ジャンプ+原作大賞・「萌《アイ》で忍んで我屠る」第3話

〇高校・教室・数日後
 アカネ達の教室、現国の授業中。

 頬杖をついてつまらなそうに、ノートをペン先で叩いているアカネ。
 ちらっと、ノートから隣の席に目線を移した。
 ネネは必死に食いつくようにノートを取っている。

※回想・先日の放課後。
アカネ「……なん」
 階段下のアカネが上の段にいるネネを見上げている。
ネネ「だからぁー」

ネネ「くずきちって、田中くんの事好きっしょ? ってコトジャン!」ラビニー!
 興奮気味に顔を赤らめて手でハートを作るネネ。

アカネ「はぁ? そんなの――」片眉上げてネネを睨み上げる。

 「…………」しばしの停止。
 くるっと、いきなりネネに背を向ける。「およ? どしたん」


アカネ「……そんなわけ、ないでしょ」ツブすぞ
 唇を尖らせ、ぴくぴくと顔の表情を引きつらせながらも、顔は真っ赤なアカネが首だけで振り返る。


ネネ「アッ、アハハハ!!」腹を抱え大爆笑するネネ。
アカネ「なっ、なにがおかしいだ!!」
ネネ「ハハハハ! だってだってぇ~ぶっ!」

 顔を赤らめながらネネを睨むアカネ。
ネネ「あ~、おけおけ。大体くずきちがどんな人かは理解しましたわぁ」
「なるへそねぇ、はいはい、りょーかいりょーかぁい♪」

 ネネが階段をゆっくりと下りてくる。
ネネ「でもさぁ、そのままじゃあだめだと、アタシは思うよねぇ」うん
「いつまで経ったって前に進めやしねぇ」

アカネ「なにが言いたいの」

ネネ「あーん、っとつまり、つまりはぁ……」タン、とアカネと同じ踊り場まで降りてくる。

 悪戯っぽい笑みを浮かべてアカネを見上げ、指でアカネの胸を押すネネ。
ネネ「モタモタしてると、アタシが田中くんを取っちゃうカモ」
「ってコ・ト♪」

※回想終了・現代に戻る。
アカネ(あれで確信した)
(こいつは同業者くのいちだ)

 「ムズすぎ将軍だってぇ~」お手上げと椅子の背もたれに寄りかかるネネ。
アカネ(どこの派閥いえか知らないけど、九頭鬼でないのは確か)

 授業終了の鐘が鳴る。各々教室を立ち、ざわつき始める。

ネネ「んじゃくずきち! 次の授業でお会いしませう!」 
 敬礼してからネネはそそくさと机を離れる。

アカネ(家のゴタゴタなんて元から興味ないし、悪目立ちも今はできない)
 ノートや筆記用具を机脇のカバンの中に仕舞っていく。
(お庭組じゃないと確認できた時点で、これ以上つつく理由はない、か)

 「キャーー!!」女子の悲鳴と、ドスンと何かが落ちた音が教室前方から聞こえ、目線を上げる。

先生「なにやってんだお前は……」
間宮「ごっ、ごと、ごめ、ごめんなさいっごめんなさいごめんなさい!!」
 間宮が大量のテキスト本をぶちまけており、慌てた様子で拾っている。

先生「はあ、仕方ないな……」
 あーっと、と何かを探すように教室内を見渡す先生。

先生「九頭鬼! お前手伝ってやれ」
アカネ「――はっ」
 唐突な理不尽指名に驚愕するアカネ。

〇高校・廊下
間宮「あっ、あの、く、九頭鬼、さん。あ、ありがとう、ございます……」
アカネ「なんで私がこんなこと」
 アカネと間宮、大量のテキスト本の山を分けて抱え歩いている。(アカネの方が多い)

間宮「たっ、たぶん、羽鳥さんのこと、引き受けてくれた、から。た、頼りにしてるん、だと……」
アカネ「ああ、そう。都合いい雑用じゃなくてよかったわ」適当な感じで棒読みのアカネ。

間宮「えっと、わ、私も、本当にたす、かりました。わた、し羽鳥さんみたいの、ち、ちょっとに、苦手で」
アカネ「別に、勝手にやっただけ。こっちの都合も入ってたしね」ちなみに私も苦手
間宮「はあ……」

 若干間宮の足が小走り気味になって、アカネの隣につく。
 じーっとのぞき込むように、アカネの顔を控えめな視線で見つめてきた。

アカネ「……なに」
 アカネが間宮に首を向ける。目線が合った間宮は、咄嗟に首ごと視線を逸らした。

間宮「えっ、えと」
「な、なんか、今日のく、九頭鬼さん」
 おどおどチラチラとアカネの顔色を窺いながら言葉を接ぐ間宮。


間宮「寂しそうに、み、見えて」
 意外な間宮からの言葉に目を丸くして静かに驚くアカネ。


アカネ「――なんでそうなるの?」
「というか、いつも私のことどう見えてるわけ?」
間宮「あぁ! いっ、いや、いやいや! ただちょ、ちょっと……い、いつもより、おと、大人しいなって」

 肩をすぼめ、慌ててアカネから距離を取るネネ。

アカネ「猛獣か私は!」
ネネ「ひっ、ひぃ! ごめ、ごめんなさいごめんなさい!」アカネの半歩後ろに戻る。


アカネ「てかアンタなんでいつもそんな――」
ネネ「マジウケんよそれ!」飛んできたネネの声に、視線を上げるアカネ。


 視線の先にいたのはソウイチロウとネネの2人。楽しそうに談笑している。
 ネネが笑いながらソウイチロウの腕を叩く。

間宮「さっ、最近、あの2人、なっ、なか、いいですよね……」
 2人を見ながら呟く間宮に対し黙っているアカネ。

間宮「やっ、やっぱり、羽鳥さん、も、田中、くんのこと……」
「も、モテます、もんね、彼」

 さっきから全く言葉を発しないアカネに顔を向ける間宮。「く、九頭鬼、さん?」

アカネ「――あっ、ああ、ごめん」間宮の声かけに意識を戻す。

間宮「どっ、どうかした、んですか?」
アカネ「別に。なんでもない」言いながらすぐ傍の曲がり角を曲がっていく。

 アカネの背中を黙って見守る間宮。

間宮「もっ、もしかして、くずっ、九頭鬼さんも、その……田中、くん、を?」
 背中にかかるその声に反応して歩を止めるアカネ。


アカネ「キショいこと言うな」
 振り返ったその表情は冷めきっていた。


〇高校・地学室
 第一校舎4階の廊下。窓際に立ち、対面の第二校舎のアカネと間宮を見つけるソウイチロウ。「九頭鬼」

ネネ「イッチ~こっちこっち!」
 一番奥の教室、地学室の扉を開けながら手を振っているネネ。

 招かれるまま教室内に入るソウイチロウ。
ソウイチロウ「誰もいないな」
ネネ「授業ないの確認済みダシ♪」
 室内を見回すソウイチロウの後に入っているネネ。

ソウイチロウ「それで、話ってのはなんだ」
 教室出入口に向けて振り返るソウイチロウ。

ソウイチロウ「羽鳥」
 ネネは含みのある笑みを浮かべ、戸の前で黙っている。


 カッ――チャン。そして後ろ手で静かにカギを閉めた。

〇高校・中庭
アカネ「くそッ!!」
 中庭の隅にある共同ゴミ捨て場。そこに袋詰めされたゴミが放られる。

アカネ「後藤のヤツ、完全に私をパシリって思ってるな」
 忌々しいといった感じでゴミを睨めつける。

 ガン! 力任せに蓋を閉める。

アカネ(なんか、さっきからずっとイライラしてるな、私)
 蓋に手を置いたまま俯き、自身の影を見つめるアカネ。

アカネ(なにをムカつくことがあるわけ)
(あんなの今までと同じ光景でしょ、いつもと変わんない)
 廊下でのネネとソウイチロウの場面をフラッシュバックする。

アカネ(――なのに、なんで今日に限ってこんな)
 ぐぐっ……! と蓋を握る手に自然と力が入る。


※アカネの空想・ネネとソウイチロウがイチャついてる。
ネネ『えぇ~そんなん決まってんジャン』

 ネネ、ソウイチロウの腕に両腕を回して顔をくっつけ、挑発的な表情でこちらを見る。


ネネ『くずきちが、田中くんのこと、ラブ』
『だ・か・ら♪』


※現実に戻る。


アカネ「あるかァァァァ!!」
 バァン! 真っ赤にした顔を上げて蓋を叩く。


アカネ「あんなっ、なにも知らないで!」
 ゴミ箱を蹴りまくるアカネ。

「デレデレとマヌケな顔したヤツ、なんか!」
 ソウイチロウの顔。いつもと変わらない無の表情。

アカネ「死ね!」ベコン! 追加で蹴る。

 共同のゴミ箱はいつの間にかベコベコに凹み、中からゴミが散乱してる。

 ぜえぜえと肩で息をしながら散乱したゴミを睨むアカネ。
アカネ「そうだ、あんなヤツ、羽鳥にデレデレしながら刺されてしまえばいい!」


アカネ「死ねェェェェ!! 田中ァァァァ!!」
 アカネが叫ぶ、同時。
 ドシャァァン!! 背後で何か大きなものが落ちた。


 振り返るアカネ。
 衝撃的な光景に目を剥いた。

アカネ「田中!!」
 血まみれで腕や足が曲がったソウイチロウが地面に倒れている。

 近寄り、ソウイチロウを見下ろすアカネ。
アカネ(なんで、まさか、ほんとに……)
羽鳥アイツいったい――)

 ソウイチロウ、口が微かに動いている。

 咄嗟にその場に屈み呼吸を確認するアカネ。
アカネ(っ! まだ息がある)

 ソウイチロウに手をゆっくり伸ばす。
(なら保健室に連れてけば、まだなんとか……)

(――って)

アカネ(なにやってんだ私)
 咄嗟に伸ばしかけた手を引っ込める。
アカネ(どう考えたって見捨てるでしょ)
(それがくノ一としての正解)

 満身創痍、苦しそうなソウイチロウ。
アカネ(でも――)

ソウイチロウ『――ああ、俺は九頭鬼を信じる』
 あの日のことを思い出す。


 1人葛藤しているアカネ。
 それを2階の連絡通路の窓から見ている人影が1つ。
間宮「…………」
 間宮の眼が眼下のアカネの苦悶の表情を捉える。

 カリカリカリカリカリカリ!!!!
 突然極端な猫背になり、手に持ったバインダーにペンを高速で走らせた。

 紙面には、アカネの写真が載った書類。
 様々な項目に点数を付け、備考欄にびっしりと補足を書いている。


 はらっ。その紙面上に間宮の前髪が落ちた。
 「――――」しばしその髪の毛を眺める。


 眼鏡を外す。
間宮「九頭鬼アカネ」

間宮「女性、赤髪、双髪、角飾り、確認」
 ポケットからカチューシャとモノクルを取り出す。

間宮「第1要調査案件指定を確認」
 前髪を上げてカチューシャを付ける。
「対象の接触を確認」
「全項目の完遂を確認――よって」


ハンゾウ「これより、異端査定を施行します」
 前髪を上げ、モノクル片手に見下げるその姿に、間宮の面影はない。


 ――『特殊隠密諜報機構・虚数番隊=“お庭組”』
 『第三次席・間宮ハンゾウ』

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