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記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
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完全版発売記念小説『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』を語りたい

今まで読んだライトノベルの中で最も衝撃を受けた作品
『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』通称みーまー
高校時代、俺妹や俺ガイルなどの有名作品が陳列された図書室のラノベコーナーに少しだけ古い雰囲気を纏わせている作品を手に取った、それが本作。

ポップでキャッチ―な表紙が多いラノベイメージを覆し、セピア系のブレザーを着て真っ赤なリボンを身にまとう清楚系美少女に興味を持ち、読み始めた。
学園モノで、主人公とヒロインの微笑ましい王道ラブコメ会話劇も進んでいくものの、主人公とヒロインの想像を絶する過去があり、2人の行動に驚愕し、真相が明らかになったときは鼓動が高鳴りました。
明らかに他の作品より狂っていて、常識はずれで異端。

そんな作品がつい最近メディアワークス文庫で完全版として蘇りました。
ずっと読み直したいと思っていたものの本屋どころか古本屋にも消失していて、完全版が発売されたのを知り、大変嬉しかったです。
この機会にその魅力を知って頂きたいと趣味全開の記事にしましたので、興味を持っていただいたら是非ご自身で読んでいただきたいです。

〈あらすじ〉
主人公僕とヒロイン御園マユは田舎町にある校長が藤原基経で生徒会長が菅原道真と平安貴族の名前が連なることが特徴くらいのごく高校に通う高校生。
しかし、その田舎町は平和とは程遠く連続殺人事件と幼い兄妹の誘拐事件が現在進行形で起きていてさらに、8年前にも同じような事件が起きていました。
そんな町で暮らす僕もマユは友達が少なく、お互い学校で顔を合わせても話す仲ではないですが冒頭僕はマユの下校中を尾行し始めます。
そして、一人暮らししていると思われるマユのマンションの中に自然に入り込む犯罪ムーブをかまします。
当然マユは困惑して自衛しますが僕が「まーちゃん?」と投げかけるとマユは警戒を解き「みーくん?」と崩れ落ちながら僕に抱き着くのです。
僕とマユは8年前の誘拐事件の被害者であり、どちらも誘拐犯にありとあらゆる暴行を受けていたのでした。事件の縁で結ばれていた2人が再会を果たしますが、僕の目的は再会だけでなく誘拐事件の真相を暴く事でした。
僕はマユこそが現在起きている誘拐の犯人だと知っていました。マンションに幼い兄妹が押し込まれている現場で確証を得ると、彼女を救う方法を実行していきます。

〈ラブコメ要素とミステリー要素〉
被害者同士が再会することでこれからの淡いボーイミーツガールな物語が期待されると思いきや誘拐の被害者であったマユが今度は加害者側に回っていたことで波乱をぞわぞわと予感させます。
そして僕の行動は誘拐をしたマユに子ども達を解放するように説得するとか警察に突き出すとかではなく、理解しようと一旦犯罪に加担して同居することを決めるのです。
マユに誘拐された兄妹は被害者で、今も被害を受けているのにもかかわらず僕は様子を見るということはマユ同様僕の倫理観も狂っている……その背景には誘拐されたという被害者同士にしか分からない絆や同情があるからでお互いの正義のボーダーラインは誰にも理解できません。
僕自身も殺人で殺されたらそれで終わりだけど、誘拐は事件が終わっても生きなければいけないと、誘拐による消えない痛みを表現しています。

マユは僕と再会した喜びで、「みーくん!みーくん!」とイチャイチャカップル並みに懐くようになり、誘拐した兄妹にぞんざいな扱いをしていたマユも僕に説得されてパンからやきそばに与える食べ物を変更するなど僕を慕っている面もあります。(解放を説得しろよとは思いますが)
さらには嫉妬深い面もあり、いわゆるメンヘラ系で怖いです。
そんなマユは誘拐事件の2人目の被害者でもあり僕以上に事件による心の傷が深く、僕と一緒の時は機嫌がいいですが、日中学校では誰にも注意できないレベルの問題児で机に顔を伏して寝ています。対して夜は誘拐された時のフラッシュバックが起きて自傷行為や奇声を上げ、誘拐された兄妹に心配されるレベルのPTSDを発症しています。

会話の中身には事件のことは書かれておらず、会話自体はやれやれ系主人公と厄介系ヒロインのウィットに富んだ会話を含むラブコメですが、僕の前では愛を全開に表現して幸せそうに振舞う背景は一面の不幸、だから適度な愛情表現も分からない。まさに1巻のサブタイトル「幸せの背景は不幸」に相応しい関係です。
ラブコメの背景にあるどす黒い過去が漂ってきているのが本作品にしかない魅力だと思います。

作品の特徴として、嘘つきみーくん、とタイトルにある通り主人公僕は語り手ながらいわゆる信用できない語り手になっているミステリーです。
現在進行形で起きているもう一つの事件は連続殺人事件で9人殺されています。その犯人として疑われているのが僕であり、その解決も物語の一筋となっています。
僕の安定しないことにより行動が全く予測できず、終盤の衝撃展開の鍵になっているところが叙述トリックミステリーとしての面白さがあります。
(ロジックを備えた本格的なミステリーではなく読者が推理するには情報は偏っている部分はありますが)

僕も事件の被害者であることでマユほど表面的に出ていないものの心に深い傷があり、過去を思い出すことに抵抗があるのと、人を信用できなくなっています。そのため、心のケアをする精神科にも心を開かなかったり、事件を追う刑事には適当なことを言うなど、世の中に対して斜に構えている性格のため、戯言シリーズのいーちゃんこと僕の「戯言だけどね」のように作中「嘘だけど」のセリフを多用しています。
主人公の語りはいわゆるやれやれ系の主人公像ですがマユに誘拐をやめさせて、普通の女子高生に戻って欲しいと。そのためなら自分が事件の責任を負おうと覚悟している姿はかなり異常だけど好きです。
入間人間の作品はほとんどが1人称語りで、誰かに想いを寄せているというキャラが多く、時には万人には理解できないような愛情がありますが、行動や気持ちは純粋で読んでいて気持ちがいいです。

ネタバレを含んだ解説があるので嫌な方はここでSTOP


〈事件の真相について〉
物語の終盤、僕はマユがした誘拐事件と町で起きている連続殺人事件を同時に解決するためにとある行動に出ます。
それは僕が誘拐事件の罪を負うことを覚悟した行動です。
殺人鬼がうろつく夜に、僕がへまをしたという建前で誘拐された兄妹を逃がして、それを追いかける理由で僕が町を徘徊し、あらかじめ呼び寄せた殺人鬼と対面させることで、僕と殺人鬼の直接対決に持ち込むことでした。
どういうこと?ってなると思いますが一つ一つ説明します。
マユが誘拐していたことを知っていたのと同様に僕は最初から殺人鬼の正体が分かっていました。
その殺人鬼の正体は同じ学校の生徒会長藤原道真です。
僕は藤原道真に手紙を送り、兄妹を解放した夜、町に呼び出しました。誘拐された子どもには解放する条件として誘拐犯の正体は目隠しをされていたので分からないと警察に証言させるため口裏を合わせておきます。下準備は上手くいき、僕は菅原道真を倒して警察に突き出し、無事兄妹も保護されました。(罪を被る覚悟をしていたことから兄妹が犯人を知っていると言われるのも覚悟の上でした、そうなった時はすぐマユの罪を被れるよう誘拐した子どもを追いかけたら殺人鬼に出くわして捕まえてしまったと証言して納得してもらえるような目立てる行動に出たのです)

何故菅原道真が連続殺人をしたのか、その理由は過去の誘拐事件と彼も深くかかわっていたからでこれが物語最大のトリックになっています。
8年前に誘拐された子どもは正確には僕とマユではなく、菅原道真とマユだったからで、僕が事件を知っているのは僕は誘拐犯の息子だったからです。つまり菅原道真=みーくんであり、マユはずっと勘違いしています。

とんでもないトリックです、それがトリックとして成立するのは先程にも書いた僕が信用できない語り手だったからです。
実際にマユは僕に「みーくんが連続殺人をしているの?」と尋ねるシーンでは僕は「いいえ」というセリフを言いますがそのセリフに合わせた心情として〈僕は嘘をつく〉と言うのです。
説明するのがかなりややこしいので読んでいただくのが一番ですが、読み終えた時はマユと読者どちらにも嘘をついていると気がつく面白いシーンです。
ただ、僕はただ読者に嘘をついていたわけではありません。嘘をついている事情があります。
8年前の誘拐事件の真相を説明します。僕には兄がいました、しかし兄が自殺してしまうと僕の父がおかしくなります。父はそれから僕に虐待をしていて、それだけにとどまらず、菅原道真とマユが誘拐すると1年間ありとあらゆる暴行をしていました。
そんな時に僕は父が子どもを誘拐しているという事実を知ります。しかし、警察に駆け込む前に父にバレてしまい、僕も誘拐された地下の牢獄に入れられます。
誘拐犯の息子が同じ牢獄の中という状況は道真とマユにとって今までの恨み辛みのはけ口で、僕は父と道真、そしてマユに嬲られました。

誘拐された道真とマユはお互いを信頼し「みーくん」「まーちゃん」と励まし合いますが道真に限界がきたことでマユを無視したり庇わなくして段々と孤立させます。
そしてマユの精神も段々と崩壊しはじめた頃、誘拐事件の終わりとなる出来事が起きます。
父はマユの両親を呼び出して、マユに両親を殺すように命令します。
そんなことができないとマユは必死に抵抗しますが、僕の父が殺さなきゃ殺される状況を作ったことでついにマユは自我を失いついにボーダーラインを越えます。
与えられたナイフで両親を殺し、さらには僕の父を殺し、それだけでは足りず、僕も殺そうと襲い掛かります。しかしそこに僕の義母が身代わりとなり僕は生き残るのです。
マユが自我を取り戻した時、辺りは大惨事、当然パニックになります。いつもなら「みーくん」である道真に助けを求めるところですが道真は見当たりません。その代わりにいたのが僕でした。
マユは「みーくん?」と僕に向かって言うと僕が「まーちゃん」と答えて安心させたことで、僕はその時二代目、ないしは代理としてマユの「みーくん」になりました。

それから時が流れて高校は一緒でも僕はマユに接触しませんでしたが誘拐している事実を知ったことでもう一度「みーくん」の代理としての役目を果たすためにマユに近づいて僕なりの解決をとったのです。

父に虐待され、さらには誘拐犯。マユと道真には嬲られて味方がいなかった僕ですが事件が終わった後も殺人鬼になり果てた本当の「みーくん」に代わりマユを支える。その動機も深くえぐられるので是非読んでみてください。

長くなりましたが、当時みーまーを読んだ時は本当に衝撃的でした、少年少女の犯罪、想像を絶する過去に思わず拒否をしたくなるような感情にもなりましたが僕の貫いたマユへの心や叙述トリックとしての面白さに作品の虜になりました。
完全版では、その事件を追憶するアフターストーリーが収録されていますのでまだ読んでいない方も読んだ方もご一読いただければと思います。








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