見出し画像

卒業式の総代に選ばれる

修士課程が終わろうとするある日のこと、研究科の事務所から自宅に電話がかかってきました。電話をくれたのは事務所のSさんです。事務所に行くたびに言葉を交わし親しくしていました。科目の登録や証明書の交付などでたびたびお世話になった方です。その彼が私が卒業式の研究科総代に選ばれたと言います。

「何かの間違いではないですか?」私はびっくりしてSさんにそう聞きました。総代になるなんて予想もしていませんでした。科目の成績はそれほど悪くはありません。修論も合格しましたし、自分でもまずまずの出来だったと思っていました。でも総代になるほどの成績だとは思っていませんでした。周りの人がみんな自分より成績がいいように感じていました。

電話の向こうでSさんは言いました。「いいえ間違いじゃないですよ。厳正な評価で総代に選ばれたのです。おめでとうございます」そう言われて私は嬉しく思いましたが、同時に不安もありました。笑われるかもしれませんが壇上で転んだらどうしようと思ったのです。躓いて転びそうになることがだんだん増えていました。それに入学式で保護者と間違われた私です。若い人たちがたくさんいるのに私のようなおばさんが総代になるのがちょっと照れくさかったのです。私はSさんに言いました。「私よりもっと若い方がいいと思いますので、どなたかに代わってもらえませんか?」Sさんは一瞬戸惑ったようでしたが、笑いながらこう言いました。「とんでもない。自信を持って引き受けてくださいよ」 たしかに総代を代わってもらうという話は聞いたことがありません。

こうして私は3月の終わりの学位授与式には教育学研究科の総代として壇上に登り、心配した躓きもなく無事に学位記を受け取りました。当日は夫と娘、そして親しい友人が何人も参列して祝ってくれました。3月とは言いながらとても寒い日でしたが、修士課程を無事に終え学位を取得した私は充実感でいっぱいでした。心がほかほかしていたことを記憶しています。

「50歳から大学院」(修士課程編)は今回で終わります。お読みくださった方、ありがとうございました。博士課程についてはいずれ書きたいと思っています。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?