殆ど戦略で結果は決まりますが。)

昨今のINPEXは人事制度を変えており、属人的給与の廃止、幹部社員への職務給制度を導入したようです。名ばかり管理職の待遇が下がり、若手の待遇が上がったと見るのが良さそうです。海外駐在が無いと年収800万円台、あれば1,000万円到達するというイメージで良さそうです。

住宅補助は無くなり、35歳までの一部だけのようです。

離職者に多い理由の多くは、「裁量がない」「国内衰退で海外含めて転勤が多い」「高齢になるまでチャレンジングなことが出来ない」「民間だけど政治要因が多くて退屈」「原油や天然ガスの価格が下がったら厳しくなる」などをよく見かけます。

イメージ通り、お役所的であり、給料にはそこまでの懸念はないものの、大満足できるほどの水準でもなく、チャレンジする場も殆どないので真面目に堅実に、安定した仕事を続けたい人向け、といった感じでしょうか。


総括

INPEXについては良くも悪くも安定しており、業績は今後の石油と天然ガス需要次第ではありますが、今の世界情勢からしますとまだまだ安定的のように思います。

もちろん、再エネや蓄電シフトが思ったよりも早く進行し、化石燃料離れが加速しますとINPEXの収益減が消滅しますので、規模縮小→グリーン事業カンパニーになるしかありませんが、各国・各社のカーボンネットゼロ目標の時間軸を見れば、それが5年後に突然訪れるようなこともありません。

それまでに稼ぐ利益が莫大であり、しかも株主が経済産業大臣ですから、日本という国が無くならない限りは問題ないでしょう。それにしても営業利益率50%超えで年間1兆円近く稼ぐ会社って・・・。

やはりエネルギー。エネルギーこそこの世界の鍵ということです。


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