見出し画像

現実はドラマとは違う

しばらく前にNHKBSで放映されていた「団地のふたり」を毎週楽しく視聴しました。小泉今日子と小林聡美が演じる50代で独身の幼なじみが実家の団地で暮らす様子をユーモラスに描いたものです。二人の周りには団地で長年暮らしてきた高齢者もたくさん登場します。健康への不安や一人暮らしの寂しさなど高齢者ならではの問題も絡めながらストーリーは進みますが、あまり深刻にならず最後はいつも明るく終わります。やはりドラマだからでしょう。

しかし、現実はドラマのようではありません。それをひしひしと感じさせる番組が11月21日に同じNHKBSで放送されました。「また あした 〜都営東糀谷六丁目アパートの一年〜」という番組です。羽田空港に近い東京都大田区の東糀谷六丁目にある都営団地は築50年を超える古い団地で、入居者の大半が高齢者です。団地の自治会長は85歳の男性。岩手県の遠野市出身で50年前に団地に入居しました。現在は妻と二人暮らしです。自治会長を辞めたいと思いますが他になり手がいないため続けています。番組では他にも団地に入居する高齢者が複数登場します。杖や手押し車を使って広場のベンチに集う高齢の入居者たちは顔を合わせることでお互いの健康を確認し合っています。若者がいなくなった団地で祭りを続けるため人集めに奔走する女性もいます。高度成長期に上京し団地を新たな故郷にして生きてきた人々の人生と老いを見つめるヒューマン・ドキュメントです。タイトルにある「またあした」は広場に集まった高齢者が家に帰るときにかけ合う言葉です。「明日も生きて会いましょう」という意味が込められているようで複雑な思いがしました。

番組の中で高齢者が発したことばで印象に残ったものをいくつか拾い集めてみました。

広場のベンチに座る人たち
(三々五々集まって来る高齢人たち。たわいのないおしゃべりで時を過ごします。集まる人数は日によって違います)

「今日はだれも出てこないね。姿が見えないと死んだかと思っちゃう」

「加齢、加齢って、これからどうやって生きたらいいの?」「加齢ね~ 枯れていくんだな」

「(検査入院した)○○さん、どうしたかな? 情報ないけど、死んだって聞かないから生きてるよね」

「天井見て寝ているのは嫌だから(歩行器で)せっせと歩いてるの」

「盆も正月もないわ。365日、一日一日がただ過ぎていくだけ」

「今日はいい天気だね、太陽はみんな平等に照らしてくれるから生きなきゃ」

「なんもいいことないなあ」(就職列車で八戸から出て来た男性。最近、膵臓がんの手術を受けて退院してきた)


防災訓練に参加している人たち
(訓練は近くの中学校で行われました。避難するのも、誘導するのもすべて高齢者です。訓練で階段を降りる際に脚を痛めた人もいます)

「実際に災害が起きても避難はできない」

「何かあっても動けないから逃げられない」


自治会長の男性
「(団地は)高齢者の収容所みたいになるのかな」

「生活したという空気感があれば、そこが故郷になるんだ」

私も遠からず同じような気持ちになるのでしょう。「団地のふたり」の終了から間を置かずにこの番組を放送したNHKには何らかの意図があったのかもしれません。いずれにしてもドラマと現実は大きく違うことを実感しました。


高齢者が大半を占める団地のことは新聞記事でも伝えられています↓


*ヘッダーの画像はNHKのホームページから借用しました。

いいなと思ったら応援しよう!