神話で読み解くライトノベル100選 10 女性の自立と職能

屋月トム伽『望まれない王女の白い結婚…のはずが途中から王子の溺愛が始まりました』アルファポリス、2021.

※この記事には表題の作品についてのネタバレが含まれています。未読の方はご注意ください。

本書を題材として考察したいのは、少女/女性の幸福と「職能」の関係である。さっそく、あらすじから見ていこう。

小国ルインの王女フィリスは、戦勝国であるガイラルディアの王太子に嫁ぐことになる。しかも第二妃、正妃となるのはガイラルディアの伯爵令嬢ジゼルだ。フィリスがガイラルディアの宮に着くと、ジゼルとその手先である侍女たちに迫害され、王女とは思えない扱いを受けてひどい暮らしをしている。王太子であるレックスにも愛のない結婚であることを宣言され、フィリスは絶望の淵にいた。

ところがフィリスが聖女としての力を発揮して森に結界を張った事件から、レックスの態度が変わり始め、さらにフィリスへの迫害が彼の知るところとなり、侍女はクビ、ジゼルは宮を出され、その後の調査で不貞が明らかになり婚約破棄となった。

フィリスとレックスは実は以前にそうとは知らずに出会ったことがあり、相思相愛であることがわかる。すぐにフィリスを正妃として結婚式が行われ、男児も生まれて、ハッピーエンド。

この話を普通に読むと、ずいぶんとジェンダーバイアスのかかった話だなと思うだろう。王子の寵愛、結婚によって幸せを得る、男児の誕生、など古い価値観が示されている。

しかし別の点に目を向けると、そうとばかりも言えないことが分かってくる。それがフィリスの聖女としての役割だ。フィリスは森に結界を張るために出かけていき、魔獣退治に加わって活躍することになる。この事件から、王太子はフィリスへの態度を変えていった。また結婚式の後にも同様に魔獣退治に出向いており、実は「戦うヒロイン」であることがわかる。

旧来の王子の助けを待つ少女像に、新たな要素としての「戦うヒロイン」の話を加えることで、作品全体としてのメッセージ性も変化した。すなわち少女/女性が自らを救うものとしての「職能」だ。

職能という点で神話を考えてみると、たとえばギリシア神話で多くの女神が職能女神化しているということが挙げられるだろう。そういった視点からもまた本書を読み解くことができるかもしれないが、この分析は後の課題ということにしておこう。

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