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加速するエレベーター広告の可能性 株式会社東京の羅悠鴻代表に聞く

リッチコミュニケーション総研(RC総研)」は、マーケティングに関わるすべての方へ、次世代のマーケティングを行うヒントを提供します。

海外のトレンド、注目テクノロジー、新しいメディア情報、リサーチ結果など、マーケティングの最新情報を、定期的にお届けします。

第三弾では、「いま再注目されるアウトドアメディア」と題して、タクシー広告やエレベーター広告の現状と未来について考察しています。

前編はこちら)

「マーケターが求めていた BtoB メディア」としてのエレベーター広告

近年加速するデジタルアウトドアメディアの中でも今注目が集まり始めている、エレベーター内での動画広告配信に取り組む株式会社東京の羅悠鴻代表へ のインタビューを掲載しました。

ターゲットを絞って情報を届ける戦略、BtoBメディアとしての可能性などについて、非常に刺激的な話となっていますので、ぜひご一読ください。

株式会社東京 羅悠鴻 代表取締役

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1993年生まれ、愛知県出身。東京大学理学部にて「はやぶさ2」グループリーダーの杉田教授に師事。卒業後、同大学院の関根研究室に進学し、宇宙生物学を専攻。モルガン・スタンレー・キャピタル株式会社でのインターン経験から、従来見逃されていたエレベーターという日常生活の中での「淀み点」の可能性に着目し、2017年2月に株式会社東京を創業。エレベーター空間の課題解決を起点に、「手ぶら革命」の実現を目指す。


日本のエレベーター広告市場の現状

RC総研:日本のエレベーター広告の現状と最近の動きを教えてください。

羅代表:日本のエレベーター広告市場は最近かなり伸びてきていて、シェアのおよそ9割がうちの会社なので、うちの売り上げで見ると、今年で言えばYoYで500%ぐらい成長しています。市場規模自体はまだまだ小さくて、本当にやっと草創期の真ん中まで来たかな、という感じです。

事業者としては弊社以外にあと2社ぐらいあります。エレベーター広告事業には2つ軸があって、広告を掲載する場所と、広告を掲載する端末によってマトリックスを分けることができます。それぞれ、広告を掲載する場所はエレベーター内とエレベーターホールの2つ。

広告を掲載する端末は、ポスターとディスプレイとプロジェクターという3つがあり、合計で6象限のマトリックスに分けることができます。

うちは第2世代のエレベーターホールでのディスプレイ「東京エレビGO」と、第3世代のエレベーター内でのプロジェクター「エレシネマ」を展開しています。他社では、エレベーター内のディスプレイをやっているところが多い印象です。

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RC総研:第2世代のモニターと第3世代のプロジェクターでは、見え方の印象が全く違います。

羅代表:モニターとプロジェクターは訴求が異なります。モニターには、インカメラで防犯機能があってエレベーター内を映せるところが、不動産オーナー向けの売りだったりします。

一方でプロジェクターは、商業施設だとお客さん、オフィスだったらテナントさん、マンションだったら住人さんと、コミュニケーションを取るツールとして使われていることが多いので、特性の違いがあります。広告媒体として言えば、もちろん第3世代のほうが圧倒的に見やすいですね。

また、僕らは第2世代から第3世代に舵切りをしつつあるんですけれども、広告って所詮は目と耳だと思うんです。

視界の何パーセントを占有しているかは非常に重要な点で、プロジェクターは「エレシネマ」という名前を付けているくらい映画館に近い画面占有率があるので、それだけインパクトがあるメディアになっています。

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エレベーター内の扉にプロジェクターで映像を投影する、spacemotion株式会社の「エレシネマ」


爆発的に成長している中国のエレベーター広告市場

RC総研:エレベーター広告の先進国・中国は、日本と市場規模が全然違うと聞きますが。

羅代表:全く違いますね。中国だと、ブランディングする時にはまず最初に取り入れる、日本で言うとテレビCMみたいな存在なんですね。

中国では、この20年ぐらいで、エレベーターの数が8万台から700万台に増えているんです。新しいエレベーターを設置するのに合わせて、ディスプレイなどを配置してきた経緯があります。

あと、これは日本でも言えることですが、クライアントでスタートアップがめちゃくちゃ多い。

ベンチャー投資って、基本的には広告費と人材に使われると言われます。日本だと、その広告費はGoogleやFacebook、場合によってはテレビCMで使ってしまう。中国では、大型調達、例えば数十億円調達したとかユニコーンになったりとかした場合、まずエレベーター広告を打ちます。

そういったブランドを、エレベーター広告はメディアとして持っているんです。たくさん調達してエレベーター広告を出すというのが、ベンチャー企業にとって1つの勝ち筋になっているんですね。

RC総研:中国のエレベーター広告で、先進的な取り組みはありますか?

羅代表:活用事例として面白いのは、動画が動画で終わらないことです。中国のエレベーター市場で最大手のFocus Mediaはアリババから2400億円も出資を受けていて、アリババのニューリテール構想の1番上に見られている会社なんです。

何をやるかと言うと、エレベーター広告でアリババグループの淘宝(タオバオ)などの広告を流して、そのビルで買われたもののビッグデータを突き合わせている。アリババのアプリでロケーションデータは取れるので。ネット広告でみんながやっているようなことをリアルでもやっています。

僕が面白いなと思うのは、中国はもう完璧な因果関係は捨てて、相関を取りにいっていること。

日本だと、例えば「ビーコンします」とか、「QRコードを表示します」とかやるじゃないですか。でも、エレベーターの中で広告を見て、その場で買う人ってあまりいないと思うんです。

BtoBのサービスならなおさらです。毎日見る中で、自然と思い浮かぶようになって、結果購入する流れだと思うんです。直接の因果関係を取りにいっていないというのが、中国はクレバーだなと思いますね。

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出典:FocusMedia

RC総研:クリエイティブ面ではどうでしょうか?

羅代表:特に短尺化がすごく激しいという印象があります。それと、音のクリエイティブはすごく面白いです。

エレベーター広告って受動的に見る媒体で、中国人って日本人以上にスマホをいじるので、見ていなかったりもするので。例えばダジャレを使うとか、もう最悪見なくても、毎日聞いていたら覚えるよね、みたいな。そこがすごく強い。

例えば、中国でAirbnbで2泊したところがあるんですけれど、コンテンツ3つぐらい覚えています。

エレベーターなんて1日4回ぐらいしか乗らないわけで、たぶん10回ぐらいしかエレベーター乗っていないはずなんですが。しかも、すごくタイトなスケジュールで動いていたので、全然広告を見ていなかった。それでも3つ覚えていたので、音の効果ってすごく大事なんだなと思いました。

RC総研:広告全体でエレベーター広告の立ち位置はどうなんでしょう。

羅代表:中国でのエレベーター広告の立ち位置は、例えばこの前、中国の広告関係の方に聞いたんですが、もうエレベーター以外にまともな広告がないと言っていました。

それくらい必要不可欠な媒体になっていて、特にリテラシーが高くて年収が高い層が見るメディアとされています。そうした層は広告はそもそも見ないし、広告を非表示にするために課金してしまう。

そんな中で、ある意味、強制的に視聴させられる媒体、かつ受動的な態度で刷り込めてしまう媒体というのが他にないので、エレベーター広告が一強になっている印象です。

ここ数年、中国で何が起こっているかと言うと、エレベーター広告に資金がどっと流れ込んでいるんです。

アリババが出資して、バイドゥも出資して、テンセントも出資してという。いずれも本業は広告業なんですが、ネット広告ではユーザー数が増えないので、ARPUを増やすしかなく、ROIがどんどん悪化していく。そうすると、「もうオフラインのほうが安いんじゃない?」という話になりつつあるという、オンラインからオフラインの逆流というのが、今ちょうど起こり始めているんです。

エレベーター広告は、今までニッチメディアの中での王様という感じだったんですけど、ここから先はたぶんネットも含めての統合的な中での覇権争いみたいなことになってくると思います。

その中で、もっともっと成長していくメディアなんじゃないかなと思っています。日本と比べると2世代ぐらい先を行ってる印象ですね。

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出典:FocusMedia


中国市場と比較した日本市場の成長可能性

RC総研:かなり先行している中国市場の状況を踏まえて、日本のエレベーター広告市場の展望はどうでしょうか?

羅代表:この20年ぐらいでエレベーターの数が8万台から700万台に増えている中国に対して、日本はと言うと、60万台から67万台。向こうが100倍増えているのに、こっちは10%しか増えていない、という大前提はあります。

ただ、日本の展望としては、中国ほどじゃないものの、盛り上がっていく自信はあります。基本的に経済全般でtoC向けのサービスが圧倒的に多い中国に対して、日本は市場として資本主義が長いので、BtoBの産業が積みあがっていく産業構造になっている。

その中でこのところ、タクシー広告もそうですが、BtoBに広告を打つ需要がかなり伸びてきている。

なので、うちの会社も基本的にはオフィスビルに注力して、BtoBで決裁権がある人向けのメディアとして訴求をしています。

BtoBという、中国とは違う方向でエレベーター広告の活用が伸びていくと考えています。日本は、エレベーター1台あたりの広告の集まり方が、中国以外のアジアの国、韓国やインドネシアの比じゃないくらい集まることになるでしょう。

僕らは、「エレベーターというのはコミュニケーションメディアです」といつも話しています。人としゃべりながら見る媒体って、強いて言うならテレビぐらい。

一方で、オフィスのエレベーターって絶対誰かと乗る。エレベーター広告は、CMを通してコミュニケーションが生まれる媒体だと思っています。

RC総研:国内の、広告媒体の中での立ち位置はどうなっていくと予測していますか?

羅代表:基本テレビがどんどん落ち込んでいく中で、その差分をどこかの会社が取るんだろうなと思っています。

YouTubeやTikTok、AbemaTVなどが伸びていく一方で、能動的に接するメディアのため、視聴態度として広告は嫌われる、出しすぎると逆にブランドイメージが傷つく恐れがあります。

そんな中で、ブランドイメージを担保しつつ、受動的な態度で見てもらえるメディアという意味で、エレベーターは結構いい場所だと考えています。

今、テレビ広告って、広告費自体は微減ぐらいなんですが、見ている人の数は激減している。これからどんどんコスパが悪くなっていくんです。

そうすると次を探さないといけなくなってきて、これまで以上にインターネット広告に集中して、それからアウトドアメディアという流れになると考えています。先行している中国では、まさにインターネットからアウトドアメディアへの流れがもう来ているので。

今のうちの会社の台数が1000台で、ジャパンエレベーターサービスさんが7000台とかなので、台数ベースで言うと、国内でエレベーター広告が配信されているのは1万台程度。

そのうち収益が見込めるのはまだ1200台程度でしょう。日本全体でエレベーターは67万台あるので、おそらく5%、だいたい3〜4万台ぐらいの規模までは、ほぼ確実に5年程度で広がるんじゃないかなと考えています。

すでに2万台程度導入されている韓国と比較しても、人口比で日本が2倍と考えたら、同じく4万台ぐらいのポテンシャルはありますね。収益が見込める1200台が、これから40倍程度までは成長すると考えています。

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エレベーターホールのディスプレイで映像を配信する株式会社東京の「東京エレビ GO」

RC総研:エレベーター広告の見通しについて、マーケター向けのアドバイスはありますか?

羅代表:BtoBの企業であれば、今から広告を出していただいたほうがいいと思います。

大切なのは、広告が何回見られたかよりも、コンバージョンしたかどうか。お問合せが何件来たか、セールスが訪問したときにお客さんがどれだけ知っていたか、広告を出したビルでどれだけ決済のスピードが上がったかなどの数字を追っていただければ、すぐ効果が分かります。

そのあたりの数字が可視化されつつあるので、結構ホットな媒体になりつつあるのかなと思います。

すでに全てのエレベーターで別々のコンテンツを配信できますし、乗っている人がどこのテナントの会社の人か把握する技術も、今後可能にしていきたい。

例えば、顔データと行動履歴、エレベーターの速度データ履歴から、誰が何階のどこの会社の社員か把握するなど。個人情報の話もあるので慎重にやるのは当然ですが。

こうした形で、例えばアドネットワークを構築したいからメディアの会社に広告を打ちたいとなった場合に、新宿区にあるメディアの会社の決裁権を持っていそうな30代以上に向けて訴求する、みたいなことがどんどんできるようになると思います。

BtoBをやってる企業にとって、オフィスビルの中に広告を出すって、ずっと夢だったんじゃないかなと思うんです。

出せるものなら出したいけど、そんな場所はないでしょ、と。だからこれまでは、屋外広告とか、インターネットとかで広告を出していた。

そういう意味で、オフィスビルのテナント向けに、これだけの訴求力を持って、かつ反復的に視聴させられるというのは、夢の媒体なんじゃないでしょうか。ぜひ積極的に活用していただきたいと思います。



*上記記載情報は2021年10月時点のものです。
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