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受験準備は半年の短期決戦

私が大学院受験の準備を始めたのは退職した年の4月からです。試験は9月。半年後です。退職する前の年に受験するという方法もありましたが、3年生の学年主任をしていた私には仕事と受験勉強を両立させることはできませんでした。3月までは目の回るような忙しさだったからです。それに前年の入試の日はあいにく学校行事と重なり、年休を取ることはできませんでした。

さらに「専業主婦」の生活を体験してみたという気持ちもちょっぴりありました。大学卒業後すぐに教師となり、その翌年に結婚した私には「専業主婦」の経験がありません。だから退職後1年間ぐらいは専業主婦を体験するのも悪くないと思ったのです。

受験の準備は過去問の分析から始めました。入試には筆記試験と面接があります。大学の入学センターには学部と大学院の過去の入試問題が保管されており、だれでも閲覧できるようになっています。私は入学センターに行き5年分コピーしてきました。教育学研究科の問題を見ると5年間ほぼ同じ形式で出題されています。筆記試験は外国語と専門科目に分かれており、前者は英語を含む6か国語の中からひとつ選択し、後者は専攻分野ごとに科目を選択します。私は外国語では英語を選択し、専攻する比較教育学は教育学の分野に含まれていましたので教育学の試験を受けました。

英語の試験は2問あり、いずれも長文読解です。私自身は英語の教師でしたのでそれほど大変ではありませんでしたが、それでも大学院の入試ですからそれなりに手ごたえは感じました。大変だったのが教育学の試験です。私は教育学を専門に勉強したことがないので(大学は文学部でした)知らないことだらけです。すべての専攻分野に共通の問題と分野ごとの問題があり、いずれも大問が2つ設定されています。

前年は以下のような問題が出題されていました。

問題1 6つの課題から一つを選んで論述する。
①戦後のカリキュラムに導入された「社会科」を支えた教育の哲学について論じる。
②近年の高等教育多様化の動向を踏まえて、今後の高等教育のあり方について論じる。
③産業の転換に伴う労働力の移動によって、成人教育はどのように変化するかを論じる。
④幼児期における子供の成長にとって、遊びはどのような役割を果たしているかを論じる。
⑤教育評価におけるバイアスについて論じる。
⑥「総合的な学習の時間」の意義と課題について論じる。

問題2 10項目中3項目を選んで解説する。
①コメニウス
②総合性中等教育(コンプリヘンシブスクール)
③大正新教育運動
④「教育使節団報告書」
⑤standard system
⑥新聞縦覧所
⑦パウロ・フレイレ
⑧完全習得学習(Masterty  learning)
⑨水平的ずれ
⑩遺伝・環境論

これを見たときショックを受けました。知らないことがあまりにも多かったからです。問題2の用語についても何となく耳にしたことはありますが適切に説明することができません。パウロ・フレイレは知っていましたが、「コメニウスってそれ何?」といった感じです。「新聞縦覧所」も知りませんでした。今思うと恥ずかしい気もしますが、でも25年以上教師をやってきてコメニウスや新聞縦覧所を知らなくて困ったことは一度もありません。

いずれにしても受験するためには教育学の知識が不可欠だと思い、私は猛勉強を始めました。準備期間は6か月。計画的かつ効率的にやらないと間に合いません。私はその年も同じパターンで出題されと予測し、まず最低限必要な教育学の用語を片っ端から覚えることにしました。準備したのは教育学用語辞典と学校管理職試験問題集、大学の教職課程で使われている教育原理の教科書です。難しい専門書などは手にしませんでした。自分には役立たないと思ったからです。

教育学用語辞典を買ってきた私は用語を片っ端から覚えました。はるか昔の大学受験で「豆単」を使って英単語を覚えたときのやり方です。学校管理職試験問題集は図書館で借りてきました。それまで管理職を見てきてああいう人たちが使用するのだから誰にでも理解でいるようわかりやすく書かれているだろう思ったからです。失礼な言い方かもしれませんが、私の周りで管理職試験を受ける人を見ていてそう感じました。自分で買おうと思わなかったのは管理職試験に対するそんなイメージがあったからだと思います。

結果は予想通りでした。学校管理職試験問題集はすごく役立ちました。最新の情報がコンパクトにまとめられていてとても分かりやすかったです。付け焼刃的な勉強には最適でした。大学院の入試は学部卒の人たちも受けるということを考えれば教員採用試験の対策問題集なども役立ったかもしれません。

いずれにしても私は明けても暮れても教育に関する用語を覚え、頭は教育用語でいっぱいになりました。次は論述問題対策ですが、これには教育原理の教科書を使いました。教科書はたくさん出版されていますが、私が受験する大学院の先生たちが執筆されているものを選びました。大学で実際に使われているものですし、出題するのが同大学の先生たちだからです。さらに、当時の教育改革の動向や、いじめ、不登校など学校現場が抱える問題が出題されるのではないかと予測し、トレンディな話題を中心に「山をかけて」準備しました。

面接試験の準備は何もせず、出たとこ勝負で臨むことにしました。そして半年はあっと言う間に過ぎました。


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