プロのギタリストになりたかった話

 初めに言っておきますと、要は自分の人生が平凡であると知った話です。
珍しくもない退屈な話ですがそれでもという方はどうぞ。 

 初めてギターを触ったのは5歳ぐらいの頃だったと思います。習い事として、先生に就いてクラシックギターをやっていました。その頃は、ギターのことは特別好きでもなく、むしろ嫌いだった気がします。練習しないと親に怒られるし、弾けないところを深夜まで泣きながら練習させられることもありましたから、苦行に近かったです。ギターに対して受身な姿勢で弾いていて、ある意味では機械的な演奏をしていました。
 中学生になると元々洋楽が好きだったこともあってエレキギターに興味が湧きました。父のエレキギターを借りて初めてアンプに繋いで弾いた曲は、チャック・ベリーの「Johnny B good」でした。それからはTAB譜を見て好きな曲を弾いたりして、上手に弾けると楽しくて、やっとギターに能動的に接するようになりました。今思えば当時から私には向上心というものが全くなく、「誰よりも上手くなりたい!」とか「難しい曲を弾きこなしたい!」みたいな野心は全くなく、良くも悪くも「弾きたいから、弾くんじゃ」みたいな本能的な動機しかなかったですね。なので、上達のスピードは大して早くないです。それでも、中学生後半ごろにはE・クラプトンの「Crossroads」くらいなら弾けるようになっていて周りの人からはギターがうまいともてはやされていました。
 高校生になると学校のコミュニティを超えて、音楽を通した人脈が広がりました。学校の友達がバンド活動を始めて私にもたくさん人を紹介してくれたのです。自分よりギターが巧くて、本気でプロを目指しているような同年代の知り合いも何人かできました。今思えば、この時にうまく立ち回っていれば音楽業界に片足突っ込むこともできたのかもしれないですが、私はそうはしませんでした。なぜなら私は根暗なので、ライブハウスの、怖いお兄さん達がたむろしてタバコを吸っているような空間が嫌いだったからです。ライブハウスにいる同年代の子達も当たり前のように喫煙(違法)していて、真面目な私はそこに馴染むことができませんでした。それに、どこか「馴れ合いなどしなくても俺には俺の個性があるから」みたいな痛い逆張り意識を持っていたのも確かです。そういうわけで私は本気で打ち込むことなく自分のペースでギターを嗜むことにしていました。
(余談ですが、アニメ「ぼっち・ざ・ろっく」を見ると反射的にこの頃のことを思い出してしまいます。)
ある時、通っていた高校とは別の高校の先輩に頼まれてバンドのギターを務めたことがありました。そのライブはその高校の生徒が何百人と訪れる少し規模の大きいものでした。恥ずかしい演奏はできないなと思い少し真剣に練習しました。本番は初めての大舞台で緊張もしましたが我ながら良い演奏ができたなと思ったぐらいでしたが、観客からの反応もかなり好評だったので少し動揺しました。見ず知らずの観客の歓声を浴び、挙句の果てに見に来ていた音楽仲間に「お前がこの県で一番のギタリストだよ」などと言われて私は有頂天になっていました。
そして、うっすらと「あれ?俺プロになれるんじゃね?」と思いました。
今なら思いますが、人からの評判はあまり頼りにしちゃいけません。
 私はギターが上手いという自己肯定感を携えたまま私は大学生になりました。これといって特徴のない陰キャは私でもギターを弾けばたちまち周りの人間は私に一目置いてくれました。うっすらとプロになリたいとは考えていましたが、特に明確な努力をするわけでもなかったです。それは別に自分の力量に慢心していたわけではなく、私は目標に向かって切磋琢磨していけるようなパートナーを見つけることが必要だと考えました、一人ではダメだと。なぜなら、私の目にカッコよく映っているプロ達はみんな運命的な出会いをしていました。
たとえば、ビートルズ。
彼らは同じリバプールという街で偶然居合わせ、中でもレノン&マッカートニーのタッグは世界を変えるほどの傑作を生み出しました。
さらに、たとえば、スティーリー・ダン。
大学時代、ウォルター・ベッカーがギターを弾いているところに偶然通りがかったドナルド・フェイゲンが、そのブルージーなプレイに足を止めて声をかけたという逸話があります。
たとえば、レッドツェッペリン、ザ・フー、etc…
そんな風に、私は生涯を通じて一緒に音楽に全てを捧げられる相棒が欲しかったのです。いつかそういう人間が現れると信じてましたが、結局現れませんでした。もしかすると出会っても、そこまで至らなかったのかも。とにかく私はいつも一人でした。大学の卒業式で「何もなかったな」と感じ、それと同時にプロへの夢をあきらめている自分に気がつきました。私は曖昧にプロを夢見て、曖昧にそれが見えなくなりました。
そして、今に至ります。夢を叶えた、あるいは、追っている人を見るときっと多くの幸運に恵まれたんだろうなと羨ましく見えます。

YouTube shortをなんとなく見ていると世界中の超絶技巧ギタリストの動画とかが流れてくるわけですね。それに比べたら自分のテクなんか雑魚すぎてギターを弾くことが虚しくなってしまうんです。プロなんかなれるわけないだろう、と過去の自分を嘲笑う気持ちも出てきます。でもいつか、私の弾くギターが好きだと言ってくれる人が、一人でも現れるかもしれない。そうなったらいいなと思うので、私はこれからもギターを弾き続けるでしょう。

P.S. Cody・Leeというバンドが同年代ということを知りました。おすすめです。
自分と同い年の芸能人とか見ると心に謎のわだかまりを覚える現象ありますよね。


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