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パレットは透明(仮題)②

卒業式の日、クラスのみんなと別れを惜しんだ後、郡司と2人で帰る美幸を見送って部室に向かう。
3人で帰ろうって言われたけど、横で郡司が苦い顔をしていた。
同じ方向だから、2人に追い付かないように少し時間を開けて帰りたい。
それに、誰もいない部室で、明日からは見ることの無いグランドを見ておきたいと思った。
少しの痛みと共に、ただ美幸を見つめていた3年間。その時間は、もう続く事はない。

薄いクリーム色のドアを開ける。

「おめでとうございます!」
思っていなかった下級生たちの声と笑顔。
私の好きな色、青色で作った花束が目の前に差し出されて、不覚にも泣きそうになる。
白いストックとかすみ草の中に、ブルースターやムーンダストが入っていて可愛い。
因みに、ブルースターの花言葉は「幸福な恋・信じ合う心」だ…。
みんなから似顔絵とメッセージをもらい、卒業するんだなぁと実感が湧いてくる。
でも、そんなみんなを目の前にしながらも、もう美幸と一緒に通えなくなる事に意識が向く。
…なんだか、申し訳ない。


そんな中
「先輩、絵の具1つください。」と荻ちゃん。
やっぱり少し面白い子だなと思いながら、
「いいよ。何色?」
「先輩の1番好きな色で。」
残り少ないウルトラマリンの代わりに、予備で持っていた新しいのを渡す
「そっちの、残り少ない方がイイです。」と言われて残り少ないのも一緒に渡す。

「またね。」と言って、3年間通った美術室を、
校舎を後にする。
途中からいつもの帰り道ではなく、川沿いの道を少し寄り道しながらゆっくり帰る。
小さな目印を右に、鬱蒼と茂る雑草を踏み分けて少し歩くと、急に小さく開けた場所に出る。
私の隠れ家だ。
真ん中にアーモンドの木があり、桜に似た白い花が今満開に咲いている。
桜になれない、アーモンドの花。
私みたいだ。
どんなに思っても、美幸の相方にはなれない。
今日みたいな日は、本当に悔しくて悲しくて。ただただ、涙が溢れる。
こんなに好きなのに、
こんなに側にいたのに、
こんなにこんなに苦しいのに。
私の想いは、美幸には届かない。
…ううん。届けないが正しい。

私は、美幸が居ないと笑って生きていける気がしない。
だから、当たって砕けるかもしれない怖さより、当たらず友達として側に居続ける事をえらんだ。

後悔がない訳じゃない。
いつも、やっぱり伝えようか…と揺れる。
色んな人がいて、色んな恋愛がある。
ちゃんと相手を大切にしているなら、どんな恋愛も間違いじゃないと思いたい。
ただ流れる涙をそのままに、ボンヤリとそんな事を思っていた。

私はいつも、
この場所に美幸への想いを置きに来る。また、明日からも、友達として美幸の側にいるために。

大学が始まる前に、2丁目に行ってみよう。遊びたい訳ではないし、美幸以外の人に触れたい訳でもない。
でも、好きな人に簡単に手を出せない位、汚れてみるのもいいのかもしれない。

青空に映える満開のアーモンドの花見ながら、そんな事を考えていた。


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