神話で読み解くライトノベル100選 13 少女の試練としての監禁

八緒あいら『「聖女など不要」と言われて怒った聖女が一週間祈ることをやめた結果⇒』アルファポリス、2021年。

今回のテーマは「監禁」だ。少年の旅に対するものとして、少女の監禁を位置付けることができるのかどうか、考えていきたい。

【内容】

祈ることで魔獣が出てくる魔窟を封じている聖女ルイーゼ。ある時王子ニックに「不要」と言われ、それならと、試しに一週間祈りを止めることにする。その間ルイーゼはある場所に監禁される。見張りには騎士アーヴィングが付き、身の回りの世話をミランダおばちゃんがすることになる。

翌日から魔物に異変が生じる。魔物の性質が明らかに進化していたり、普通は出てこない魔物が出てくるようになる。事態は日ごとに深刻になっていき、死者、負傷者も多数でるが王子は認めようとしない。

しかしついに王子の暴走が老国王に露見し、王はルイーゼに謝罪、ルイーゼの祈りによって魔窟は再び封じられた。

騎士アーヴィングは実は第七王子で、幼いころにルイーゼに命を助けられた。彼は「聖女制度」そのものに反対していた。なぜなら聖女は魔窟を封じることで寿命をすり減らしており、長生きはできないのだ。

根本的な問題は解決されないが、ルイーゼに負担が少なくなるように制度が整えられて、物語は幕を閉じる。

【読み解き】

ルイーゼは「聖女などそもそも不要」と言われて監禁された。その間祈りをしなかったために、王国は危機に瀕する。しかし監禁から解かれてルイーゼが祈ると、秩序が戻り、平和な日常が回復した。

これは、日本神話のアマテラスや、ギリシア神話のデメテルの岩屋籠りの神話と比較できる。アマテラスは弟スサノヲの乱暴に怒って岩屋に籠った。そのため太陽が照らず、世界は危機に瀕した。神々が協力してアマテラスを岩屋から引き出したので、世界は再び光を取り戻した。デメテルの場合は、ポセイドンに乱暴された怒りと娘を誘拐された怒りで岩屋に籠る。すると大地は実らなくなり、人間も神々も困窮した。ゼウスの命令で娘が冥界から地上に戻されることになり、デメテルの怒りが解けると大地も豊穣を取り戻した。

ルイーゼが怒って祈りを中断したことは、アマテラスやデメテルの「引きこもり」と通じる。ただしルイーゼは強制的に監禁されたが、アマテラスとデメテルの場合は自分の意志で引きこもったという違いはある。

いずれにしても引きこもった女神や女性のために世界に異変が生じ、彼女らが出てくると秩序が元通りになる点で同じ構造を持っているといえる。

また「監禁」は、ライトノベルにおいて少女の通過儀礼の役割を果たしている可能性がある。ライトノベルの女主人公はしばしば監禁される。監禁が少女の試練なのだ。これについては、また別の例を示して再考したい。


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