神話で読み解くライトノベル100選 9 少女と時間

ゆなか『お酒のために乙女ゲー設定をぶち壊した結果、悪役令嬢がチート令嬢になりました』1,2、KADOKAWA、2020年。

※この記事には、表題の作品についてのネタバレが含まれています。未読の方はご注意ください。

早速だが、あらすじから紹介しよう。

事故で死んだ現代日本のアラサー女子・和泉は、異世界の貴族の令嬢・シャルロッテとして転生した。ところがそのシャルロッテは、前世の乙女ゲームの中の悪役令嬢、つまりヒロインに意地悪をして断罪される宿命の人物だった。その代わりにというか、シャルロッテは「チート能力」を授かっていて、その力で不幸な未来を変えるべく努力しつつ、大好きなノンアルコール飲料や(前世の和泉は酒が好きだったが、現世ではまだ子供なので飲めない)アイスクリームを作って「食の力」で味方を増やし、人生を切り開いていく。

さらに第2巻ではお菓子を作って魔王の娘や魔王までも従え、もはや最強。

小さなシャルロッテはバッドエンドの不安におびえながらも自らの力で悲劇を回避したのであった。

本作において注目したいのは、少女シャルロッテにおける「時間」である。

まずシャルロッテ自身はまだ幼い「少女」だ。しかしその心には現代日本に生きていた27歳の成人女性がそのまま残っている。身体は少女、心は成人女性というように、時間を超越したところが窺われる。

「時間」に関してもう一つ指摘したいのは、彼女が異世界における自分の未来を正確に知っているということだ。何もしなければ家族を魔物に殺されて自分もやがて断罪されるという結末を知っている。この点でもまた、彼女は時間を超越している。

神話では、インドにマーダヴィーという女性の話がある。彼女は「処女」と「母」を行き来することができる。つまり、結婚して子供を産むと、また処女にもどるのだ。このことによってマーダヴィーは時を行き来している。

同様に、インド叙事詩『マハーバーラタ』の女主人公ドラウパディーも、結婚して夫と一夜を共にすると、翌朝には処女に戻るとされている。

シャルロッテの時間への超越性は、マーダヴィーやドラウパディーのような神的少女から考察することが可能であろう。

これに関して、宮崎駿監督による日本のアニメ映画『ハウルの動く城』におけるソフィーも参考になる。魔法で老女の姿にされてしまった少女の話だ。ソフィーもまた、時間を超越する少女である。

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