見出し画像

動乱を生き抜いた仏様

実家の納戸に長い間眠っていた仏像があります。微笑んだようなお顔が何とも魅力的な木彫りの像です。チベット仏教の高僧ツォンカパの像だと聞きました。ツォンカパはダライ・ラマが属する黄帽派(ゲルク派)の開祖と言われています。私はチベット仏教についての知識はほとんどありませんが、仏像を見ていてとても興味が湧きました。

仏像は明治時代に浄土真宗の僧であり仏教学者でもあったある日本人が中国から持ち帰ったものです。もともとは黄寺と呼ばれる北京のチベット寺院にありましたが、1900年(明治33年)に起きた「義和団事件」の際にたまたま北京に滞在していたその僧が日本に持ち帰ったのです。動乱の中で寺院の破壊を危惧した同寺の僧たちは帰国するその日本人僧に貴重な経典の保管を託しました。僧たちが危惧した通り寺院はその後破壊され、収蔵品は略奪されました。でも貴重な経典は僧の手によって無傷で日本に渡り宮中に献上されました。現在は東京大学と大谷大学に保管されています(江本嘉伸『西蔵漂泊』)。仏像はその際に僧が個人的に贈られたもので、わけあって実家にずっと保管されていました。

「義和団事件」については歴史で学びましたが、私には教科書程度の知識しかありません。けれど仏像を通して歴史上の出来事が急に身近なものになりました。

動乱を生き抜いた仏様は穏やかな顔で祈りをささげています。平和な世の中を祈っているように私には思えます。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?