神話で読み解くライトノベル100選 12 聖女という職能

上下左右『王宮を追放された聖女ですが、実は本物の悪女は妹だと気づいてももう遅い 私は価値を認めてくれる公爵と幸せになります』ベリーズファンタジー、2021年。

※以下の記事には表題の作品についてのネタバレが含まれています。ご注意ください。

ラノベによく登場する「聖女」。作中でさまざまに活躍する。それはつまり「労働」でもある。ここでは主に聖女の労働について考えていきたい。

【内容紹介】

歴代最高の力を持つ聖女のクラリスは、王子であるハラルドと婚約していたが、ある日突然婚約破棄され、その座を双子の妹のルーシャに奪われる。王宮を追放されて連れて行かれたのは、醜い容貌の公爵の屋敷だった。しかし公爵は心の美しい人であった。そしてある時、公爵の顔の傷を癒すためにクラリスが聖女の癒しの力を使うと、醜かった顔までもが本来の美しい姿に戻った。彼の醜さは魔物の呪いのせいだったのだ。

一方、王子はルーシャの本性を知ってクラリスを取り戻そうと画策するがことごとく失敗する。

アルト公爵領は王子の画策で試練にあうが、どれも逆に領地を豊かにする結果に終わる。クラリスの力によって負傷兵はみな元気になり、大地は豊穣を取り戻した。

とうとうハラルドはクラリスを誘拐して監禁するが、クラリスはペットのホワイトタイガーの力でそこから脱出。その後にアルトとハラルドは一騎打ちとなるが、アルトが勝利する。ハラルドは目が覚めたかのようになり、クラリスを大事にするようにアルトに言って身を引いた。

【考察】

物語前半では「美女と野獣」モチーフがでてくる。

それとは別に、ここで問題にしたいのはクラリスの「労働」だ。少女小説の中の「労働」については、三宅香帆『女の子の謎を解く』(笠間書院、2021年)に記述があり、「労働から脱出する方法を王子に与えられるシンデレラ型」と、「自分のしたい労働を手に入れる方法を与えられるあしながおじさん型」が対比されている。

クラリスははじめから聖女として労働していた。そして公爵と結婚しても、その労働、つまり聖女の力は遺憾なく発揮され、物語を押し進めていた。つまり「シンデレラ型」にも「あしながおじさん型」にも分類できない。

しかし聖女としての労働こそが、彼女が自立するための最大のよりどころであったことは間違いない。

そして本書には「監禁」のモチーフも出てくる。このモチーフはラノベをはじめ少女の物語を考えるためにきわめて重要だ。閉じ込められて出てくる、というのが、少女の通過儀礼になっている可能性があるからだ。実際、クラリスはペットのギンとともに監禁された部屋から脱出し、そのあとアルトとハラルドの一騎打ちとなる。物語のクライマックスとなっているのだ。さらにクラリスは、彼女の最大の問題であった「家族」をも克服する。クラリスは父に虐待されていたのだ。その父が、娘の首にナイフを突きつけて人質にとる。しかしクラリスは自らの力でこの場面を切り抜け、父というつらい過去を克服するのだ。

このように本作品は、「美女と野獣モチーフ」「あしながおじさんモチーフ」「監禁」といった、神話や昔話に頻出する重要なモチーフを備えている。

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