第18話 金素永(김 소영)

その少女は彼女の学校にもいた。これは、李さんの親戚の孫娘かひ孫娘の体験談。

初等学校の頃、彼女の学校にはある不思議な話があった。それは、ある少女の話。その少女は「金素永」といった。「金素永」は、日本で言えば「トイレの花子さん」に近い存在だ。ただし「トイレの花子さん」とその少女との相違点はいくつか存在する。そのうちの1つは、花子さんがトイレ限定なのに対し、その少女はどこにでも出没すること。またトイレの花子さんが日本全域で知られているのに対し、その少女はごく一部の地域や学校でしか知られていない。
それらの相違点の中で一番顕著なもの、それは「金素永」が幽霊と言うにはあまりにも身近で、恐怖の対象と言うよりは、どちらかというと精霊やおまじないの類に近かった。特に女子の間では、「金素永」に占ってもらうことが流行っていた。

彼女が体験した不思議な話というのも、その少女の占いに関すること。彼女はある日、友達の女子たちと放課後の教室でおしゃべりに興じていた。思春期に入るか入らないかの女子にとって、恋愛は背伸びして触れてみたいもの。子供同士でドキドキしながら恋の話をし、雰囲気が盛り上がった勢いで、友人の中の1人が言い出した。
「金素永に占ってもらおうよ」
そのとき話題に出たのが、ある男子のこと。その彼「朴正道(박 정도)」は勉強が得意で、おっとりとした男子。小太りでメガネをかけたその姿はイケメンからは程遠いものの、彼はその温和で優しい性格から、一部の女子の間で一定の人気を誇っていた。
「朴正道って、どんな人と結婚するのかな?」
結婚は遠い未来の話、そのくらい幼かった彼女たちは、早速占いを実行に移すことにした。彼女が占いに参加するのは、実は初めてだ。それでもその方法については友達との会話を通してすでに知っていた。彼女はロッカーにあるスケッチブックから紙を1枚取り出し、そこに鉛筆で占いに必要な文字列を書いた。後で消して紙を再利用するための、鉛筆というチョイス。母音と子音が並んで描かれた円と、その中央に書かれた「はい」「いいえ」。中央に硬貨を置いて、1人が
「金素永様、金素永様、悩める私たちのためにお越しください」
とお願いの口上を述べた。半信半疑だった彼女がひとりでに動き始めたコインに驚いたのは、言うまでもない。緊張を隠しながら、彼女はその後の展開を待った。
「金素永様、金素永様、朴正道の結婚相手を、私たちにお教えください」
コインは動き出した、ゆっくりと、1つずつ文字を指していくコイン。紙面を這い回ったコインは文字を指し終えると、「はい」「いいえ」の中間に来て、動きを止めた。
「え、うそ、朴正道の結婚相手って、A(李さんの親戚のその娘の名前)じゃん!」
全く予想だにしていなかった答えに、うろたえる彼女。しかしそんな戸惑いも一瞬のこと。
(きっと誰かがふざけて私の名前を指示したんだろう)
その場は盛り上がり、彼女も「えー、信じらんなーい」などと言って調子を合わせた。楽しい話として終わった、彼女が少女だった頃の、ある日のおしゃべり。彼女が朴正道を意識したのは、それが初めてだった。

夫との馴れ初めを聞かれても、初等学校で「金素永」に占ってもらったことは、誰にも話していない。あまりにも突飛な話だから、話す機会がなかったとのこと。
「ずっと、好きでした。結婚してください」
それが、今の彼女の夫、朴正道のプロポーズの言葉だった。
「運命って、本当にあるのかしら?」
2人は温かい思い出を育んできたのだろう。李さんの親戚の孫娘かひ孫娘のその彼女は、温かい笑顔でそんな話をしてくれた。


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