第9話 彼女の本性は…

とても悲しい出来事だった。2001年9月11日、留学先で出会ったその大切な友人は亡くなった。世界貿易センタービルに衝突した飛行機に、その友人、Chloeは乗っていた。これは李さんの親戚の孫娘かひ孫娘が留学中に体験した話。

李さんの親戚の孫娘かひ孫娘がその友人と会ったのは、留学中のこと。その子は高校を卒業してから、アメリカのある大学へと進学した。彼女が入った大学は東海岸の方だったこと、またIvy Leagueのうちの1つだったこともあり、周囲に日本人はいなかった。学業でも、友人関係でも、そんな心細い状況にいたその子に声をかけてくれたのが、Chloeだった。Chloeは西海岸の方の出身、社交的な彼女は学内で打ち解けるのも早かった。Chloeの友達ということもあり、少数ではあったが、その親戚の子にも友達ができた。英語を母国語としなかった親戚のその子の勉強を助けてくれたのも、Chloe。Chloeには感謝してもしきれないほどの恩義をその子は抱いていた。

Chloeは在学当時、フランス出身の留学生、Pierreと付き合っていた。Pierreの実家は資産家であり、その彼の振る舞いが上品であったことが印象的だった。Pierreは英語が堪能だったこともあり、学内の女子からは熱烈な人気を博していた。親戚のその子にとって、Pierreは雲の上の存在。そんな彼が選んだのは、Chloe。当然の結果だと言える。2人は学内で理想的なカップルとして映っていた。
そんな2人を引き裂いたのが、あの同時多発テロだった。Chloeは実家に戻る途中の飛行機に乗っており、不幸なことにその飛行機がハイジャックされた。テロ発生時、親戚のその子はテレビを見てただ驚くばかりだった。画面の中で叫ぶ人たちの声は火花のように飛び散り、ビルからは灰色の煙が立ち上っていた。そんな恐怖の熱気を一気に冷ましたのが、Chloeがあの飛行機に乗っていたという事実。彼女の心に、黒くて冷たい雨が降り注いだ。Pierreも同じ心持ちだったのだろう。後日、Pierreとその子が遺品整理の手伝いのためにChloeの住む高級マンションの部屋に来たとき(Chloeの実家もお金持ち)、彼の心はずぶ濡れ。Pierreは灰色の雲に覆われていた。

部屋に入り、2人は大学のことやお互いの出身国での出来事など、Chloeとは関係の話をして気を紛らせながら片付け作業を進めていた。先に来ていたのは、Chloeの母親。母親は娘の死を嘆くばかりで、ほとんど片付けが手についていない様子だった。

片付けが進み、2人はChloeの寝室やって来た。そこでPierreはある冊子を発見した。それはChloeの日記、2人とも、彼女が趣味で日記をつけていることは知っていた。しかし実際はPierreさえも中身を見ることはなかった。
「How about sort of reading it? Something necessary might be written. (それを読んでみるのはどうですか? 必要なものが書かれているかもしれません。)」
提案したのは、Pierre。今となってはChloeに気を遣ってもしょうがない。それに、彼の言う通り何か彼ら2人が知っておいた方がいいことが書かれているかもしれない。そう思い、2人は日記のページを開いた。2、3ページ繰ったところで、2人は息を呑んだ。

「原文: January, 3rd, 2001, Wednesday

It was a deadly cold winter, even in my home town. But it was better comparing with the residence of mine in xx (here comes the name of state where Chloe lived). But my slave, Szymon, could get by in this freezing room. This creature is tough like a cockroach, but nasty like puke. After opening the door of the place where he stayed, I spat him and reminded him of the pains I’ve inflicted him by kicking, scratching and punching. Being naked seemed to be tough in terms of low temperature rather than the sense of shame, which most of people would feel if they were exposed naked.
After finishing a shoutout of new year, I supplied him feed he hadn’t been given in days. Of course, the feed was mixed with my spit and snot.

Vacation time is over. And studies begin again. Including the pleasure I can feel by torturing Szymon.


和訳: 2001年1月3日、水曜日

故郷でも寒い冬でした。しかし、それはxx(Chloeが住んでいた州の名前がここに来ます)の私の居住地と比較すると、よりよいです。しかし、私の奴隷であるSzymonは、この凍結するような部屋で何とかやっていくことができました。この生物はゴキブリのように丈夫ですが、嘔吐物のように嫌です。彼が泊まった場所のドアを開けた後、私は彼に唾を吐き出し、蹴り、ひっかき、殴ることで彼に与えた痛みを思い出させた。裸であることは、ほとんどの人が感じるであろう恥ずかしさよりも低温という点で彼にとって厳しいようでした。
新年のご挨拶を終えた後、私は彼に、彼が数日も与えられなかった餌を与えました。もちろん、餌は私の唾と鼻水と混合されました。

休暇は終わりました。そして再び勉強が始まります。Szymonを拷問することで感じることができる喜びも含めて」

唖然とする2人。そこに書かれていた内容は、普段のChloeの明るくて親切だという人物像とはかけ離れた負の側面だった。「Slave(奴隷)」、「Cockroach(ゴキブリ)」、「Torture(拷問)」など、虐待の事実が伺える表現が、その日の記事にだけでも散見された。2人は恐怖しながらも、日記を読み進めていった。

「What a wonderful gift Szymon is! He is miserable like Muslims, sub-intelligent like the disabled, and helpless like beggars. I’m sure he was born to become one of the degraded creature, ranking even lower than slugs, cockroaches, and earthworms.
(和訳: Szymonはなんて素晴らしい贈り物でしょう! 彼はイスラム教徒のように惨めであり、障害者のように知性に欠け、物乞いのように無力です。 彼は、ナメクジ、ゴキブリ、ミミズよりも低いランクの、劣化した生き物の1つになるために生まれたと確信しています。)」
「Szymon is destined to be tormented like the Poland at the time when the impoverished-all-the-time country had been governed by Nazi. Which was why I chose him as my slave for fun.
(和訳: Szymonは、ナチによって統治されていた当時のいつも貧しい国、ポーランドのように苦しめられる運命になっています。 だからこそ、私は彼を楽しみの奴隷に選んだのです。)」
「Thank god, Hitler didn’t kill his family. Which is why I could get as a toy for me, Szymon, who is one of the most contemptible creatures around the world.
(和訳: 神に感謝です、ヒトラーは彼の家族を殺しませんでした。 だからこそ、私は世界で最も軽蔑すべき生き物の1人であるSzymonをおもちゃとして手に入れることができたのです。)」
「What is fortunate for me, and unfortunate for Szymon is that the cockroach is from Poland, which had been conquered, governed, and abated by other more powerful countries, and which has been starving from the beginning of the country. Which is why, I'm allowed to do to him whatever harsh, brutal, and life-threatening stuff.
(和訳: 私にとって幸運であり、Szymonにとって不幸なのは、そのゴキブリは他のより強力な国によって征服され、統治され、和らげられ、国の初めから飢えていたポーランドの出身だということです。 だからこそ、私は彼に過酷で残忍で生命を脅かすものを何でもすることを許されています。)」

目を疑うような記載が並んでいる日記に、2人とも当惑し、恐怖することしかできなかった。日記が3月に差し掛かったところでPierreは冊子の後ろに何か紙の束が挟んであることに気づいた。恐る恐る、彼はその束を取り出した。それは写真の束、撮影されていたのは、2ショット。満面の笑みを浮かべるChloeと、痣や傷に覆われ、恐怖と悲しみの表情を浮かべた全裸の男性。その写真の男性がSzymonであることは、容易に想像ができた。そんな凄惨な光景が、どの写真にも克明に映し出されていた。
呆気にとられる2人。それでも、Pierreは
「Staying stoned makes no use. Let’s get back to what to do.
(和訳: 固まり続けることは役に立たない。 すべきことに戻ろう。)」
と言って、作業に戻ろうとした。写真を戻そうとしたそのとき、彼はあることに気が付いた。
「You see this? The edge of closet. I think this is a closet in this room, isn’t it?
(和訳: 見える? クローゼットの端。 これはこの部屋のクローゼットだと思いますよね?)」
Pierreが指摘した箇所は、クローゼットの扉の端。それは確かにこの部屋にあるクローゼットと酷似していた。他の写真を見ると、同じクローゼットが映っているものが他にも存在することがわかった。
「He may be confined in the closet in this room.
(和訳: 彼はこの部屋のクローゼットに閉じ込められているかもしれません。)」
2人はクローゼットの方に行き、恐る恐る扉を開けた。ガタッ、という物音と共に出てきたのは、やせ細り、全身傷や打撲痕、痣で覆われた全裸の男性。彼はすでに死体だった。

もし、Chloeがテロに遭遇していなかったら、その亡くなった男性は今も苦しんでいたのだろうか?

世の中には、恐ろしい本性を持った人間がいるという話。


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