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【1Q決算分析】日本郵船(2023年8月)

今回は商船三井に続き、三菱グループの日本郵船の第1四半期の決算説明会資料をチェックしていきたいと思います。日本郵船はコンテナバブルにより2年連続で1兆円を超す経常利益を上げ、「数十年の利益をたった2年で稼いだ」とされています。オワコンと思われたコンテナ船事業の大逆襲が見事に決まり、ボーナスもとんでもないことになったという噂です。

そんな日本郵船の2023年の1Q決算ですが、売上高5,675億円、経常利益894億円(利益率15%)という結果でした。物流事業も航空運送事業もどちらもコロナの落ち着きで需要が減り、業績をかなり落としました。運賃価格の下落が効いています。セグメント別に見ると、定期船事業はやはりコンテナ船の需要や北米港湾の混雑解消で運賃ダウンが顕著。航空運送については国際線の便数が増えたことで貨物スペースが大幅に空いて運賃が落ちているようです。物流系はアジア発の貨物が減っており、やはり中国経済の減速がここでも露わになっているようです。不定期の専用線ですと、やはり自動車とLNGだけが好調で、ドライバルク事業は中国経済の影響を受けています。

通期予想は売上高2.17兆円、経常利益2,200億円という試算です。依然として高利益ではありますが、やはり中国経済の減速や世界的な地産地消の流れでどの程度、海上輸送需要が盛り上がるかが微妙なところです。

今後は本来の海外海運大手との熾烈な争いが待っているのは確実で、そのために日本勢はONEというコンテナ合弁会社を設立しています。ケニアに自営代理店を設置し、インドやアフリカ東岸の取り込みを狙っていますが、いずれにしても競合との取り合いといった感じです。

やはり商船三井と同様、莫大な利益を活かし、次世代の脱炭素技術にBETをしておく必要がありそうです。日本郵船の場合は、次世代アンモニア船の開発を進めていますので、こちらを本命に据えているものと思われます。

船自体にBETする日本郵船と、幅広く技術に分散する商船三井といった感じでしょうか。

日本郵船の場合は決算説明会資料の中に成長戦略の進捗報告の記載がなく、その点で商船三井よりも新規の投資に対して消極的な印象を受けます。


成長事業について

やはりこの手のことは組織のトップのスタンスを確認すべきでしょう。トップが積極的でない限り、組織は今日も明日も同じことをやり続けてしまいます。新規をやるなら人材やお金を投じる必要がありますので、その点の承認には必ず社長クラスの後押しが必要になってきます。

こちらのインタビュー記事にもある通り、日本郵船はアンモニア船に注力する方向のようです。市場がLNGやアンモニアなどのCO2排出量の少ない燃料
を購入するようになってくるので、それに対応した海運事業を進めていくということですね。その一部が、アンモニア燃料船の開発です。アンモニアの輸送のついでに、そのアンモニアで船も動かすということです。

これは、アンモニア輸送があれば必ず需要はありますが、アンモニアは製造するために多くのエネルギーを使用します。電気→水の電気分解→水素→アンモニア製造というプロセスを踏みますから、この過程でエネルギー変換ロスが大量に発生します。このプロセスが成立するのは安価な再エネの電気が余るかどうかであり、今のところそれは日本では起こらないという読みが入っています。中東や豪州などの砂漠地帯で太陽光発電をして水素を製造するということが前提となっています。

日本郵船の会長の場合は水素よりもハンドリング性の良いアンモニアでの運搬に期待をしているようです。

また、会長は造船業界についても関心が高いです。本来は日本郵船はどの企業に船舶を発注しても良いのですが、日本郵船は国内の造船会社に8割程度の発注を集めています。

「韓国はほぼ国策産業で、LNG輸送船や大型コンテナ船に特化し、圧倒的なシェアを誇っています。私どももLNG輸送船は韓国に発注するしかない状態です。」

このようにコメントはしていますが、アンモニア燃料船というのニッチ分野で日本の造船業界には生き残りを図ってもらいたいという意図もあるようです。

一方で曽我新社長は物流事業に関心が高いです。

コンテナ事業のONEは、競争が激化していますが、やはり王道のコンテナ船の受注競争を勝ち抜く気満々ですし、郵船ロジスティクスの名前を挙げて、世界的に高まっている物流事業の強化を狙っています。

郵船ロジスティクスは、収集、保管、検品、仕分け、ラベリングや再包装などの物流加工、指定先への配送、管理、ITによる情報管理サービスの提供などのサプライチェーン・マネジメントサービスを提供するほか、トラックや鉄道による陸上輸送、通関、フォワーディングに加え、海運・空運において他社スペースも活用した利用運送、輸入者を代行して輸出地で出荷・船積みの手配・管理を行うサービスなど、さまざまな物流サービスを提供しています。海運にこだわらず、物流会社化することを念頭に入れているという点で、総合インフラの方向性を行く商船三井との違いのように思います。


人材について

例のごとく、転職サイトなどでの退職者の口コミをチェックしていきます。

賞与は年4回、夏と冬のボーナスが多く、30歳で900-950万円程度の高給です。1年毎に1万円の月給が上がるイメージで、少しずつ実力主義に移行する様相もありますが、トータルして見ればやはり年功序列の会社です。海運バブル禍では賞与10か月+100万円という破格の待遇だったようですが、それも間もなく鎮静化。

退職者の理由としては、とにかく年功序列で横並びなのが不満ということで、管理職になるまでの社員のモチベ管理が上手く行っていないというレビューでした。

しかし、同世代の他業界と比較すると、総合商社やコンサル、ディベロッパーくらいしか待遇が上回る大手がなく、そのためか退職者は少ないですし、従業員満足度も高い点数が出ています。商船三井とほぼ同じなため、どちらに入社するかは成長事業の微妙な差異以外にはないように思います。コンテナ事業は川崎汽船との3社連合ですし。


総括

ぶっちゃけ商船三井とそこまで大きな差はないですが、注目点はアンモニア燃料船の開発と、今後の脱海運分野の投資先でしょう。

商船三井の方が北米に投資会社を設立していることから、次世代技術への関心が高いように思いますが、一方で日本郵船の強みはロジスティクス会社を持っていて、社長が物流の重要性を指摘している点です。

個人的には、物流事業は日本の既存のプレイヤーには付け入る隙が多いので、目の付け所は良いと思います。しかし、デジタル化の進捗などはあまり早く無さそうなのが日本郵船のイメージで、NYK(煮ても焼いても食えぬ)と揶揄されている企業体質が今後どのように変化していくかがポイントでしょう。

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