神話で読み解くライトノベル100選 11 成長を促す胞衣としてのドレス

高遠すばる『婚約破棄された目隠れ令嬢は白金の竜王に溺愛される』アルファポリス、2020.

※以下の記事には表題の作品についてのネタバレが含まれています。ご注意ください。

今回のテーマは「胞衣」である。少女がそこに籠り、また出てくる「再生」の象徴だ。あらすじを見てみよう。

伯爵令嬢のリオンは、義母と義父、義妹に虐待されて生きていた。婚約者の第一王子シャルルとの結婚だけを心の支えとしていた。しかし婚約のお披露目会でシャルルはリオンとの婚約破棄を宣告する。義妹をいじめたという罪だ。当然リオンに心当たりはないが、周囲の目は厳しい。誰かに助けを求めたリオンの前に現れたのが、白金の竜の男だった。リオンはこの竜王の「番」、運命の片割れであったのだ。

竜の城での暮らしが始まり、リオンは竜王の大きな愛を受けて傷を癒していく。しかし過去と決別するために国に戻ったリオンを義妹が襲う。この時リオンは幼いころに竜王と出会っていたことを思い出す。リオンは竜の国に帰り、幸せに暮らす。

この話の中で注目したいのは、竜王とリオンの「蜜月」、つまり婚約期間の描写だ。蜜月のためにリオンに用意されたドレスは、裾と袖が異常に長いのだ。雄竜が番に決して絶対に何も不自由させないことの約束として、そのような服が用意される。裾と袖は長ければ長いほど、愛情が深いのだという。

これには、神話としての意味が見いだされる。昔話の「鉢かづき姫」はご存知だろうか。娘が、頭に鉢をかぶって屋敷で下働きをしている。屋敷の息子と相愛の仲になるが、周囲の反対があり二人は家を捨てる決意をする。しか鉢かづき姫の鉢が割れ、そこから美しい姫の姿と財宝がでてきて、二人は認められて結婚し、幸せに暮らした。

ここから読み取れるのは、頭のかぶりものが姫にとって「第二の生」を導く胞衣の役割をするものだったということだ。(古川のり子『昔ばなしの謎』角川ソフィア文庫、平成28年、233-252頁)

リオンが蜜月で身に着けていたいかにも不自由なドレスにも、同質的な意味を見出すことができる。リオンは新たな環境のもとに生まれ変わったかのようにして生きていかなければならない。それを導く胞衣としての装束こそが、蜜月のドレスだったのだ。

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