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制作会社から、リッチコミュニケーションカンパニーへ。「リチカ」の創業物語

カクテルメイク株式会社が産声を上げたのは2014年10月。「株式会社リチカ」への社名変更にいたるまで、どのような変遷をたどってきたのだろうか。社長の松尾幸治さん、カスタマーサクセスマネージャーの川嶋紗也香さん、山崎孝昌さんの3人に今までを振り返ってもらった。


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松尾さんは福岡で「社長.tv」という、中小企業の社長の動画を撮影してアップするプラットフォームで働いていた。しかし会社が事実上の解散をすることになり、東京へ。一軒家のシェアハウスを友人と3人で借り、起業した。その時他の会社に入るという選択肢はなかったのだろうか? 松尾さんにたずねると「いつか起業したいなとは思ってたので、タイミングがいい機会だなと思ったんですよね」とちょっとふんわりした答えが返ってきた。

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カクテルメイク最初のオフィスは、一軒家のシェアハウス。

とりあえず働かないと収入もない。起業資金はなんと祖母に借りた、というぐらいだった。加えて「ビジョンとかなかったですね」という通り、とにかく来る仕事を受ける日々が続いた。「とりあえずホームページとか作ろうかなと思ってたら、知り合いから『これできないの?』って言われたりして」。前職のCTOでもあった創業メンバーの橋本さんにお願いし、制作を受けてもらっていた。

1つ仕事を受けると、実績ができる。そうするとそれを見てさらに声がかかる。好循環が続き、仕事は増えていった。「ありがたいことに実は当時、営業したことがなかったんです」と松尾さん。2人でスタートした会社だが、2015年になり前職の同僚がジョインする。シェアハウスの3部屋あるうち、彼は松尾さんの部屋に居候し、仕事も生活もともにする時間が始まった。「その彼が動画も撮れるので、動画系の制作を受けることも増えてきましたね

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仕事はある、とはいえ大きな実績がないので、低価格で受けて納品するという状況が続き、その頃のことを松尾さんは「業務スーパーの蕎麦ばっか食べてましたね」と思い返す。だが結果的に1年目、売上が2000万ほど立ち、利益も残った。「ちゃんと経営したら利益が出るし、売上も立つんだなってその時思えたんですよね」。とはいえ自社サービスと言えるものはなく、当時は制作会社としてカクテルメイクはあった

1年目の終わり頃に加わったのが山崎さんだ。さすがにシェアハウスを職場にするのは手狭となり、マンションを事務所として借りた。山崎さんは実は、松尾さんと大学の時に同じバンドサークルに所属していた仲。新卒では松尾さんと別会社だが、松尾さんが社長.tvに誘い、ともに働いていたこともある。会社の解散でいったん離れたが、またともに働くことになった。山崎さんは「スタートアップをやりたいと思ってたら、拾ってもらった感じですね」と振り返る。

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当時の業務内容はメディアの記事制作や運用代行、動画制作など。「最初は案件をほぼ松尾さんが作ってきてる感じでしたね。動画の案件が増えてからは制作ディレクションをやったりしましたけど、とにかく『これ』っていう仕事はなかったんですよ。事業内容も何も決まってなかったんですよね」と山崎さん。ただ、時代の流れ的に動画へのニーズが高まり、制作案件でも動画の比率が高まっていった。


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創業して3年がたち、売上も立ち利益も残り、今ある従業員にちゃんと給料を支払えるぐらいには業務がまわっていたカクテルメイク。だが制作会社として案件を受ける以上、労働集約型のビジネスモデルからは抜け出せない。松尾さんは「どこかで終わりが来るだろうと。このまま労働集約型でやっていてはまずいな、何かサービスを作っていかないといけないな、という思いがありました」と当時を回想する。そのタイミングで入社したのが川嶋さんだ。川嶋さんは当時大手通信会社の営業をしており、カクテルメイクに営業をかけたのが縁だった。

2017年の3月に川嶋さんが入社し、4月にリリースされたのがカクテルメイクの初めてのサービス、「動画工場」。これは一体どんなサービス? と聞くと「動画をたくさん作りますっていう、今思うと頭の悪い事業です(笑)。とにかくサービス名を何かつけようと思って作りました」と笑いながら話す松尾さん。同時にFacebook上でお酒のメディア「Coaster(コースター)」もリリースした。「これは、社名にサービスを近づけたかったというものあるんですけど。当時C CHANNELをはじめとしたSNS上の動画メディアが盛り上がってきている頃でもあったので、自社でもメディアを持っていたほうがいいなというのがありましたね」

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2017年当時の集合写真と企業ロゴ

とはいえ、サービスをリリースしたからといって劇的に何かが変わるわけではない。川嶋さんはそれまでバリバリの営業をやってきたが、「営業会社じゃないと思って入社したのに、やってることは前職とほぼ一緒でした」と笑う。「これを売る、っていう商材がなかったので、土曜日とかにリストづくりをして、企業の問い合わせフォームやFacebookページに『動画いりませんか?』って売り込んだりしてたんですよね。めちゃくちゃゴリゴリの営業ですよ(笑)」。そうして川嶋さんが取ってきた動画制作案件の撮影ディレクションを担当していたのが山崎さん。「まあ、なんでも屋さんですよね。仕事は自分で見つけるみたいな感じでしたよ」

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3つ目のオフィスへ移転。壁にはCOCKTAILMAKEの文字。

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話は少し戻るが、4月にリリースされたサービスは「動画工場」、お酒のメディア「Coaster」のほかにもう1つあった。それが「リチカ by動画工場」。動画制作というと必ず撮影が入ると思われがちだが、すでにお客さんがもっているホームページやチラシなどのビジュアル素材をもらえれば、そこから動画をつくりますよ、というサービスだった。撮影なしで動画を制作できる。それをお客さん側がシステムとして使えるように進化させたのがRICHKA(リチカ)」で、7月にβ版がリリースされた。


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サービスがリリースされたからといって、何かが劇的に変わるわけではないーーと先ほど書いたが、この時は変わった。一夜にして変わった。朝9時にプレスリリースを出した途端、2日間で100件を超える問い合わせが押し寄せてきたのだ。問い合わせが来ると携帯に通知が飛ぶようにしていた松尾さんは、「通知がなりすぎて、(通勤中の)自転車でコケました」。川嶋さんは怪我して出社してきた松尾さんのことをよく覚えている。

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プレスリリースに掲載した画像。ロゴやUIは現在とは異なる。

しかし問い合わせが増えたからといって、いきなり社内の対応人員が増えるわけではない。リチカの担当は川嶋さん一人だ。「正直、ちょっとパニクって一瞬逃げました。誰でも名前を知っているような会社からも問い合わせが来たり、どうなってるの?という感じでした」。結局初動でお申し込みをいただいたのは30件ほど。申し込みが取れるとそのクライアントに対応する時間ができ、新しい問い合わせに対応できない。当時は新規問い合わせの際は必ず対面での説明に行っていたため、アポイントを入れる時間が取れない。そうすると次の月の獲得率が下がる。「もう自分ひとりではとうてい対応できなくなりました。それがカスタマーサクセス部署立ち上げのきっかけにもなりましたね」

ところで、なぜリチカはそんなに多くの人に注目されるサービスとなったのだろうか? 松尾さんは、当時月額10万という安価だったことも要因ではないかという。「月額10万って、制作会社では受けたくないぐらい低い金額なんですよ。1回100万、とかで受けてガッツリリソースを割く、っていう考え方に普通はなると思うんです。SaaSビジネスを作るぞ! って思わないとなかなかできないので、手を出さない会社のほうが多いと思うんです」


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多くの注目を集めたリチカβ版だが、「当時、完全に『システム』になってたかというと疑問ですね」と松尾さん。今は動画のフォーマットが500あり、契約したその日から使えるサービスだが、当時はお客さんごとに1つフォーマットを作り、それをずっと使ってもらう、という形態だった。「同じフォーマットしかないので解約される方も多くて」と川嶋さん。「それで、クリエイティブチームに毎月1本オリジナルフォーマットを作ってもらうことにしました。単純に言うと、12か月契約していると12フォーマット使えるようになるという(笑)」。試行錯誤の連続だった

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リチカの利点は「動画を簡単に作れること」だが、はたしてその先になにがあるのか? 作った動画を使ってマーケティングに役立てていくのが理想形だが、当時は事例も何もなかった。当時は3人がリチカに主に関わっていたが、カスタマーサクセスの部署を立ち上げるにあたり、川嶋さんは「売って終わりじゃなくなったな」と感じたという。「それまでは売った人がそのお客さんをずっと担当するのが当たり前だと思っていたんですが、カスタマーサクセスを立ち上げるにあたり、『抱え込まない』という思考に切り替えないといけないなとも思いました」。結果的にカスタマーサクセスは、今では欠かせないリチカの心臓部にもなっている。


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順調にクライアントを獲得していったリチカ。翌年2018年4月にはシステムをリニューアルし、正式リリースとなった。同時にリリースされたのが「RICHKA for MEDIA」。これは「CMのような動画も簡単に作れるのではないか」という期待値を持たれたこともあり、そういったニーズに応えるために入り口を別に作ったサービスだ。今ではこれはリチカに吸収されているが「お客さんにあわせて、ターゲットごとにしっかり提案を変えていくという方針は変わらないです」と3人は口をそろえる。

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2018年、展示会に出展した際の様子

そして2018年9月、創業からほぼ4年が経ったタイミングでカクテルメイクははじめて資金調達を受けることになる。制作会社がスタートアップになった瞬間だった。出資の話は前年にリチカβ版をリリースした頃から来ていた、と松尾さんは思い返す。「なぜなのかよくわかんないありがたい話なんですけど、家入さん(一真、現CAMPFIRE CEO)から『投資するよ』とメッセンジャーをいただいてて」。だが、スタートアップをやろう、と思って起業したわけではない松尾さんはなかなか踏ん切りがつかなかった。「ずっと自己資本でやってたんですけど、でも『ここだな』と思ってアクセルを踏もうと思ったので」資金調達を決めた。

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調達して一番変わったことはなんだろうか? 「先に人を採用することに躊躇しなくなりましたね。『もっと採用しなきゃ』っていうマインドに変わりました」。実はこの頃もまだ制作案件を受け続けていたが、リチカの成長とともにその比率は減り、会社全体がリチカに注力する体制に徐々に移行していった。


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ひとつのサービスに注力すると、世間の注目もさらに集まってくるものだ。資金調達をして2カ月後の2018年11月には、リチカはYahoo!JAPANがクリエイターの制作活動をサポートする「Yahoo!JAPAN クリエイターズプログラム」の公式ツールに認定される。松尾さんがたまたま飲み会で知り合ったYahoo!社員の人に「面白いことやりそうだね」と声をかけてもらい、提案を持っていって決まったという。うまくまわっているときは、いい縁もころがりこんでくる。

リチカはそれまでそれまでメディア系の企業を中心に提案してきたが、2019年に入り広告用途としてのニーズが増えてきていることに気づく。「みんなで矢野総研の資料を読んで、『これからは動画広告だ』っていう話になって」と川嶋さん。このタイミングで2月にリリースされたのが「RICHKA for Agency」だ。ここまで細々と、月1つのペースでフォーマットを増やしていたリチカだが、ここで動画フォーマットの数をさらに増やすと決めたのだという。

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リチカ利用規約についての検討会議

広告ニーズにシフトしたことで、飛躍的に案件の数が増加した。山崎さんは「社内もけっこう大変になりました」と振り返る。「何を作ったらいいかわからないので、とにかく仮説を立てて、市場にある動画広告を真似してフォーマットを作ったりしていましたね」。川嶋さんも「反応が来すぎて、質問を受けすぎてわけわからなくなりました」とも言う。「当時は代理店がやりたいことを知らないまま出していたんです。やりながら改善していく、ということをずっと続けてきました。お客さんがみんな優しくて、そのお客さんに育ててもらったという感じもありますね


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時を同じくして松尾さんたち経営陣が奔走していたのが、シリーズAの資金調達だ。前回の投資は会社の将来性を見込んでくれた投資家から声がかかった、いわばエンジェルラウンド。しかし今回はVCから調達すると決め、2018年夏頃から準備を始めていた。「正直、苦戦しました。このへんで初めて本当に『スタートアップ』になったと思います。正直、よくわかってなかったんです」。それはなぜか? 今まではいち制作会社だったからだ。「なんとなく成長できてきたから、このままなんとなく成長できるもんだって思ってたんですよ

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2019年2月の様子。デスクから溢れ出るほどにメンバーが増えた。

「今だから言えますけど、僕たちのプレゼンが未熟すぎて『なんで息してるの』レベルに言われたこともありました」と笑う松尾さん。後半になればなるほど思考も整理されてきて、VCへの説明もうまくできるようになってきた。「足元の数字も伸びてきて、自信がついてきたのもあります」。

結局2019年2月に2.1億円を調達。「この経験で、スタートアップの人たちが成長されるのはいい意味で外部からボコボコにされるからなんだな、っていうのがよくわかりました。それも、想像以上のレベルで(笑)。それを乗り越えている人たちは勝手に強くなってるんだなって思うんですよ」。ボコボコにされた人たちを、いつか見返したい?「色んなアドバイスのおかげで今があるので、全然見返したいとかそんなことはないんですけど、ちょっと原動力としてあるかもしれないですね」とにやりと笑った。


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5月には動画広告のフレームワーク「AIBAC」を公開。この頃から「動画でマーケティングといったらリチカ」というポジションを獲得しはじめる。ちなみにAIBACとは、Attention、Interest、Benefit、Actionの略。今まで作ってきた数万本の動画のノウハウを元に作ったこのフレームワークを公開することで、明確にステージがあがった。

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2019年5月には動画マーケティングセミナーを実施。

事業の成長とともに採用も強化、6月にはオフィスを移転。それまではずっとマンションの1室をオフィスとして使っていたのだが、このタイミングで本当に「オフィス」になった。移転にあたってこだわったことは、半分をフリースペースにすることだったという。松尾さんは言う。「仕事をする場というより、人が集まる場にしたかったんですよね」。退職した人、パートナー、お客さん……いろいろな人が集まれる、グラデーションのコミュニティを作りたいという思いがあった。社内にはバーもある。これも社名、カクテルメイクにかけたものだろうか? 「それもちょっとありますけど、やっぱり集まれるきっかけになればいいなっていう気持ちがあって意図的に作った感じですね」

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カクテルメイク集合写真_190527

2019年夏、現オフィスへ移転。

7月にはリチカで制作された動画の累計本数が10万本を突破。12月には「名刺 THE MOVIE」、2020年に入って3月には「ビジネス動画スタンプ」と動画を使ってビジネスを円滑にするサービスもリリースしている。


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リチカが成長するにつれ、カクテルメイクの業務=リチカになってきた。社内ではさらにリチカに注力し、お客さんの声を丁寧に拾い、新機能をリリースするなどアップデートし続けてきた。6月には動画マーケティングの先駆者としてYahoo!と協業し、ディスプレイ広告における動画広告の共同研究を開始。このタイミングでみずほ銀行が主催し、イノベーティブな事業に挑戦するスタートアップ企業を評価する「Mizuho Innovation Award」の受賞も決まった。

2020年は世界を覆ったコロナ禍で、誰も予想できなかった世界が到来した。リアルで会うことが難しくなったからこそネットへの情報量の流入がさらに増え、動画制作、動画マーケティングのニーズはますます高まっている。そして一度オンライン化した潮流は、完全に逆流することは決してないだろう。その証拠に、リチカでの動画制作数は10万本到達するまでにベータ版リリースから2年かかったが、20万本に到達するまでは1年足らずと加速している。

そういえば、「RICHKA」のサービス名の由来を聞いていませんでした。そうたずねると、松尾さんはちょっと照れくさそうに「『リッチ化』ってことです。それをそのままローマ字にした、ダジャレなんですよ」と笑った。はじめは軽い気持ちのダジャレだった。それがどんどん成長して大きくなり、たくさんの人たちの想いを実現するものとして広がっていった。そして2020年12月21日、カクテルメイクは「株式会社リチカ」に社名変更。自らを「リッチコミュニケーションカンパニー」へと再定義した。

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なぜ、このタイミングで社名変更を行ったのか。それは、伝えたい想いを適切な方法で伝えていく「リッチコミュニケーション」が求められる時代になると感じたから。

このコロナ禍において生活様式や働き方は一変、デジタルやオンラインでのコミュニケーションの重要性はますます増加している。そんな中で、想いやアイデア、コンテンツを、届けたい相手に正しく、効果的に伝えることはますます肝要になってくるだろう。

今後は動画の枠にとらわれず、サービスを展開していくという。「僕たちがやりたいのは、テクノロジーとクリエイティブを使ってあらゆるコミュニケーションを伝わりやすく、リッチにしていくこと。動画の領域だけにこだわってはいないんです」と松尾さんは語る。

コミュニケーションを、ビジネスを、世の中をもっと「リッチ」にするーーこの会社は、今また新たな段階に足を踏み入れようとしている。

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(編集協力/株式会社WORDS

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