神話で読み解くライトノベル100選 4 父との負の関係

父との関連はライトノベルにとって重要である。そこからの自立、あるいは克服が裏テーマとなっていることが多く見られるからだ。ここではそのような話を一つ考察していきたい。

志野田みかん『虐げられた令嬢は、実は最強の聖女』アルファポリス、2020年。

※以下の記事にはネタバレが含まれている。未読の方はご注意いただきたい。

主人公のリリーシュアは幼いころに母を亡くし、義母と義妹、そして実の父によって古い塔に幽閉され、虐待されて成長した。さらにある時、第二王子マンフレートとの婚約も破棄され、彼の次の婚約相手が義妹であることを知らされた上、齢六十を超える伯爵のもとに今すぐに嫁ぐことを命じられる。

リリーシュアは彼女になついている二匹のネズミだけを連れて、大事な母の形見のハンカチを持って馬車に乗った。ネズミは実はただのネズミではなく、従魔であり、人の姿となってリリーシュアを街に連れて行った。途中立ち寄った食堂で、リリーシュアの家族が行方不明になった彼女を探していることを知り、そこで出会った騎士に窮地を助けられる。リリーシュアはその騎士に連れられて隣国へ行き、『魔力持ち』としての力を開花させる。そして彼女がじつは「炎の聖女」であることが発覚する。

リリーシュアはその力を使って人々のために尽くすようになる。

その彼女の前に立ちはだかったのが、義母と義妹、そして実の父であった。実は父は悪い魔法に操られていて、その魔法は義母と義妹によるものだった。彼女は魔法から解かれた父と対峙し、許すことはできないが、それでも生きてほしい、と父に告げる。

彼女を最初に助けた騎士とは、実は隣国の皇太子であった。リリーシュアは彼と結ばれ、物語はハッピーエンドで終わる。

幼いころからの心の傷を抱えながら懸命に生きる主人公の姿に心を動かされる。物語としては虐待から王子の妃へと華麗に転身するシンデレラ型と言えそうだ。

前回(3回目)で父とその娘の良好な関係が、娘のまっすぐな成長と強い心身に関わるとの推測を述べたが、この物語はそれとは正反対で、父親はおろかで弱く、魔法に動かされていたとはいえ、実の娘を虐待していた。このような場合、娘は強く成長しようがない。家を出た先で、愛情を受けて傷を癒していくしかないのだ。本書ではその主人公の心の成長の過程が鮮やかに描かれており、ひとつの少女の成長のモデルを提示している。その点で現代の神話としての役割を果たしていると言えるだろう。

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