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23 いざという時のために:避難訓練は大切だけど

私が中学一年生のときでした。夜中に母にたたき起こされました。「〇〇さんの家が火事よ」私は飛び起きました。服を着替え、外に飛び出すと目の前が真っ赤になっています。道を隔てた〇〇さんの家が燃えていたのです。消防車は到着しておらず、近所の人たちがバケツやホースで水をかけていました。でも火の勢いには勝てず、〇〇さんの家は音を立てて燃え落ちていきました。暗い夜空に真っ赤な火の粉が舞い上がり、とても怖かったことを覚えています。私の家も焼けてしまうのではないかいう恐怖に駆られながら、私は飼っていた犬を連れて家族と一緒に安全な場所に避難しました。何も持たず、身一つで逃げるのがやっとだでした。幸いなことに火事による死者やけが人はおらず類焼もありませんでした。でも私の中では今もトラウマのような記憶となって残っています。

学校では避難訓練がたびたび行われます。訓練の大切さは頭では理解していますが、生徒がそれをどこまで現実問題として捉えているかは疑問です。ともすればふざける生徒がいたり、真剣に取り組まない生徒がいたりします。教師の中にも形式的に動いている人もいないではありません。

ある日、火災を想定した訓練が行われました。発煙筒がたかれたのでかなりの臨場感がありました。階段をアッという間に駆け上がってくる煙の中を逃げるのは生徒も大変そうでした。前がよく見えず足を踏み外したり、むせ込んで苦しそうな生徒も多くみられました。全生徒が避難完了するまでにかかった時間は3分30秒。400人の生徒が避難する時間としてはまずまずですが、避難の時間は短ければ短いほどよいです。生徒たちはみんな真剣に取り組んでおり、学級委員の点呼も上出来でした。避難訓練は小学校のときから体験している生徒たちですが、訓練がマンネリにならず、万一の場合に活かされるような訓練にしなければいけないと改めて思いました。

訓練ではなく本物の避難を経験したことがあります。教員になって3年目のことでした。学校に爆発物を仕掛けたという電話がありました。放課後のことです。生徒は部活や委員会等でたくさん残っています。職員室は大騒ぎになりました。生徒をすぐに避難させなければなりません。授業中や休み時間の訓練はしていましたが、放課後の訓練はしたことがありませんでした。また、火災や地震を想定した訓練はしていましたが、爆発物に対する訓練はしていません。海辺の学校でしたが津波の訓練も行われていませんでした。当時は危機管理がまだまだ不十分な時代でした。その日も生徒をどこにどうやって避難させたらよいか教職員もわかっていない状態でした。そんな中で学校長が「委員会に連絡して聞け」と言っているのが聞こえました。私はびっくりしました。「緊急時に教育委員会に問い合わせ?」そんなことが不合理であることぐらい新米教師の私にもわかります。幸いなことに「すぐに生徒を避難させるべきだ」という教務主任の進言に校長が同意し、教職員全員で生徒をグランドに避難させました。その後は何も起こらず、電話はいたずらだったということがわかりました。不審物は発見されませんでした。

教師になって間もない頃のその体験は今も脳裏に焼き付いています。避難方法は正しかったのか、グランドに避難させることが賢明だったのか、教職員の動きはあれでよかったのか多くの疑問が残りました。現在はしっかりとしたマニュアルがつくられているようですが、マニュアル通りに行動することが賢明とは言えない場合もあります。現に東日本大震災のときににはマニュアルに沿って行動したために生徒が犠牲になったということもありました。避難訓練の大切さや安全教育の重要性は理解されていても、とっさに正しい判断ができるとは限りません。教師の危機管理能力や学校長のリーダーシップなど生徒の安全を守るために私たち教師が取り組まなければならない課題はまだたくさんあると感じています。

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