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156 校内研修に講師として関わって思ったこと 

自治体の教育機関に勤務していたとき、小学校外国語活動の校内研修で県内の学校を訪問していました。外国語活動が導入された直後で、現場の先生たちに役立つノウハウを提供することが目的でした。現在は専科の教師が外国語活動の授業を行うことも多いようですが、当時は担任がほとんど行っていました。文科省も担任が行うことの意義を強調し、推奨していました。でも先生たちにとっては初めてのことです。戸惑いも大きく、どうやったらよいかわからずにいる先生が多くいました。現場は手探り状態に見えました。そのため自治体が研修プログラムを組み、各学校に講師を派遣することにしたのです。

以前にも書きましたが、私自身は外国語活動導入の話を聞いたときは小学生が様々な外国語について学べると思い期待しました。異文化理解の観点からも有意義だと思いました。でも実際に行われたのは「英語教育」でした。

先生たちの中には英語の得意な先生もいましたが、大多数は英語を専門に学んだことのない人たちです。今でこそ小学校教員養成課程にも英語教育が組み込まれるようになっていますが、当時はありませんでした。自分が英語を教えることなど夢にも思っていなかった先生もいます。英語が苦手だから英語のない小学校の教員になったという人も少なくありませんでした。だから外国語活動の授業をどうやったらよいのかわかりません。そんな先生たちが英語を教えなければならなくなり戸惑ったであろうことは容易に想像できます。先生たちが何とか授業を行えるよう手助けをすることが研修のねらいでした。

私は英語を母語とするアメリカ人といっしょに各学校を訪問してワークショップを行いました。いわゆる「出前研修」です。県内の小学校を100校近く訪問しました。ワークショップは「担任が単独で行う授業」と「ALTとのティームティーチングで行う授業」の2種類設定しました。いずれも担任が外国語活動に関わる意義について話した後、簡単な英会話によるウォームアップ、基本的なクラスルームイングリッシュの習得、講師による授業のデモンストレーション、さらに先生たちによる短いレッスンプランの考案と実演という流れで行いました。

訪れた学校は規模も歴史もさまざまです。教員構成もまちまちで、ベテランが多い学校もあれば若手が大半を占める学校もあります。雰囲気も違います。和気あいあいとした中で和やかに研修が進む学校もあれば、暗い雰囲気でやる気が感じられない学校もあります。教師の中にも英語力を伸ばしたい、授業のノウハウを得たいと積極的な人もいれば、いやいや参加している様子の人もいます。そんな中で講師として心がけたことがいくつかあります。

まず、先生たちの英語に対する苦手意識を払拭し、自信を持てるようにすることです。参加者への事前アンケートでも英語に対して苦手意識を持つ人が多く、そのことが外国語活動への消極的な態度を生み出していることが推察できました。先述のように、小学校の先生たちは英語教育について学んでおらず、日常的に英語を使う機会も少ないため、児童の前で英語を使うことへの抵抗感を持つ人が少なくないように感じます。外国語活動の意義は理解しても、「英語が話せないから」「発音がうまくできないから」などという理由で、授業を行うことへの不安を感じている人が多くいました

それゆえ研修ではまず先生たちの英語力を少しでも高め、授業で英語を使うことへの抵抗感を減らす努力をしました。授業で英語を使用するようになれば、英語力も少しづつ向上していくと思ったからです。もちろん英語が専門でないからと言って児童の前で間違った英語を使ってほしくはありません。また、英語力の向上は一朝一夕にできることではありません。研修に即効性は期待できません。そこで、先生たちにはできることから少しずつ取り組むよう促すとともに、英語が完璧でなくても授業が行えるようなヒントを提供しました。

たとえば、間違いを少なくするためにできるだけ短い英文を使うこと、ティームティーチングではALTに発話を多く委ね、担任はあいづちをうったり、ALTの発話の一部を繰り返したりするだけでもコミュニケーションになることなどを理解してもらい、安心感を高めることが効果的だと考えました。また、必要に応じて日本語を使っても構わないということも伝えました。たとえば児童がふざけて授業を妨害した時など教師は注意したいのですが英語の時間なので英語で注意しなければならないと考えたり、英語の表現がわからないため注意できずフラストレーションがたまったりすることがあります。そんなときは日本語で注意して構わないと思います。無理をせず臨機応変に対応することが大事です。

さらに研修は参加者のレベルに合わせ、時に研修内容を途中で変更するなど柔軟に対応したり、研修内容にバリエーションをつけて教員が研修を楽しみ、英語を使うことが楽しいと感じられるような工夫をしたりしました。

英語力を向上させる方途のひとつとしてクラスルーム・イングリッシュの習得が挙げられます。外国語活動では担任が積極的に英語を使う姿勢を児童に見せることが重要です。そのために授業で使える基礎的なクラスルーム・イングリッシュを練習してもらいました。使用頻度の高い表現をリストにして提供し、授業で積極的に使用するよう促しました。繰り返し使用することによって教員はそれらを「日常表現」とし徐々に習得していくと考えたからです。でもリストを提示するだけでは不十分です。どのような場面で、どのように使えばよいかといった使い方も合わせて提供する必要があります。そして、教員が授業をイメージしながら実際に使ってみることが重要だと感じました。

次に、教師のプライドを傷つけない配慮が必要です。教師にもプライドがあります。と言うよりプライドの高い人が多いかもしれません。プライドを持つことは決して悪いことではありませんが、時にマイナスに作用することもあります。児童からは「先生」と呼ばれ、教える立場にいる人たちですから自然と児童の「上」に立つことが多く、他から命じられたり、上から目線で言われたりするとプライドを傷つけられたような気分ちになり、反発する人がいます。だから言葉のひとつひとつにも気を遣う必要があります。

プライドを傷つけないということでは特定の教師が張り切り過ぎないことも重要です。教師の中には英語の得意な人がいます。そうした先生が外国語活動を推進する立場に立つことは少なくありません。研修でも他の教師をリードして活躍します。それ自体は決して悪いことではないのですが、これもマイナスになることがあるので注意が必要です。英語が堪能なばかりに英語でペラペラ話すと、英語が苦手な教師は時に劣等感を持ちます。やる気をなくします。ひがんでしまいます。英語が得意な教師を盛り立てながら英語が不得手な教師への配慮も必要です。

さらに、校長に積極的な参加を促しました。学校によっては校長は研修に参加しないところもありますが、管理職も教員の一人として参加し、英語の間違いを気にせず挑戦すると研修は活発になります。年配の教師はとかくプレゼンテーションに消極的です。グループ活動のあと代表に実演してもらおうとすると年長者はたいてい「おれはいいよ。〇〇やれよ」と言って若い教師にやらせようとします。そんな時に校長が率先して実演し、思わぬ失敗などしたりすると雰囲気は一気に和やかになり、二の足を踏んでいた教師も挑戦することがあります。

教師のニーズに合う研修を行うことも重要です。先生たちは理論よりも実践に役立つものを多く求めており、授業に生かせる研修を望んでいます。事前アンケートでは「授業に役立つことを学びたい」という希望が多くありました。

ALTとのティームティーチングは教員にとって研修のニーズが高い分野です。ALTに授業を任せたいと思う教師がいることは事実ですが、中にはティームティーチングをやりたいけれど関わり方がわからないため二の足を踏んでいる人も少なくありません。先生たちからは「ALT任せにしたくない」「自分も授業に関わらなければいけない」「関わりたい」という声が多く聞かれました。そこで、研修では担任としての関わり方を具体的に例示しました。さらにティームティーチングでよく使う英語、ALTとの会話に役立つ表現などもリストにして配布しました。

ほかにも年間指導計画の作成、学習指導案の作成と授業の実施方法、教材の収集や開発方法、インターネットで収集した素材を教材化して活用する方法などにもニーズの高さを感じました。事後のアンケートでは「授業で使える英語を学べたこと」や「授業に役立つ表現を覚えたこと」「授業のヒントを得られたこと」「担任としての関わり方を学べたこと」などに満足度の高さが見られ、ニーズに合った研修が重要であることが確認できました。

学校現場の校内研修に関わって講師である私自身も先生たちから多くのことを学びました。










 

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