第11話 バイト先での体験談

李さんの親戚の孫かひ孫が体験した話。大学生のとき、彼女はピザ屋でアルバイトをしていた。飲食店だと安く、運がよければタダで飯にありつけるという魂胆で始めたピザ屋のバイト。初めは配達や調理現場が忙しく、バイトが終わるたびに疲労困憊していたものの。慣れてくると楽しく働ける、いい職場だった。人間関係にも恵まれ、大学生活との両立も上手くいったので、彼女は日々の生活に満足していた。
そんな折だった、彼女があの注文を受けたのは。

彼女が働いていたバイト先ではネット、アプリ、電話から注文を受け付けていた。ほとんどの注文がネットだったこともあり、彼女は電話注文への応対に慣れていなかった。
その日、珍しく電話注文を受けた。応対したのは彼女だった。
「xxピザを1つ、お願いします」
か細い声だった。声の主は住所と名前を伝え、電話を切った。いつも通り彼女は調理担当に注文内容を伝えた。「はいよ」という威勢のよい声。店長が
「届け先はどこ?」
と訊き、彼女は先ほどメモした電話の内容を伝えた。その瞬間、明るくて賑やかな店内が、一斉に凍りついた。彼女はその店で一番の新参者だったため、注文を伝えただけで空気がおかしくなったことに、正直驚くしかなかった。ただ1つわかったことと言えば、彼女が伝えた住所か名前のどちらかに何か問題があるということ。店長は
「わかった。どうもありがとう」
と言うと店員を通常業務へと戻し、店内は賑やかさを取り戻した。それでも彼女は見逃さなかった、どの店員の顔にも、緊張の色が浮かんでいたところを。

その日の配達当番は彼女だった。彼女は先ほどのか細い声の主が住んでいるところにピザを配達した。到着した先は、普通のマンションの1室。彼女はインターフォンを押し、ピザの配達に来た旨を伝えた。ドアが開き、中から出てきたのはやせ細った白い腕。その手には代金が握られていた。彼女はドアの開口部から中を覗き込むと中は暗く、腕の主の姿はほとんど見えない状況だった。
「ピザは、ドアの前に置いておいてください…」
気味悪さに寒気を覚えながらも彼女はピザを置き、料金を受け取った。
「ありがとうございます」
と言い終わるか終わらないかのうちに、部屋の主は中に入ってしまった。一方の彼女はその部屋の主が男か女かすらわからない状態であったこともあり、恐怖を感じてすぐにその場を離れた。

翌日も、同じ電話を受けた。今度は別の人が、同じピザの注文を。注文を受けた瞬間、その同僚の顔が青ざめたのを、今でも覚えているそう。その人は電話機を置くと、
「xxピザです。1つ……」
昨日と同じ凍った空気が奔った。その日、彼女は調理担当だったが、
「悪いけど、配達お願いしてもいいかな?」
と、配達業務を押し付けられた。嫌々ながらも彼女は引き受け、昨日と同じ住所に向かった。
到着すると、彼女はマンションの部屋の前に、昨日と同じピザの入れ物が置かれていることに気づいた。見たところ、中身に手を付けた痕跡がない。客の奇妙な行動に怯えながらも彼女は勇気を出してインターフォンを押した。
「ピザは、ドアの前に置いておいてください…」
前の日と同じやり方。彼女は代金だけを受け取ってそそくさとその場を去った。

そんな配達が1週間も繰り返されると、誰だって疑問を抱くもの。彼女は店長に、その電話とその住所について問い質した。
「僕も正直、本当のところはよくわからないんだ」
と、店長は答え、こんな話をしたそうだ。

その電話の主は毎回同じピザを注文する。それは毎年、一定期間繰り返される。その期間は、大体1週間から長くて1ヶ月。ピザの中身は手を付けられない。季節はまちまちだが、一連の配達が終わった後は半年以上の期間が空く。店長自身は、昔そのマンションのその部屋で凄惨な殺人事件があったという噂を聞いただけとのこと。その店で一番長く働いていた人も、詳細は知らなかったそうだ。店員たちは皆気味悪がっている。しかし代金を支払われている以上、配達しないわけにはいかない。そのため毎年、その一連の配達は繰り返されているそうだ。

店長と話してから数日後、その年の配達は終了した。2、3ヶ月後に彼女は別のバイト先を見つけ、そのピザ屋を辞めたそうだ。


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