神話で読み解くライトノベル100選 8 王権を与える女神の系譜

月神サキ『王太子妃になんてなりたくない!!』メリッサ文庫、2016年。

※本記事には、表題の作品についてネタバレがあります。未読の方はご注意ください。

ラノベ100選、今回扱うのは「ほぼ官能小説」だ。しかし重要な神話的要素が物語の中核に現われている。

筆頭公爵令嬢のリディアナは、父から王太子に嫁ぐことを命じられる。リディアナは日本人としての前世の記憶を持ってこの世界に転生してきたので、王族の一夫多妻制が絶対に許せない。だから王族とは結婚しないと固く決意していた。そこで、王族に嫁ぐ際の絶対の資格である「処女」を喪失すべく、ひそかに仮面舞踏会に出席し、計画通りことを済ませた。

ところがその相手が実は王太子その人であったのだ。しかも、王太子は彼女の処女を奪うまさにその時に、魔術的な刻印である「王華」を彼女に授けていた。これは正妃としての証である。王族が王華を相手に刻印することに失敗すると、王族としての義務を果たせなかったとみなされ、王家を追われ悲惨な末路をたどるという。きわめて重要な「儀式」なのだ。王華を授けられたリディアナは結婚から逃れることができなくなる。しかし実は、この二人は相性抜群なのであった。

ここに現れているテーマは、第1回、第2回でも取り上げた「王権の女神」のテーマである。ケルトの神話に特に表れていたように、王は王権の女神に認められて始めて真に王となる。また王妃は王権の女神を体現しており、王は王妃を伴わなければ真の王と認められない。

本作において、王華はその持ち主である正妃が王権の女神であることを示している。

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