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東京都民は『女帝・小池百合子』に投票すべきか?

おことわり

筆者は小池百合子の支持者ではなく、また、アンチでもありません。感情として、好き、嫌いということもありません。このエントリーは前半が「女帝・小池百合子」の読書感想文です。そして、後半が都知事の資質を問うものです。

長いエントリーになってしまったので都知事選については最後の2節「豊洲移転の混乱の責任を取っていない」以降のみご覧いただければと思います。

『女帝・小池百合子』という本について

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2020年7月5日の東京都知事選挙を巡って、この本がとても売れているそうです。話題になっているので読んでみました。

こちらの本は、ノンフィクションの体裁を取った、小説です。小説の主人公は早川玲子さんという女性。彼女は48年前、カイロ、エジプトに留学していました。その際、ルームメイトの女性の秘密を知ってしまいます。その後、ルームメイトは著名人となり権力の階段を登っていきます。このまま秘密を隠していていいんだろうか。悩んだ末に、彼女はひた隠しにしていた秘密を暴露することにします。そのルームメイトの名は「小池百合子」、暴露した秘密とは「学歴詐称」。。

本作の著者である石井玲子氏は丹念な取材を強みとするノンフィクション作家です。今回も、3年半以上の年月をかけ、早川玲子さんを始めとする100人以上にインタビューし、200冊以上の参考文献を紐解いて、この作品を作り上げました。その高い取材能力と、読者に語りかける丁寧な表現力には舌を巻きます。ただし、そのモノの見方が斜めになっていなければ。

この本のどこがどう歪んでるのか?

この本は小池百合子氏が生まれてから、どのように子ども、学生時代を過ごし、テレビに出るようになって政治家に転身したのか?その足取りが丁寧に描かれています。それぞれの時代を一緒に過ごした人間にヒアリングをしているのですが、まあ、ことごとく、その相手から嫌われています。でも、嫌われている相手から話を聞けば、話が歪むのは当然です。

全編に渡って、いかに「小池百合子が嘘つきで自分勝手な野心しかない人間か」ということを伝えています。

例えば、若かりし頃の小池氏のことを語るエピソードとして次のようなことが出てきます。

「とにかく相手に自分を印象づける、そのためには名刺にも工夫を凝らす必要があり、だから自分は、「小池百合子」の下にアラビア語の表記を入れている。相手がそれに気づいて目を落とせば、すかさず、その場で相手の名前をアラビア語で書いてみせる。会話の中では「〇〇さん」と相手の姓名を入れるようにする。頃合いを見て印象的な贈り物をする。パーティーには、こまめに出席する。」

当時、小池氏はまだ大学出たての若いフリーランスの女性です。自己紹介は極めて重要だからそこに武器を考えるのは当たり前だし、これはなかなか工夫されたいい武器です。相手を姓名で呼ぶのは年齢男女に関わらず、効果的で重要なやり方がですが、ちゃんとできている社会人はどれだけいるでしょうか?印象的な贈り物をするためにはこちらも相手のことを覚えておく必要がありますし、パーティーに行くには呼ばれるだけの中身やコネクションが必要です。僕はここを読んで、これから身を立てていこうと思うひとが必死に考えてそれを実行しているというのはなかなか出来ないことだと素直に感心さえしました。

しかし、この著者にかかれば、上記はすべて彼女が男社会の中で大物に近づいて媚を売って成り上がろうとしている姿の実例。として紹介されているわけです。とにかく、すべてのモノをひねた見方をしているのがこの筆者です。

僕もひねくれていますから、そういう見方でこの本を読みました。「これ、小池氏が嫌いな人が言うからこう見えてるけど、反対からみたらどうなんだろう」ということです。

早川氏についてわかること

小池氏のことを語る人物として、メインとなるのはカイロ時代、ルームメイトとして一緒に過ごした早川さん。彼女がなぜこんなに小池百合子氏のことを憎んでいるのかはわかりませんが、とにかく憎んでいます。彼女の説明はとても具体的で、小池百合子氏が十分なアラビア語の語学力を持っていないことや、駐在員の男性にモテモテであったこと。カイロ大学の卒業は政治的な配慮に違いない、ということが理解できます。

この早川氏、どんな人物なのか?文中に端的に書かれています。早川氏は小池百合子氏が卒業して出ていったあと、残していったゴミの束をあさり、小池氏が男からもらった手紙を開封するような人です。また今回の告発をするにあたって、小池氏はエジプトの軍事政権と近いことから自分の居場所がバレるのを恐れているという記述が冒頭から末尾まで数回出てきます。その割に、最初の告発は日本の新聞社に対して実名で行っています。また、軍事政権下の外国人はほぼ居場所を把握されていると思って間違いありません。

なんでそんな危険な場所にいるのか?その答えに近いことが本文から読み取れます。

実は早川氏は小池百合子氏がワールドビジネスサテライトのキャスターになったあと、日本で再会をしています。小池氏のマンションで会ったあと、小池氏が子供服をプレゼントしてくれた、と言います。なんで子供服なのか?早川氏は写真を見る限り小池氏よりは背が高いです。早川氏の甥や姪に服をあげるというのも変でしょう。この本では早川氏のプライベートのことは「エジプトに安住することになった」という程度しか書いていませんが、再会の前に出産したのでしょう。小池氏がエジプトを去ってからほんの数年の間に。

今現在、早川氏に夫や家族がいるのか?どんな暮らし向きなのか?そのあたりは全くわかりません。

一つ言えるのは、早川氏の年齢はもう70歳以上、「死を意識するようになった年齢」と文中に記載があります。一定の年齢になると、若かった頃の思い出を色々と回想して、オーラル・ヒストリーとして残したい、という気持ちになる人は多いようです。場合によってはそうすることによって自分が生きていじた実感を得られる。抑うつに対するセラピーのような効果もあるようで、それは否定されるものではありません。早川氏にとっては、若い頃に2年間を過ごしたルームメイトが、キャスターになり、政治家になり、大臣になり、都知事になった。それを人に言うことが、いまの生きがいなのかもしれません。

阪上善秀という人物

この本では数々の小池氏の嘘や二面性、人としてどうかと思うエピソードが語られています。

阪上善秀氏も本書の中で小池氏のことを語る一人です。

1996年、阪上善秀氏は、宝塚市出身の政治家で、市議、県議を務めたあと、自民党公認で衆議院選挙に出ることになりました。ところが、突然同じ選挙区(兵庫6区)に小池百合子氏が新進党候補として鞍替えしてやってくることになります。小池氏がそれまで出馬していた兵庫7区には土井たか子がおり、小選挙区で1名しか当選できないとなると勝ち目がないと悟った小池氏が隣の兵庫6区に移ってきたのです。

「小池は接戦を制して一位で当選。二位の阪上は小選挙区では落選したものの、比例で復活当選を果たした。小池とこのような形で関わりを持ってしまったことにより、彼の人生は非常に過酷なものとなっていく。」(本文より)

一体、どんな過酷なものになったのでしょうか。

兵庫6区での選挙のあと、小池百合子氏は自由党・保守党と移り、自民党との連立政権に入り込みます。結果、阪上氏は小池氏はコスタリカ方式で交互に立つことを余儀なくされます。さらにその後の郵政選挙では、小池氏が刺客として東京10区に転出したことで、阪上氏は自民党公認を巡って揉めたすえ無所属となり、結局国政選挙では議席を得ることができなませんでした。というので、たしかに振り回された部分はあるかもしれません。

さて、その後、阪上氏はどうなったか?浪人の後、宝塚市長になります。直後に住民税や水道料金などが未払いであったことを明らかにされ、陳謝しています。さらに2年後、収賄容疑で逮捕されます。就任して1ヶ月後に市内の業者から金を受け取っていたことが明らかになったのです。捜査途中で他の収賄も明らかになって再逮捕されます。このことについて、ある野党議員の言葉としてこの本はこう書いています。

「無所属で出馬して、阪上さんは借金をすることになった。小池さんと出会っていなければ、小池さんが来なければ、逮捕されることもなかった」

これを読んで、僕は「そんなわけあるかい!」と読んでいたタブレットを投げそうになりました。そもそも阪上氏に小池氏の挑戦を跳ね返せるだけの実力があれば小池氏の侵入を許さなかったでしょうし、その後の公認でも揉めることはありませんでした。借金も贈収賄も全部自分の責任です。

阪上氏は脇が甘くて他人に付け入られる隙が多く、権力を得た途端、自分のために使う人なのでしょう。そんな人に他人の二面性や嘘を語られても、額面通り受け取っていいものかどうか首をかしげてしまいます。

この本には他にも小池アンチの人の話が色々と出てきます。なんといっても筆者自身が小池アンチであり、各種の表現にそれがにじみ出ています。徹頭徹尾、意地悪なものの見方しかしていません。

アンチの人の話にも何割かの真実が含まれているので、聞いてみることに意味はありますが、額面通り受け取る必要はないのかなと思います。

権力者に取り入るということ

小池氏はその時その時の権力者に取り入ってきました。

1988年、彼女が35歳のとき、ワールドビジネスサテライトの初代メインキャスターとなります。
「おれが彼女をキャスターにしたんだ」と公言する人物がこの本に出てくるだけで4人います。
・「テレビ朝日の天皇」中村順社長
・日経新聞局次長 池内正人氏
・テレビ制作会社インター・ボイス 静永純一社長
・「新宿2丁目の飲み仲間」のテレビ東京社員
書かれていない人間を含めるともっといるかも知れません。これだけ沢山の人が「自分の手柄だ」と言ってくれるのは、それだけ誇れること、ということです。35歳でそれだけの人間関係を築くのは並大抵なことではありません。

1992年 細川護熙に取り入って日本新党の名簿2位になって参院選当選
1993年 衆院選に鞍替え、日本新党・細川護熙が首相に。
1994年 細川を捨て、小沢一郎にすり寄り新進党→自由党へ
1999年 自自連立で再び与党へ
2000年 小沢を捨て、保守党へ、その後保守新党
2003年 自民党に入り、小泉に取り入る。環境大臣。「クールビズ」
2008年 自由民主党総裁選挙に立候補。推薦人代表は衛藤征士郎。
2016年 東京都知事就任。自由党離党。都民ファーストの会。
2017年 希望の党結党。民進党と合流。衆院選後、党代表を辞任。

小池氏は「政界渡り鳥」と言われていますが、まあ、節操がないです。

実は、権力者にとりいるのって、そんなに簡単ではないです。権力を持った途端、男女問わず、人が集まってくるからです。その中で飛び抜けて取り立ててもらうには、権力者側にとってメリットが無ければいけません。

あるいは取り入った後、没落するかもしれません。没落しそうなひとは選ばない嗅覚が必要です。細川氏に取り入ったとありますが、当時細川氏は知事を辞めたばかり。その後総理になるなんて誰も思わなかった頃です。総理になることが確実になった後は相手してもらえなかったかもしれない。タイミングを見計らう必要があります。

「あの女は大物に近づいて成り上がった」
と嘲るのは簡単ですが、誰にもできることではなく、嗅覚、タイミング、行動力、色んなものが必要です。そこは認めてもいいんじゃないかと思います。

ただ、そうまでしても成り上がることはいいことなのかどうか、それはわかりません。

結局、小池百合子はカイロ大学を卒業したのか?

答えは2つであり、その両方なんだろうと思います。

A「小池百合子氏は大学が認める正式な卒業証明書を持っている」

B「小池百合子氏はカイロ大学を卒業するのに十分な学力を持っていなかったのに、回りの男たちに取り入っていまの地位を得た結果、最終的に『卒業したことにしてもらえた』人物である」と。

Aについては証拠もあり、カイロ大学側もなんども声明を出していることからゆるぎありません。そしてBについては、いわば『裏口卒業』です。これも証拠がないわけではないですが、当事者(大学・本人)が認めることはないでしょう。なので、これからも論争は止まらないと思います。

作者の次回作に期待

それにしてもこの筆者の石井氏の取材力と描写力、筆力はすごいです。

この本も「小池氏のサクセスストーリー」として読むなら痛快な部分もあり、これだけ売れているのはもしかすると小池氏の支持者に相当売れているのではないか?という気がします。

一方で、意図的にか、「色恋沙汰」についてはあまり多くのページを割かず、彼女の政治遍歴に関わるごく一部の重要なところだけを書いているに過ぎません。しかし、実際の取材の最中には、小池氏の恋愛遍歴について、相当程度に情報を得たはずです。

今回書かなかった部分をまとめて、第二弾「女帝を抱いた男たち」も見てみたい気がします。

小池氏の都知事としての実績はどうなのか?

小池氏の「7つのゼロ」はどうなったのでしょうか?

・待機児童ゼロ   → X 18,000人あまりがいる
・残業ゼロ     → X 都庁職員の残業時間は横ばい
・満員電車ゼロ   → ※
・ペット殺処分ゼロ → ○ 2018年に達成
・介護離職ゼロ   → X 
・都道電柱ゼロ   → X 横ばい
・多摩格差ゼロ   → X そもそも定義が不明
※満員電車はコロナで一時期ゼロになりましたが、多分戻ります。

ゼロになっていなくても道筋がついていれば、例えば就任以降4年間で継続的に前年比マイナス10%とかにでもなっているなら、功績として誇っていいと思いますが、統計さえちゃんと出されていないのは問題だと思います。

小池氏は公約をたった一つしか実行できていません。さらに、行政のトップとして大きな失敗をしています。

豊洲移転の混乱の責任を取っていない

「豊洲移転」については彼女一人の意思と責任で大きな問題を作り出しました。2年間の先送りと、その間に無駄にされた公金。

さらに、「環状第2号線の整備により、2020 年に東京で開催されるオリンピック・ パラリンピック競技大会において、晴海の選手村と競技会場等を結ぶ重要な道路に位置付けられ」(東京都第一建設事務所)ているはずの環状第2号線については、完成がオリンピック後に伸びるのみならず、暫定迂回路を作るなど工費が増えています。なお、オリンピックは延期になりましたが、環状2号線の完成も2021年8月末に伸びたので、結局、オリンピックには間に合いません。

それ以外にも、打ち水や朝顔などどうでもいいパフォーマンスばかりが目立ちます。自民党で広報部長をやっていたように、彼女はプロデュースやメディア・プロモーションが得意なのであって、政策は得意ではないと思います。

豊洲移転は彼女が引き起こした大きな混乱の一つであって、小さなものに関しては数限りなくあるはずです。都の職員による評価にもそれは如実に現れています。

小池氏のやった成果で僕が評価しているのは元Yahoo!JAPAN社長の宮坂氏を副知事にしたこと、のみです。

小池氏の真価は人脈であり、コロナ対策でも独自に専門家を招聘するなど、その人脈を遺憾なく発揮しました。

都民として、彼女に期待したいことは、民間から優秀な人を呼んできて、都政を合理的に前にすすめることです。それは彼女に期待できる役回りです。

「コロナの第2波が怖いのでとりあえず小池氏に」というのは正しいと思います。一方で、思いつきで都民に大きな迷惑をかけており、そのことについて反省をしていません。こういう場合、どう投票したらいいのでしょうか。

誰に投票したらいいのか?

2020年7月の都知事選挙はほぼ無風。何もせずに小池百合子氏が当選すると思われます。各種調査がそれを裏付けています。

では、「投票に行っても結果は変わらない」のでしょうか?

違います。

国の仕組みでは、議員は国民が選びますが、内閣総理大臣は国会が指名をします。

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そのため、参議院とはねじれが発生することはありますが、衆議院とのねじれは起こりません。

一方、地方自治は「二元代表制」を取っています。

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知事は議会に選んでもらったわけではないので議会に忖度する必要がなく、議会もまた、知事が自分たちのトップというわけではないので、知事の行動を厳しく監視することが出来ます。互いに相手を牽制できる機能は、一元代表制に比べて強く働きます。

現在の都議会の議席内訳

二元代表制ではありますが、知事の選挙を支える、という意味では与党、野党の分類は存在します。

現在の都議会の議員内訳はこうなっています。

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前回の都議選では、都民ファーストの会が50人擁立して49人が当選するという大勝利を収めました。この勢いで、希望の党を作り、その後、グダグダになる、という事態となっています。
(なお、上記は前回の都議会選挙直後の状況です。今回の都知事選では、自由民主党は小池氏を支援しています。)

今後の東京での選挙の予定

2020年 7月 東京都知事選挙(今回)
2021年 7月 東京都議会選挙
2021年10月 衆議院任期満了(解散がなければ)
2022年 7月  参議院選挙

来年の都議会選挙で都民ファーストが勝ち、その勢いで国政選挙になだれ込むとなると、また、小池百合子氏に風が吹き、希望の党のときのような国政に復帰するような動きがないとも限りません。それは困ります。

コロナ対策においては、都知事として専決事項で一部の予算を決めるなど、リーダーシップを発揮しました。有事のときは頼りになりますが、平時のときは、築地問題のような火のないところに火をつけに行く人です。これからさらに4年間フリーハンドに任せるのは不安です。ブレーキが必要です。

誰が小池氏の首に鈴をつけるのか?

二元代表制ですから、議会がブレーキになります。今の状態ではブレーキになりませんから、次の都議選では、都民ファースト以外に勝って貰う必要があります。

そのためには、今回、小池氏に勝たせすぎず、他の候補に入れる、というのも一つの意思表示になるのではないか?と思います。

どうせほっといても小池氏が勝ちます。でも、他の人に投票してもそれは「死票」にはなりません。来年の都議会戦、その次の参院選につながります。

僕自身は「小池氏以外で一番考えが近い人」に投票しようと思います。


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